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ちょっといっぷく その222 [付記]

 いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 本編を一つ進めましたが、お弁当がちっとも出来ていません。でもきりのいいところまでは進めたいので、少してぃくるを挟んでもう一話お届けしようと思います。

◇ ◇ ◇

 作中で使った植物のオリジナル画像への入れ替えは、大きな山を越しました。あと十数種というところまできていて、そのうち何種かは本年中に片がつくでしょう。

 本作を書き始めた頃は、手持ち画像のある植物種だけで組み立てることに息苦しさを感じていました。今と違ってそんなに画像のストックが多くなかったですから。なので、あえて縛りを外して書いていたんです。
 でも、十年の間に本編の進行速度ががくっと鈍った反面、画像のストックは順調に積み上がってきました。手持ちのものだけでも使いきれない量が確保できたなら、あえて他人の画像を購入してまで使う意味はなくなります。
 時の流れの中で、状況がじわじわと変わってきたということですね。その変化をちゃんと作品に反映させていかないと、創作がたこつぼに入ってしまいます。画像ネタの差し替えは、一番わかりやすい変化への対応なんです。

 今、一年生編の推敲をゆっくりやっていますが、推敲においても時代の変化を反映させていかなくてはなりません。ガラケーからスマホへ、携帯メールからラインへ、そのあたりの変更は今回しっかり済ませるつもりです。


◇ ◇ ◇


 昨年度までのてぃくるは順次noteに移動させています。
 note移植分のてぃくるは、こちらでご覧いただけます。

 note:マガジン『てぃくる』


◇ ◇ ◇


 定番化させるつもりでコマーシャル。

 アメブロの本館で十年以上にわたって書き続けて来た掌編シリーズ『えとわ』を電子書籍にして、アマゾンで公開しました。第1集だけ300円。残りは一集400円です。最新作は第26、27集です。第28集も今年前半に出版する予定です。
 kindke unlimitedを契約されている方は、全集無料でご覧いただけます。






◇ ◇ ◇

 さて、このあといくつかてぃくるでつないだあと、第112話をご覧いただく予定です。いっきにとっての最後の学園祭。その直前の、ちょっとしたひとこまということになると思います。


 ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽にコメントしてくださいませ。

 でわでわ。(^^)/




dsy.jpg

(デイジー)



包むのだろうか
開くのだろうか

守るのだろうか
届けるのだろうか



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三年生編 第111話(8) [小説]

僕にもしゃらにも、いや誰にだって自分の人生というもの
がある。
それは誰にも渡したくないし、自分で組み立てたい。

だけど、弓削さんのように強制的にその自由を取り上げら
れてしまった人もいるし、則弘さんのように自分から自由
を放り捨ててしまった人もいる。

じゃあ、そういう人たちは滅亡するの?

「そんなわきゃないよなあ」

開いた植物図鑑の一ページ。
僕が腕組みして見つめているのはツルボだ。
学校からの帰り道、僕が存在に気づいてぎょっとしてし
まったのはツルボの花だった。

存在感の乏しい、薄紫色のぼやっとした花穂。
よく見るとあちこちで咲いているんだけど、誰も目を留め
ない。

じゃあ、薄ぼんやりな花のツルボは、薄ぼんやりの存在?
違うんだ。
ぼんやりしているのは見かけだけで、ツルボ自体はあちこ
ちに生えてる。生命力の強いタフな草なんだよね。

他人に頼る、隷従するには、その分強い自我を削らないと
ならない。
でも、自我を全部削ってしまうと生きてはいけない。

弓削さんや則弘さんは、今生きている。
それは自我があることの現れだし、その自我が貧弱だとは
限らないんだ。

小さく折りたたまれてしまった自我が、少しずつ羽を広げ
つつある弓削さん。
伯母さんは弓削さんの変化をずっと見続けて来たからこ
そ、則弘さんの寄生虫擬態を見破ったんだろう。
あれは、単なる生存戦略に過ぎないと。

でも、生き方が寄生虫型に凝り固まってしまった則弘さん
に、穏やかな方法で転換を促すことは難しい。
タカや五条さんは、則弘さんから失われてしまったものを
ベースに再起策を組み立てた。
だからうまくいかなかったんだ。

生き延びるための手段として、「弱い」という擬態が使え
ない場所。
則弘さんをそこに追い込むのは残酷かもしれない
僕らに何の権利があって則弘さんを振り回すんだと責めら
れたら、返す言葉はない。

でも、則弘さんのために代わりに僕らに自我を削れと言わ
れたら、それは断固拒否する。
苦い苦い経験があるからね。

そう。僕は中学まで自我を削って対処してたんだ。
自我をむき出しにするのを我慢してたんだ。
そのせいでいじめられ、窮地に追い込まれた時は、転校と
いう逃避でリセットをかけてきたんだ。
それは則弘さんの卑屈な戦略と何も変わらない。

則弘さんと違うのは、自我を削るやり方で大けがしたって
いうこと。
逃避は最悪の戦略だというのを自覚したこと。

だからこそ、高校に入ってからの僕は目減りしちゃった自
我を全力で盛ってきた。
しゃらだって、きっとそうだろう。

「うん」

僕もしゃらも、取り戻した自分には満足してる。
自分の嫌な面に目が行っちゃうことはあっても、だからっ
て自分を無理に削ろうとは思わない。二度と……思わない。

則弘さんも、それに気づいてくれればなあと思う。

ぱたん。
植物図鑑を閉じて、携帯の待ち受けに目をやる。

則弘さんへの向き合い方をしくじったお父さんは、本当な
ら自立を手伝ってあげたいはずだ。
お母さんだってそうだろう。
でも、則弘さんが突然姿を消した時と今とでは、状況がま
るっきり違うんだ。

最後の砦だったおばあさんはもう亡くなってる。
お母さんは身体を壊し、借金を抱えたお父さんは店の切り
盛りに全力を注がなければならない。
小さな子供だったしゃらは、目の前に進路選択が迫ってい
る。自力で生きるための助走が始まってる。

則弘さんの明日を案じる前に、まず自分の明日を固めない
とならないんだ。
そのための時間と距離はどうしても要る。

「伯母さんの提案に、則弘さんがどう答えるかだなあ」

それはわからない。
でも伯母さんは、則弘さんとしゃらの家族とをきっちり切
り離しにかかるだろう。
則弘さんの再起云々より前に、僕らが伯母さんに提供され
るチャンスをしっかり活かすしかない。

「さて。自分のことに集中しよう」

何度振り払ってももやもや湧き上がるツルボの花のイメー
ジに苦笑しながら。

僕は英語の問題集を開いた。



turubo.jpg
今日の花:ツルボBarnardia japonica


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三年生編 第111話(7) [小説]

伯母さんが、筆記具を動かしている音が聞こえた。

「私の方で、則弘さんの身元引き受けをします。実家では
引き受けを拒否したと告げてね。彼は新しい寄生先が見つ
かったと喜ぶのかしら。冗談じゃないわ。誰が面倒ごとを
タダで引き受けるもんですか」

ごくり。

「海外で仕事をするオファーを出す。拒否するならそれで
も結構。ただし、御園さんのご実家に逃げ込もうとした場
合は、強制排除します」

ワンテンポ遅れて、伯母さんが怖いことを言った。

「どんな手段を使ってもね」

ぞわわ。

「あの、伯母さん。それ、しゃらに伝えてもいいですか?」

「もちろんよ。ご両親の了解も得ないとならない。私は手
伝えるけど、則弘さんの人生を好転させる責任は負えない
から」

「そうですよね」

「長岡さんの時もそうだったけど、私が提供できるのは機
会だけよ。あとは、当人が決めることね」

「わかりました」

◇ ◇ ◇

伯母さんとのやり取りが終わってすぐ、はらはらしながら
待っていただろうしゃらに電話をして、伯母さんの提案を
伝えた。

「あの……また迷惑かけることになっちゃうけど、いいの
かなあ」

「伯母さんは、気にしないよ。気にしてるのは、お兄さん
じゃなくて、しゃらの家の事情なんだ」

「すっごい助かる」

「で、伯母さんは怖いこと言ってたけど、僕はそこまで悲
観してないから」

「そうなの?」

「うん。だって、お兄さん、命根性だけはものすごく汚い
もの。そうでなかったら、今まで生き延びてないよ」

しゃらの苦笑が漏れてきた。

「そうかも」

「自分を削って小さい居場所に押し込むやり方は、もうで
きない。どんなに粗末でも、自分を盛らないとならない。
伯母さんがチャンスって考えてるのは、そこだけだと思う」

「なんとかなるのかな」

不安そうなしゃらの呟きが聞こえる。それを笑い飛ばす。

「あははっ。大丈夫でしょ。すぐになんとかしなさいって
いう話じゃないもの。伯母さんの真の狙いは、お兄さんと
しゃらたちとの距離を一定期間強制的に離すことだと思う
よ。どっちも不安定なら何もできない。お互い、立て直す
には時間がいるよってことじゃないかなあ」

「あ、そういうことか」

「うん。今は無理だよ。関係者全員微妙な時期だからさ。
タカのところだって子育て期なんだし」

「そうだよね……」

「ちゅうことで、伯母さんから連絡が行くと思うから、ど
う対応するか家族会議で固めといて」

「うん。ありがとう」

「じゃあ、また明日ー」

「はーい。おやすみー」

ぷつ。

「ふう……」



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三年生編 第111話(6) [小説]

「長岡さんのお兄さんも、相当ぐだぐだだったような」

「まあね。社会経験がなければ仕方ないわ。それまで見て
いた世界がうんと狭いんだから」

「そっか」

「向こうで、現地の子供たちに勉強を教える補助教員を
やってるの。医大を目指してたくらいだから、頭はいいん
でしょ」

「そっかあ。すげえ」

わからないもんだなあ。
とても立ち直れそうにない雰囲気だったけど……。

「自分が持っている能力。それに気づいて、伸ばそう、活
かそうという発想に転換できれば、必ず生き方が陽転する
の。環境を変えるっていうのは文字通り転機なんだよね」

「うん。僕の場合も高校進学が立ち直りのきっかけだった
から、そうかも。じゃあ、こっちに帰ってくるんですか?」

「いや、帰らないって言ってる。親に見捨てられた傷は浅
くないわ。自分のことを道具だとしか思わない人のところ
には戻りたくないでしょ。現地スタッフとはとても仲良く
やってるし、向こうに骨を埋める覚悟なんじゃないかな」

「すごいなあ」

「彼は寄生虫なんかじゃなかったからね」

伯母さんが、ふっと小さな溜息をついた。

「則弘さんのケースは彼よりずっと難しいの。彼は、自分
の能力を活かすという発想を一度もしたことがないんで
しょ。いつも他人からバカにされ、役立たずと蔑まれ、自
我をぎりぎりまで切り詰めて自分を小さくすることで、寄
生虫に擬態してきたの」

「擬態……かあ」

「そう。自分は役立たずだけど小さくて従順ですから、
どっかに置いといてくださいってね」

「擬態できてないですよね」

けっ。伯母さんが吐き捨てた。

「寄生虫に擬態する意味がどこにあるの?」

「そりゃそうだ」

「則弘さんが破滅的な勘違いをどうにかしない限り、結局
いつかは野垂れ死によ」

「うーん……」

話を元に戻す。

「で、伯母さんが隔離って言いましたけど、僕らにできる
んですか?」

「いつきくんたちには無理よ。私がやったげるわ」

「げ」

「簡単よ。長岡さんのケースと同じだからね」

「じゃあ、同じようにボランティアの補助ですか?」

「まーさーかー」

けっけっけっ。伯母さんがからからと嘲笑した。

「長岡さんのようにアタマがいいわけじゃない。体力もや
る気も倫理観も社会常識もどん底。肝心の自我すらまとも
に残っていない。そんな彼に何の取り柄があるっていう
の?」

「う……」

「アリのように働いてもらうわ。斃(たお)れたらすぐ他
の人で代えが効く単純労働者。体を動かしている限り食
いっぱぐれる心配はないけれど、楽しみも何もない、そう
いう仕事よ。それも、日本語の通じない海外の、ね」

「げ……」

「国内はダメよ。彼は逃げることだけ覚えてしまってる。
必ずどこかに逃げ込める場所がある……そう言って放浪を
続けてきたんでしょ」

「逃げ場所はもうないですよね」

「ないわ。でも、則弘さんは実家に逃げこむつもりよ。そ
うされたら全員共倒れになる。絶対に回避しないと」

「はい!」


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三年生編 第111話(5) [小説]

家に帰ってから、すぐ巴伯母さんに連絡を入れた。
弓削さんの時と違って、伯母さんの力で何とかして欲し
いっていう話じゃない分、僕は気楽だった。

弓削さんのケア絡みで則弘さんのこれまでの経緯は一通り
話をしてあるから、則弘さんがここに来てからのぐだぐだ
な生活と今回起こしたアクシデントを追加で説明する。

もちろん、伯母さんの中では穀潰しのくせに弓削さんに手
を出した則弘さんの印象は最低最悪のはずだけど。
だからって、放っておけとも言わないと思う。

「ということなんですけど」

「ふうん」

僕の話を聞き終わった伯母さんは、乾いた返事をした。

「まあ、正直言わせてもらえば、ああいう箸にも棒にもか
からないろくでなしはどっかで野垂れ死んでしまえばいい
と思うんだけど」

うう、容赦ないのう。

「そうは行かないでしょ」

お、さすが伯母さん!

「彼をなんとかしないと、御園さんの御宅が崩壊してしま
う」

「あ、そっちか」

「そりゃそうよ。五体満足で、役立たずだと言っても今働
けているなら、基本は自力でなんとかしなさい、なの」

「はい。僕もそう思うんですけど……」

「でも、図体はでかくても、中身が小学生じゃね」

「うう。中学生以下っすか」

「そう。親に反発したくても、そこまで心と体がまだ発達
していない小学生。そのものよ」

こほんと一つ咳払いした伯母さんが、淡々と話す。

「全てが彼のせいではないわ。気の毒な経緯があったこと
はわかる。でも年齢的に言い訳ができないし、則弘さんに
こびりついてしまった本能的な生き方はそうそう変えられ
ないでしょ

「本能的な生き方、かあ」

「そう。寄生虫としての生き方」

うん。僕もそう思う。
自力でなにか作り出すことをしないで、強い者にくっつい
ておこぼれをもらって生き延びる。
でも、本物の寄生虫ならともかく、人間は寄生虫にはなれ
ないよね。誰もがそんなやつは遠ざけようとするから。
善人だけじゃなくて、悪人ですら。
役立たずの寄生虫なんか要らないって。

僕の推測をなぞるようにして、伯母さんが丁寧に説明を足
した。

「則弘さんが本当の寄生虫なら、干すだけよ。実際、もう
干される寸前だし。それで寄生虫は駆除できる」

「ひええ。駆除っすか」

「でも、彼は寄生虫じゃない。人間だからね。寄生虫のよ
うに見えるのは生き方であって、彼の本質であるとは限ら
ないの」

「なるほど……」

「そうしたら、手段は一つしかないでしょ」

ごくり。核心だ。

「どういう?」

「寄生虫のふりができないところに隔離する」

「隔離かあ」

「ねえ、いつきくん」

「はい」

「以前、長岡さんて子のお兄さんが同じように万引きで捕
まったの、覚えてる?」

「あ、そうそう。伯母さんが、海外のボランティアスタッ
フにするって言ってましたよね。彼、あのあとどうなった
んですか?」

「ふふ」

伯母さんが含み笑いした。

「楽しそうに向こうで働いてるわよ」

「えええっ?」

それはびっくり。


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