三年生編 第111話(4) [小説]
「一文無し?」
「いや、それならまだわかるけど、払える分くらいのお金
は持ってたらしいの」
「はあ?」
「市場の中の店だから、タダで食べられると思ってたって
くだらない言い訳してっ!」
ありえんだろ。
これまでも、そこで食べたことあったんだろうし。
「そうか。確信犯だと思われて、警察に突き出されちゃっ
たんだ」
「そう。お母さんがショックで倒れちゃって」
しゃらの目に、見る見る涙が浮いた。
悲しいからじゃない。悔し涙。気持ちはよーくわかる。
しゃらは今、すごく強いストレスを抱えてる。
そりゃそうさ。
店は新装開店になったけど、借金は山盛りだし、病気のお
母さんの世話や家事もこなさなければならない。
自分の進学のこともある。
だからこそ少しでも明るい明日を想像したいし、そのため
に自分のできることには何でもトライしてる。
そのしゃらの必死の努力を、いかれぽんちの則弘さんが無
神経に踏んづけてるんだ。
何もしないくせに、迷惑だけかけ続ける疫病神。
あーあ……。
「そうだなあ」
僕は、あえてのんびり答えて間を取った。
「面倒見のいいタカと五条さんを怒らせたんだ。あの二人
以上にお兄さんを見てくれる人は誰もいないよ」
「うん」
「で」
「うん」
「タカが家からお兄さんを叩きだしたら、お兄さんはどこ
に来る?」
しゃらの顔が、怒りと恐怖で青ざめた。
「しゃらん家は、今いっぱいいっぱいだよね。寄生虫より
たちの悪いお兄さんを受け入れる余裕はこれっぽっちもな
い」
「当たり前よっ!」
「でも、警察沙汰になれば、身内が面倒見ろっていう話に
なっちゃうんだ。お兄さんの作戦は、そこでしょ」
「う」
しゃらは、則弘さんが見境なく食い逃げ事件を起こしたと
思ってたんだろう。そんなわきゃないよ。
「どうすれば……」
「アドバイザーが要る。五条さんよりもっと冷静に、僕ら
が取れる手段を教えてくれる人が」」
「そんな人、いる?」
「いるよ。巴伯母さんと森本先生さ。ただ、森本先生は未
成年専門。成人してるお兄さんへの対応策はまじめに考え
てくれないと思う」
「じゃあ……おばさまに?」
「巴伯母さんの力でなんとかしてくれって泣きつくわけ
じゃない。僕ら自身が未成年だからさ。僕らに足りない知
識や経験を教えてもらえば、何か手立てが探せるかもしれ
ないでしょ?」
「そっか。そうだね」
少しアタマが冷えたんだろう。
上目遣いでしゃらが僕の顔を見た。
「頼める?」
「すぐ連絡する。ここじゃ込み入った話をしにくいから、
僕の部屋で相談して、そのあと電話するから」
「助かる!」
「全部一人で抱え込まない方がいいよ。なんとかなるさ」
ほっとしたように肩を落としたしゃらが、俯いてぼそぼそ
謝った。
「ごめんね」
「いや、お互いさまでしょ。みんな、いろいろあるって」
「うん」
「明日は学校に来るんだろ?」
「行く。お母さんも少し落ち着いたし。まだがっくり来て
るみたいだけど」
「ったく、親不孝もいいとこだよな」
また頭に血が上り始めたんだろう。
ぎりっと歯を噛み鳴らしたしゃらが、力一杯マットレスを
殴りつけた。
ばすん!
「お兄ちゃんのばかたれえええっ!」
「いや、それならまだわかるけど、払える分くらいのお金
は持ってたらしいの」
「はあ?」
「市場の中の店だから、タダで食べられると思ってたって
くだらない言い訳してっ!」
ありえんだろ。
これまでも、そこで食べたことあったんだろうし。
「そうか。確信犯だと思われて、警察に突き出されちゃっ
たんだ」
「そう。お母さんがショックで倒れちゃって」
しゃらの目に、見る見る涙が浮いた。
悲しいからじゃない。悔し涙。気持ちはよーくわかる。
しゃらは今、すごく強いストレスを抱えてる。
そりゃそうさ。
店は新装開店になったけど、借金は山盛りだし、病気のお
母さんの世話や家事もこなさなければならない。
自分の進学のこともある。
だからこそ少しでも明るい明日を想像したいし、そのため
に自分のできることには何でもトライしてる。
そのしゃらの必死の努力を、いかれぽんちの則弘さんが無
神経に踏んづけてるんだ。
何もしないくせに、迷惑だけかけ続ける疫病神。
あーあ……。
「そうだなあ」
僕は、あえてのんびり答えて間を取った。
「面倒見のいいタカと五条さんを怒らせたんだ。あの二人
以上にお兄さんを見てくれる人は誰もいないよ」
「うん」
「で」
「うん」
「タカが家からお兄さんを叩きだしたら、お兄さんはどこ
に来る?」
しゃらの顔が、怒りと恐怖で青ざめた。
「しゃらん家は、今いっぱいいっぱいだよね。寄生虫より
たちの悪いお兄さんを受け入れる余裕はこれっぽっちもな
い」
「当たり前よっ!」
「でも、警察沙汰になれば、身内が面倒見ろっていう話に
なっちゃうんだ。お兄さんの作戦は、そこでしょ」
「う」
しゃらは、則弘さんが見境なく食い逃げ事件を起こしたと
思ってたんだろう。そんなわきゃないよ。
「どうすれば……」
「アドバイザーが要る。五条さんよりもっと冷静に、僕ら
が取れる手段を教えてくれる人が」」
「そんな人、いる?」
「いるよ。巴伯母さんと森本先生さ。ただ、森本先生は未
成年専門。成人してるお兄さんへの対応策はまじめに考え
てくれないと思う」
「じゃあ……おばさまに?」
「巴伯母さんの力でなんとかしてくれって泣きつくわけ
じゃない。僕ら自身が未成年だからさ。僕らに足りない知
識や経験を教えてもらえば、何か手立てが探せるかもしれ
ないでしょ?」
「そっか。そうだね」
少しアタマが冷えたんだろう。
上目遣いでしゃらが僕の顔を見た。
「頼める?」
「すぐ連絡する。ここじゃ込み入った話をしにくいから、
僕の部屋で相談して、そのあと電話するから」
「助かる!」
「全部一人で抱え込まない方がいいよ。なんとかなるさ」
ほっとしたように肩を落としたしゃらが、俯いてぼそぼそ
謝った。
「ごめんね」
「いや、お互いさまでしょ。みんな、いろいろあるって」
「うん」
「明日は学校に来るんだろ?」
「行く。お母さんも少し落ち着いたし。まだがっくり来て
るみたいだけど」
「ったく、親不孝もいいとこだよな」
また頭に血が上り始めたんだろう。
ぎりっと歯を噛み鳴らしたしゃらが、力一杯マットレスを
殴りつけた。
ばすん!
「お兄ちゃんのばかたれえええっ!」
三年生編 第111話(3) [小説]
「いっきは、お兄ちゃんが魚市場で働いてることは知って
るよね」
「もちろん。タカが市場の知り合いを拝み倒してねじ込ん
でもらったって聞いてる……けど」
「そうなの。お兄ちゃん、全然ダメ」
「体力もやる気もない。指示待ちで指示されたことしかし
ない。空気も先も読まない。ないないないない、でしょ?」
「そう。タカが辛抱強くサポートしてくれてたんだけど、
お兄ちゃん自身がどうしようもなくやる気ないの。自分の
ことなのに、他人ごとみたいで」
「ああ、そうか。タカがとうとうぶち切れたんだな」
「タカだけじゃない。五条さんもなの」
「あーあ……」
思わず頭を抱えてしまう。
タカも五条さんも、短気なように見えて実はすごく辛抱強
いんだ。諦めない。努力するし、人にも努力を求める。
どん底を抜けるために自力ですごくがんばったから今の幸
せがある……それを実体験しているからね。
僕もしゃらもずっとばたばたもがいてきたから、タカや五
条さんの苦労はよくわかるし、二人も僕らのがんばりを
ちゃんと見てくれる。相性がいいんだ。
でも、則弘さんは逃亡生活の間にすごく辛い思いをしてい
るはずなのに、自分をましにしようというアクションを一
切しない。
弓削さんを連れてここに来た時、実家を頼れないことを
覚った則弘さんがこの世の終わりが来たような顔をしてた
のを見て、気の毒に思ったタカと五条さんが救いの手を差
し伸べた。
でも、その厚意に感謝するでも、自分を立て直すでもない。
タカの家の居候になることを恥とも思わず、ちゃっかり居
座ってる。
そう。
則弘さんは、そうやって生き延びてきたんだろう。
自分を最小にして、自我をぎりぎりまで削って、邪魔にな
らないから置いてくださいって。
でも、小さな子供じゃないんだ。
大のオトナがさあ、邪魔にならないわけないじゃん。
いつまでたってもぐだぐだのままで、ちっとも自分をまし
にしようとしない則弘さんの態度に、とうとう二人が匙を
投げたんだろう。
「でもさあ、あの二人のことだから、追い出すにしても受
け皿は用意するでしょ」
「そこよっ!」
拳を固めたしゃらが、ベッドのマットレスを力任せに殴り
つけた。
「お兄ちゃんね、盗みを働いたの」
「げええええっ!」
そ、それはいくらなんでも。
「盗みぃ?」
「大それたもんじゃないけど。情けないったらない!」
しゃらが一気にまくしたてる。
「市場の中に、従業員用の食堂があるの」
「うん」
「その食堂で昼ごはん食べて、お金払わないで帰ろうとし
たの」
「食い逃げ……って」
あまりの情けなさに、開いた口がふさがらなくなった。
るよね」
「もちろん。タカが市場の知り合いを拝み倒してねじ込ん
でもらったって聞いてる……けど」
「そうなの。お兄ちゃん、全然ダメ」
「体力もやる気もない。指示待ちで指示されたことしかし
ない。空気も先も読まない。ないないないない、でしょ?」
「そう。タカが辛抱強くサポートしてくれてたんだけど、
お兄ちゃん自身がどうしようもなくやる気ないの。自分の
ことなのに、他人ごとみたいで」
「ああ、そうか。タカがとうとうぶち切れたんだな」
「タカだけじゃない。五条さんもなの」
「あーあ……」
思わず頭を抱えてしまう。
タカも五条さんも、短気なように見えて実はすごく辛抱強
いんだ。諦めない。努力するし、人にも努力を求める。
どん底を抜けるために自力ですごくがんばったから今の幸
せがある……それを実体験しているからね。
僕もしゃらもずっとばたばたもがいてきたから、タカや五
条さんの苦労はよくわかるし、二人も僕らのがんばりを
ちゃんと見てくれる。相性がいいんだ。
でも、則弘さんは逃亡生活の間にすごく辛い思いをしてい
るはずなのに、自分をましにしようというアクションを一
切しない。
弓削さんを連れてここに来た時、実家を頼れないことを
覚った則弘さんがこの世の終わりが来たような顔をしてた
のを見て、気の毒に思ったタカと五条さんが救いの手を差
し伸べた。
でも、その厚意に感謝するでも、自分を立て直すでもない。
タカの家の居候になることを恥とも思わず、ちゃっかり居
座ってる。
そう。
則弘さんは、そうやって生き延びてきたんだろう。
自分を最小にして、自我をぎりぎりまで削って、邪魔にな
らないから置いてくださいって。
でも、小さな子供じゃないんだ。
大のオトナがさあ、邪魔にならないわけないじゃん。
いつまでたってもぐだぐだのままで、ちっとも自分をまし
にしようとしない則弘さんの態度に、とうとう二人が匙を
投げたんだろう。
「でもさあ、あの二人のことだから、追い出すにしても受
け皿は用意するでしょ」
「そこよっ!」
拳を固めたしゃらが、ベッドのマットレスを力任せに殴り
つけた。
「お兄ちゃんね、盗みを働いたの」
「げええええっ!」
そ、それはいくらなんでも。
「盗みぃ?」
「大それたもんじゃないけど。情けないったらない!」
しゃらが一気にまくしたてる。
「市場の中に、従業員用の食堂があるの」
「うん」
「その食堂で昼ごはん食べて、お金払わないで帰ろうとし
たの」
「食い逃げ……って」
あまりの情けなさに、開いた口がふさがらなくなった。
三年生編 第111話(2) [小説]
学園祭が近いから中庭を見ておきたかったけど、今日は
しょうがない。
日が落ちるのが早くなって来たなあと思いながら、ちゃり
をこぐ。
「ん?」
植え込みになにかぼやっとした気配を感じて、慌てて振り
返った。
目に入ったのはもやっと地味な花を上げている草。
一本だけじゃなくて、植え込みの合間にいくつも生えてる。
でも……それがなんだったか、ぱっと思い出せない。
「おっと、急がなきゃ」
記憶の端っこに花が映り込む。
しがみつくというより、映り込む。
それが気持ち悪いなあと思いながら、少し強めにペダルを
踏んだ。
◇ ◇ ◇
理髪店の方はまだ営業してるから、そっちから入るわけに
はいかない。
店舗の裏の勝手口に回って、インターホンのボタンを押す。
「うーい、しゃらー。大丈夫かあ」
ちょっと間を置いて、しゃらの返事が聞こえた。
「今、行く」
少なくとも、調子が悪いって感じの芯のない返事ではなかっ
た。いつも通りだ。つーことは……。
がちゃっと内鍵が外れる音がして、猛烈にぶすくれた顔の
しゃらがぐいっと顔を突き出した。
「やっぱりかあ……」
「なにが?」
「いや、しゃらが体調を崩したってえびちゃんが言ってた
けど、体調崩したのはお母さんの方だろ?」
「あたり」
しゃらが元気なのを確認してプリントを渡せば、僕の役割
は終わりだ。
でも、しゃらは猛烈なストレスを抱えている感じ。
それは吐き出させないとまずいだろう。
「何かあった?」
「あった」
「僕が聞いた方がいいかな」
「そうしてくれると助かる」
ご機嫌斜めなんて生易しいもんじゃない。直角だ。
覚悟しよう。
怒っているというより、頭から湯気を吹き出す勢いで、僕
の手首を掴んだしゃらがどすどすと二階に上がる。
僕を部屋に引きずりこんだしゃらは、しばらくベッドに腰
掛けたまま黙り込んだ。相当激しい怒りなんだろう。
しばらく怒りモード爆裂のしゃらを見ていなかったから、
思わず苦笑してしまう。
「何がおかしいの!」
「いや、しゃらが気持ちを抑え込めないくらいのことだか
ら、相当ヤバいことなんだろなあと思ってさ」
「激ヤバよっ!」
ぷっつん!
冷静に話をしようと思って我慢していたしゃらの堪忍袋の
緒が切れたらしい。
「おにいちゃんのばかたええええっ!!」
しゃらの絶叫が部屋にみっちり充満した。
やっぱりなあ。そうじゃないかと思ったんだ。
「お兄さん、何かやらかしたん?」
怒りで真っ赤になっているしゃらは、ぎりぎり歯を噛み鳴
らしてる。相当アタマに来たんだろう。
そのあと、巨大ダムが決壊したみたいな勢いで、どうしよ
うもなく情けないトラブルを一切合切何も隠さずぶちまか
した。
しょうがない。
日が落ちるのが早くなって来たなあと思いながら、ちゃり
をこぐ。
「ん?」
植え込みになにかぼやっとした気配を感じて、慌てて振り
返った。
目に入ったのはもやっと地味な花を上げている草。
一本だけじゃなくて、植え込みの合間にいくつも生えてる。
でも……それがなんだったか、ぱっと思い出せない。
「おっと、急がなきゃ」
記憶の端っこに花が映り込む。
しがみつくというより、映り込む。
それが気持ち悪いなあと思いながら、少し強めにペダルを
踏んだ。
◇ ◇ ◇
理髪店の方はまだ営業してるから、そっちから入るわけに
はいかない。
店舗の裏の勝手口に回って、インターホンのボタンを押す。
「うーい、しゃらー。大丈夫かあ」
ちょっと間を置いて、しゃらの返事が聞こえた。
「今、行く」
少なくとも、調子が悪いって感じの芯のない返事ではなかっ
た。いつも通りだ。つーことは……。
がちゃっと内鍵が外れる音がして、猛烈にぶすくれた顔の
しゃらがぐいっと顔を突き出した。
「やっぱりかあ……」
「なにが?」
「いや、しゃらが体調を崩したってえびちゃんが言ってた
けど、体調崩したのはお母さんの方だろ?」
「あたり」
しゃらが元気なのを確認してプリントを渡せば、僕の役割
は終わりだ。
でも、しゃらは猛烈なストレスを抱えている感じ。
それは吐き出させないとまずいだろう。
「何かあった?」
「あった」
「僕が聞いた方がいいかな」
「そうしてくれると助かる」
ご機嫌斜めなんて生易しいもんじゃない。直角だ。
覚悟しよう。
怒っているというより、頭から湯気を吹き出す勢いで、僕
の手首を掴んだしゃらがどすどすと二階に上がる。
僕を部屋に引きずりこんだしゃらは、しばらくベッドに腰
掛けたまま黙り込んだ。相当激しい怒りなんだろう。
しばらく怒りモード爆裂のしゃらを見ていなかったから、
思わず苦笑してしまう。
「何がおかしいの!」
「いや、しゃらが気持ちを抑え込めないくらいのことだか
ら、相当ヤバいことなんだろなあと思ってさ」
「激ヤバよっ!」
ぷっつん!
冷静に話をしようと思って我慢していたしゃらの堪忍袋の
緒が切れたらしい。
「おにいちゃんのばかたええええっ!!」
しゃらの絶叫が部屋にみっちり充満した。
やっぱりなあ。そうじゃないかと思ったんだ。
「お兄さん、何かやらかしたん?」
怒りで真っ赤になっているしゃらは、ぎりぎり歯を噛み鳴
らしてる。相当アタマに来たんだろう。
そのあと、巨大ダムが決壊したみたいな勢いで、どうしよ
うもなく情けないトラブルを一切合切何も隠さずぶちまか
した。
三年生編 第111話(1) [小説]
10月5日(月曜日)
「ぐぎぎ……」
いだい。はんぱなく、いだい。
ぎんにぐづうだ。
やっぱり、軽く体ほぐすくらいにしときゃよかった。
いきなりぶっ通しで長時間のスパーリングは無謀だった。
どんなにもやもやが溜まってたって言っても、あれはやり
過ぎだった。
とほほ。
「おい、いっき。どした?」
背後からヤスにばしんとどつかれて悶絶する。
「ぐ……お」
「は?」
「ちと、ぎづい」
「風邪でもひいたか?」
「その方がマシ。からだ……ばらばらになりそう」
僕が悶絶していたのを見ていたのか、立見がバカじゃない
のかって顔で見てる。
「いきなりフルコースをやらかしたんだろ」
「フルコースぅ?」
「トレーニング」
「はあっ?」
ヤスが絶句してる。
「おいおい、いくらいっきがスポーツセンスいいって言っ
ても、普段まともに基礎トレしてないのにフルコースはき
ついぞ」
「そ、その通りで。ございます」
わかっとるわ! ぐぎぎ。
ここんとこ机に向かってばかりで、筋肉ぶったるみきって
たからなあ。
机に突っ伏して悶絶していたら、違和感が。
「あれー?」
珍しい。まだしゃらが来てないな。
いつも予鈴がなるかなり前に学校に来てるんだ。
どうしたんだろ?
と、首を傾げている間に予鈴が鳴って、ホームルームに
なってしまった。
体調崩したとか? いや、それなら昨日の夜に電話かメー
ルで何かアクションがあったはず。
「おはようございます!」
軽やかに教室に入って来たえびちゃんは、ちらっと僕の顔
を見たあとで、事務的に言った。
「御園さん以外は、みんな揃ってるわね。御園さんは体調
を崩されて今日はお休みだそうです」
いや……違うな。
風邪引いたとか腹を壊したとかなら、僕にそう言うはず。
家で何かあったと見た。
体調を崩したのはしゃらじゃなくて、お母さんの方じゃな
いだろうか。
帰りに家に寄って、様子を見てこよう。
◇ ◇ ◇
放課後職員室に寄って、えびちゃんからしゃら用のプリン
トとか配布物をまとめて受け取る。
「引っ越しがあったから、疲れが出たのかしらね」
「そうかもしれません」
えびちゃんは、スリムだけど体力だけはあるしゃらがぽん
と休んだのが心配だったんだろう。
本当にしゃらが体調を崩していると思ってる。
そう思ってくれてた方がいい。
「じゃあ、配布物渡すついでに様子見てきます」
「よろしくね」
「はい」
「ぐぎぎ……」
いだい。はんぱなく、いだい。
ぎんにぐづうだ。
やっぱり、軽く体ほぐすくらいにしときゃよかった。
いきなりぶっ通しで長時間のスパーリングは無謀だった。
どんなにもやもやが溜まってたって言っても、あれはやり
過ぎだった。
とほほ。
「おい、いっき。どした?」
背後からヤスにばしんとどつかれて悶絶する。
「ぐ……お」
「は?」
「ちと、ぎづい」
「風邪でもひいたか?」
「その方がマシ。からだ……ばらばらになりそう」
僕が悶絶していたのを見ていたのか、立見がバカじゃない
のかって顔で見てる。
「いきなりフルコースをやらかしたんだろ」
「フルコースぅ?」
「トレーニング」
「はあっ?」
ヤスが絶句してる。
「おいおい、いくらいっきがスポーツセンスいいって言っ
ても、普段まともに基礎トレしてないのにフルコースはき
ついぞ」
「そ、その通りで。ございます」
わかっとるわ! ぐぎぎ。
ここんとこ机に向かってばかりで、筋肉ぶったるみきって
たからなあ。
机に突っ伏して悶絶していたら、違和感が。
「あれー?」
珍しい。まだしゃらが来てないな。
いつも予鈴がなるかなり前に学校に来てるんだ。
どうしたんだろ?
と、首を傾げている間に予鈴が鳴って、ホームルームに
なってしまった。
体調崩したとか? いや、それなら昨日の夜に電話かメー
ルで何かアクションがあったはず。
「おはようございます!」
軽やかに教室に入って来たえびちゃんは、ちらっと僕の顔
を見たあとで、事務的に言った。
「御園さん以外は、みんな揃ってるわね。御園さんは体調
を崩されて今日はお休みだそうです」
いや……違うな。
風邪引いたとか腹を壊したとかなら、僕にそう言うはず。
家で何かあったと見た。
体調を崩したのはしゃらじゃなくて、お母さんの方じゃな
いだろうか。
帰りに家に寄って、様子を見てこよう。
◇ ◇ ◇
放課後職員室に寄って、えびちゃんからしゃら用のプリン
トとか配布物をまとめて受け取る。
「引っ越しがあったから、疲れが出たのかしらね」
「そうかもしれません」
えびちゃんは、スリムだけど体力だけはあるしゃらがぽん
と休んだのが心配だったんだろう。
本当にしゃらが体調を崩していると思ってる。
そう思ってくれてた方がいい。
「じゃあ、配布物渡すついでに様子見てきます」
「よろしくね」
「はい」
ちょっといっぷく その221 [付記]
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
えとわで少し暖気運転したところで、本編を一話だけ進めます。
目の前に迫った最後の学園祭の熱気にどうにも乗り切れない不完全燃焼のいっき。元プロボクサーの矢野さんにがっつり気合いを入れてもらったものの、どうにもエンジンがかかりません。
そのもやもやがちっとも解消しないのに、とんでもなく情けないトラブルまでトッピングされてしまいます。それが第111話になります。
ぶつくさ言いながら対処に走り回ることになるいっきですが……。まあ、あとは読んでいただければ。はい。
◇ ◇ ◇
画像の差し替えは、思ったよりも順調に進みました。購入画像を使っていた植物種の三分の二ほどを別なものに入れ替え、それに合わせて文章も補正しています。どうしても使いたい植物があるので、自前の画像を使っている植物も一部入れ替えています。
また、仮置きだったしょぼい画像をいくらかましなものに差し替え、全体にクオリティアップをはかりました。文章のブラッシュアップと同時に、まだまだ改善を続けるつもりです。
◇ ◇ ◇
昨年度までのてぃくるは順次noteに移動させています。
note移植分のてぃくるは、こちらでご覧いただけます。
note:マガジン『てぃくる』
◇ ◇ ◇
定番化させるつもりでコマーシャル。
アメブロの本館で十年以上にわたって書き続けて来た掌編シリーズ『えとわ』を電子書籍にして、アマゾンで公開しました。第1集だけ300円。残りは一集400円です。最新作は第26、27集です。第28集も今年前半に出版する予定です。
kindke unlimitedを契約されている方は、全集無料でご覧いただけます。
◇ ◇ ◇
ブラッシュアップが軌道に乗りましたので、そろそろ本腰入れて本編執筆をやらないと……。ううう。(^^;;
ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽にコメントしてくださいませ。
でわでわ。(^^)/
えとわで少し暖気運転したところで、本編を一話だけ進めます。
目の前に迫った最後の学園祭の熱気にどうにも乗り切れない不完全燃焼のいっき。元プロボクサーの矢野さんにがっつり気合いを入れてもらったものの、どうにもエンジンがかかりません。
そのもやもやがちっとも解消しないのに、とんでもなく情けないトラブルまでトッピングされてしまいます。それが第111話になります。
ぶつくさ言いながら対処に走り回ることになるいっきですが……。まあ、あとは読んでいただければ。はい。
◇ ◇ ◇
画像の差し替えは、思ったよりも順調に進みました。購入画像を使っていた植物種の三分の二ほどを別なものに入れ替え、それに合わせて文章も補正しています。どうしても使いたい植物があるので、自前の画像を使っている植物も一部入れ替えています。
また、仮置きだったしょぼい画像をいくらかましなものに差し替え、全体にクオリティアップをはかりました。文章のブラッシュアップと同時に、まだまだ改善を続けるつもりです。
◇ ◇ ◇
昨年度までのてぃくるは順次noteに移動させています。
note移植分のてぃくるは、こちらでご覧いただけます。
note:マガジン『てぃくる』
◇ ◇ ◇
定番化させるつもりでコマーシャル。
アメブロの本館で十年以上にわたって書き続けて来た掌編シリーズ『えとわ』を電子書籍にして、アマゾンで公開しました。第1集だけ300円。残りは一集400円です。最新作は第26、27集です。第28集も今年前半に出版する予定です。
kindke unlimitedを契約されている方は、全集無料でご覧いただけます。
◇ ◇ ◇
ブラッシュアップが軌道に乗りましたので、そろそろ本腰入れて本編執筆をやらないと……。ううう。(^^;;
ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽にコメントしてくださいませ。
でわでわ。(^^)/
(ネメシア)
白い花が いつも白いとは限らない
翳る日差しに 色を着せられ
不承不承 淡く染まる
彼女は このあと闇に塗りこめられることを
まだ 知らない
白い花が いつも白いとは限らない
翳る日差しに 色を着せられ
不承不承 淡く染まる
彼女は このあと闇に塗りこめられることを
まだ 知らない
ちょっといっぷく その220 [付記]
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
年が改まって最初のいっぷくですね。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
現在、一年生編の文章を全面的に見直しています。最初にがががっと勢いで書いた時の雰囲気は残しつつ、文章を段落にまとめて縦書きに耐える様式に整える……言うは易く行うは難しで、かなりハードです。まあ……ぼちぼちやります。
◇ ◇ ◇
電子本にするか紙本にするかはともかく、公のものをこさえるとなると面倒なのが著作権。文章はひゃっぱー自前なのでいいんですが、画像はそうは行きません。画像サイトでちゃんと購入したものであっても、やっぱり自分の画像でないのは気分的にすっきりしないんです。
で、四十種類ほどあった購入画像を減らす目的で、植物種を自前画像でまかなえるものに入れ替え、購入画像の使用量を半分以下に減らしました。追加で撮れそうなものもありますから、最終的にはほぼ自前の画像で行けそうなんですが……。
季節性も考えなければならないですし、文脈との絡みでどうしても動かせないものもあるので、なかなか思うようにはいきません。少しずつ調整するしかないようです。
◇ ◇ ◇
今年も、昨年度までのてぃくるをnoteに移動させていきます。
note移植分のてぃくるは、こちらでご覧いただけます。
note:マガジン『てぃくる』
◇ ◇ ◇
定番化させるつもりでコマーシャル。
アメブロの本館で十年以上にわたって書き続けて来た掌編シリーズ『えとわ』を電子書籍にして、アマゾンで公開しました。第1集だけ300円。残りは一集400円です。最新作は第26、27集です。第28集も今年前半に出版する予定です。
kindke unlimitedを契約されている方は、全集無料でご覧いただけます。
◇ ◇ ◇
さて、このあといくつかてぃくるでつないだあと、第111話をご覧いただく予定です。
本年もかたつむりのような進行速度になると思いますが、よろしくお付き合いください。
ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽にコメントしてくださいませ。
でわでわ。(^^)/
「寒い日に、寒い光景を撮って、何が楽しいんだ?」
「楽しくはないんだろ。寒い俺たち以外に被写体が思いつかないだけで」
「寒い感性だな……」
年が改まって最初のいっぷくですね。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
現在、一年生編の文章を全面的に見直しています。最初にがががっと勢いで書いた時の雰囲気は残しつつ、文章を段落にまとめて縦書きに耐える様式に整える……言うは易く行うは難しで、かなりハードです。まあ……ぼちぼちやります。
◇ ◇ ◇
電子本にするか紙本にするかはともかく、公のものをこさえるとなると面倒なのが著作権。文章はひゃっぱー自前なのでいいんですが、画像はそうは行きません。画像サイトでちゃんと購入したものであっても、やっぱり自分の画像でないのは気分的にすっきりしないんです。
で、四十種類ほどあった購入画像を減らす目的で、植物種を自前画像でまかなえるものに入れ替え、購入画像の使用量を半分以下に減らしました。追加で撮れそうなものもありますから、最終的にはほぼ自前の画像で行けそうなんですが……。
季節性も考えなければならないですし、文脈との絡みでどうしても動かせないものもあるので、なかなか思うようにはいきません。少しずつ調整するしかないようです。
◇ ◇ ◇
今年も、昨年度までのてぃくるをnoteに移動させていきます。
note移植分のてぃくるは、こちらでご覧いただけます。
note:マガジン『てぃくる』
◇ ◇ ◇
定番化させるつもりでコマーシャル。
アメブロの本館で十年以上にわたって書き続けて来た掌編シリーズ『えとわ』を電子書籍にして、アマゾンで公開しました。第1集だけ300円。残りは一集400円です。最新作は第26、27集です。第28集も今年前半に出版する予定です。
kindke unlimitedを契約されている方は、全集無料でご覧いただけます。
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さて、このあといくつかてぃくるでつないだあと、第111話をご覧いただく予定です。
本年もかたつむりのような進行速度になると思いますが、よろしくお付き合いください。
ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽にコメントしてくださいませ。
でわでわ。(^^)/
「寒い日に、寒い光景を撮って、何が楽しいんだ?」
「楽しくはないんだろ。寒い俺たち以外に被写体が思いつかないだけで」
「寒い感性だな……」
うっさいわ! (^^;;