SSブログ

三年生編 第111話(7) [小説]

伯母さんが、筆記具を動かしている音が聞こえた。

「私の方で、則弘さんの身元引き受けをします。実家では
引き受けを拒否したと告げてね。彼は新しい寄生先が見つ
かったと喜ぶのかしら。冗談じゃないわ。誰が面倒ごとを
タダで引き受けるもんですか」

ごくり。

「海外で仕事をするオファーを出す。拒否するならそれで
も結構。ただし、御園さんのご実家に逃げ込もうとした場
合は、強制排除します」

ワンテンポ遅れて、伯母さんが怖いことを言った。

「どんな手段を使ってもね」

ぞわわ。

「あの、伯母さん。それ、しゃらに伝えてもいいですか?」

「もちろんよ。ご両親の了解も得ないとならない。私は手
伝えるけど、則弘さんの人生を好転させる責任は負えない
から」

「そうですよね」

「長岡さんの時もそうだったけど、私が提供できるのは機
会だけよ。あとは、当人が決めることね」

「わかりました」

◇ ◇ ◇

伯母さんとのやり取りが終わってすぐ、はらはらしながら
待っていただろうしゃらに電話をして、伯母さんの提案を
伝えた。

「あの……また迷惑かけることになっちゃうけど、いいの
かなあ」

「伯母さんは、気にしないよ。気にしてるのは、お兄さん
じゃなくて、しゃらの家の事情なんだ」

「すっごい助かる」

「で、伯母さんは怖いこと言ってたけど、僕はそこまで悲
観してないから」

「そうなの?」

「うん。だって、お兄さん、命根性だけはものすごく汚い
もの。そうでなかったら、今まで生き延びてないよ」

しゃらの苦笑が漏れてきた。

「そうかも」

「自分を削って小さい居場所に押し込むやり方は、もうで
きない。どんなに粗末でも、自分を盛らないとならない。
伯母さんがチャンスって考えてるのは、そこだけだと思う」

「なんとかなるのかな」

不安そうなしゃらの呟きが聞こえる。それを笑い飛ばす。

「あははっ。大丈夫でしょ。すぐになんとかしなさいって
いう話じゃないもの。伯母さんの真の狙いは、お兄さんと
しゃらたちとの距離を一定期間強制的に離すことだと思う
よ。どっちも不安定なら何もできない。お互い、立て直す
には時間がいるよってことじゃないかなあ」

「あ、そういうことか」

「うん。今は無理だよ。関係者全員微妙な時期だからさ。
タカのところだって子育て期なんだし」

「そうだよね……」

「ちゅうことで、伯母さんから連絡が行くと思うから、ど
う対応するか家族会議で固めといて」

「うん。ありがとう」

「じゃあ、また明日ー」

「はーい。おやすみー」

ぷつ。

「ふう……」



nice!(45)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー