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三年生編 第105話(8) [小説]

僕はしのやんとみのんを手招きして呼んだ。

「プロジェクトをしっかり組み上げる調整役を務めてくれ
た篠崎くん。庭の実務を先頭に立って黙々と引っ張ってく
れたマイアーくん。他にも、手伝ってくれた友達がいっぱ
いいます。僕は、本当に友達に恵まれたんですよ」

ぱん!
ぱん!
手を掲げて、ハイタッチする。

「小熊さん」

「うん?」

「僕らのプロジェクト。男が多いと思いませんでした?」

「ああ。確かに」

「男でガーデニングに興味を持つ子は、今でもそんなに多
くないと思います」

「……ああ」

「僕らの多くは、ガーデニングをしたくてプロジェクトを
始めたんじゃないんです。中庭っていうキャンヴァスに何
か描けるかなあと思った表現手段が、たまたまガーデニン
グだった。そこには、最初から固定概念がなかったんです」

「固定概念か」

「ええ。みんなでなんかやろうぜって、そういうモチベー
ションが活かせるならなんでもよかった。だから、男も
いっぱいいるんですよ」

「ふうん」

「それは僕らの次の代、二年生までは受け継がれましたけ
ど、今の一年生たちは圧倒的に女の子ばかりになった」

小熊さんが、賑やかにぴーちくぱーちくやってる一年生た
ちをじっと見ている。

「そういう子たちには、また別のモチベーションが生まれ
るでしょう。僕は、それはそれでいいと思っています」

「なるほどな……」

「正直に言って」

「うむ」

「僕は、鈴ちゃんたちがコンテストに応募するって言った
時に、おやあっと思ったんですよね」

「どうしてだい?」

「中庭は、僕らぽんいちの生徒や先生のものですよ。外の
人に見せるためにあるわけじゃないです。少なくとも、僕
はそう考えてた。安楽校長にも最初に釘を刺されましたし」

「釘、か」

「はい。学校の中庭は学校のものであって、君が勝手にい
じれるものじゃない。それを勘違いしないで欲しいって」

「厳しいね」

「最初は僕一人でしたから、しょうがないです。でも、手
伝ってくれる友達が増えるに従って、庭でできることはど
んどん大きくなっていきました。それなのに僕らが暴走し
たら、中庭に手を入れる意味がなくなります」

「うん」

「みんなのため、と、僕らのため。そのバランスをどう
取っていくか。すっごく難しいです。だから、少なくとも
僕には外の目を意識する余裕はなかったですね」

しのやんとみのんが、揃って頷いた。

「そうだよな」

「うん」

「だけど、プロジェクトの形や活動内容には最初から枠が
はまっていません」

「ああ、それは紹介ビデオを見せてもらった時にすごいな
あと思ったんだよね」

「ありがとうございます。最初ボランティアで始めた活動
をきちんと部活に固める時、歴史がないんだから試行錯誤
でやろうって、そういうことにしたんですよ」

「なるほど」

「僕らの代がバージョンワンなら、鈴ちゃんたちの代が
バージョンツー。そうやって、今主役の子が一番がんばれ
る形を作っていけばいいかなって」

「ははは。おもしろいね」

「だから、鈴ちゃんたちがコンテストをバネにしてがんば
れるっていうなら、それはそれでいいんじゃない? そう
いう感じでした。そこも、固定概念に当てはめなかったん
です」

「そこも、か」

「はい」


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