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三年生編 第105話(9) [小説]

しのやんとみのんの肩を両腕でがっと抱き寄せる。

「キャンヴァスは毎年真っ白に戻る。そこにどんな絵を描
くのかには決まりを作りたくない。僕らが残したいのは庭
じゃない。中庭での活動を僕ら仕様に作り上げていく楽し
さなんです」

「なるほどなあ」

なになにって感じで、三年のメンバーがぞろぞろ集まって
きた。
みんなに問いかける。

「なあ。ここまで、ずーっと楽しかったよな?」

最初からぐふふ顔をしていたりんが、いきなり弾けた。

「ぎゃははははっ! もちろんさっ! お釣りなんか出な
いよ。一円も」

どわはははっ!
りんらしいなあ。全員で大爆笑。

「ま、こんな感じです」

「若いなあ」

小熊さんが、僕らをぐるっと見回して苦笑した。

「安楽さんが、苦労するわけだ」

「えー? 僕らも校長には苦労したから、お互い様ですよ
う」

「当たり前だ」

突然のそっと現れた校長が、僕らを見回してにやあっと
笑った。

「若いうちにうんと苦労せんと、ろくなやつにならん」

「ううう」

「まあ、そのろくでなしの最たるもんが私だがな」

どおおおっ! そこにいた全員で、力一杯笑った。
いやあ、さすが妖怪安楽校長、一枚上手でした。はい。

◇ ◇ ◇

小熊さんが安楽校長とじっくり話し込む態勢に入ったの
で、僕はこそっとそこを離れて鈴ちゃんを探した。

「あれー?」

大役を終えて、弾けてもいい鈴ちゃんの表情がどうにもシ
ブい。

「どしたー? 鈴ちゃん」

「あ、工藤先輩。あのー」

「うん?」

「せっかくの機会だから、他の学校の部長さんともいろい
ろ話をしたかったんですけど、微妙に避けられてしまっ
て……」

ま、そうだろなあ。

「そりゃあそうさ。僕が他校の部長さんでも、鈴ちゃん来
たら逃げる」

「ええー?」

「あはは! それは、鈴ちゃんだからじゃないよ。鈴ちゃ
んでなくて四方くんでも僕でも同じ。必ず避けられる」

「どうしてですかー?」

「審査委員長の小熊さんが余計なことを言ったからさ」

「ええっ?」

あまりに予想外だったんだろう。
鈴ちゃんが、口をぱっくり開けたまま固まってる。
僕もびっくりだよ。まさか審査委員長の口からあんなとん
でもセリフが飛び出してくるなんてさ。はあっ……。



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