あらすじについて [あらすじ]
<<あらすじについて>>
非常に長い話なので、一応自分自身の筋立ての整理も兼ねて
年度ごとにあらすじを書き残しておこうと思います。
当然、まだ本編を読まれていない方にはネタばれがいっぱい
出てきてしまいますので、それは予めご承知置きください。
また、全部の話を網羅しているわけでもありませんし、人物
の記載は本編での登場とは前後する場合もあります。
あくまで、話を追う上での補助と受け止めていただければ幸
いです。
これから読まれる方のために、各編終了時の位置ではなく、
日付を戻して前書きの直後に置きます。
サイドメニューのところから辿れるようにいたしますので、
必要に応じてご利用ください。
二年生編 あらすじ(10) [あらすじ]
二年生編 第百四十三話〜第百五十六話 二学期後半編 学期末まで
学園祭、修学旅行と言った大きなイベントが終わり、いっ
きたちは徐々に受験に意識が向き始める。模試の後、寿庵に
寄ったいっきとしゃらは、店が閉まっていたことにがっかり
するが、店から出てきた長岡に相談を持ちかけられる。自分
を見捨てた親が家に戻って来いと言っている、と。
それは娘を案じたからではなく、親から溺愛されていた兄
が医大受験に失敗して引きこもりになったため、後継ぎを娘
に切り替えようという呆れた理由だった。いっきたちは五条
の助力を頼むことにし、長岡を励ます。
中庭のクリスマス用ディスプレイが学校側の許可を得られ
ず、気落ちしていた後輩たち。いっきは、校長との交渉を工
夫しろと知恵を付ける。校長との再交渉は無事まとまるが、
生徒会長の大村がプロジェクトの切れ者四方を生徒会の後継
者として狙っていることを知り、プロジェクトは生徒会役員
の養殖場じゃないとむくれる。
中庭の飾り付け作業の後、四方に大村からのアプローチの
有無を確かめるいっき。四方は、しっかり自分の姿勢を示し
て誘いを断っていた。
作業の後でリドルに寄ったいっきとしゃらは、進路の方針
を仮決めしたことを互いに話し合う。しゃらはアガチス女子
短大の栄養科で特待狙い。いっきは県立大の生物学部。しか
し、それらはまだあくまでも仮置きだった。
十二月に入り、学校は進路絡みの面談と期末試験が近くなっ
てざわついてくる。息抜きに寿庵に立ち寄ったいっきとしゃ
らだったが、そこは一触即発の状態になっていた。
娘を強制的に連れ戻しに来た長岡の両親が、寿庵を貧乏人
の乞食商売だとこき下ろしていたのだ。はらはらするいっき
たちだったが、長岡の助っ人として登場した五条が、父親の
裏の顔を徹底的に曝し上げて撃退する。五条の剛腕に感心し
た糸井美郷だったが、五条はそんなのは何の自慢にもならな
いと、親の無理解を嘆いた。
クリスマスに向けての予定も徐々に動き出す中、尾花沢か
ら久しぶりに電話があり、そこで宇戸野と半田の間に女児
(みどり)が誕生したことを知らされて、いっきは大喜びす
る。しかし、同時に尾花沢の社で働いていた近田が再独立し
たことを知り、複雑な気持になる。いっきは、尾花沢に秀峯
の顛末を語り、墨尾に新しい鋏を作ってもらったことを知ら
せた。尾花沢は、墨尾の鋏に強い関心を示した。
期末試験が近付き、直前対策で追い込むいっきに、朗報が。
叔父であるリック・マクブライトの結婚式の招待状が工藤家
に届いたのだ。その招待状を見ながら、幸せの意味を話し合
ういっきたち。
期末試験直前、クラスメートと進路の話をすることも増え
てきた。今一つ気乗りしないいっきだが、帰路で出会った
もっくん(中塚元広)が、数学とは全く関係のない別大学を
受験し直すことを知って仰天する。その理由を聞いたいっき
としゃらに、もっくんは謎かけのようなセリフを言い残す。
国文系、滑り止め、お笑い……はて?
期末試験が終わってほっとしたいっきだったが、とんでも
ない騒動が待ち構えていた。受験に関して実生の通う中学で
父兄説明会があり、市内の高校の再編に絡んで受験戦線に大
きな影響があるだろうというアナウンスが出たのだ。ぽんい
ちの受験倍率や難易度が上がる予想を聞かされて、意気消沈
する実生。母親は、実生の意思を確かめ、ぽんいちにこだわ
るなら出来ることをしなさいとどやした。
京都でいっきに秀峯を預けた道具屋(喜華堂)に供養の終
了を報告したいっきは、店主の老人が交通事故に遭ったこと
を知って肝を冷やした。電話を切ったいっきのところに、修
学旅行の時に神戸で知り合った女性カメラマン小野からいっ
きとしゃらのポートレートのパネルが届けられた。大喜びす
る二人に向かって、母親が言った。すごく自然になった、無
理をしなくなった、と。
試験明けの休日。桂坂にバイトに出かけたいっきは、館長
の釘谷が孫娘の校倉に自立を迫っていることを知った。文句
を言うなら家を出て自活しろ、出来ないなら文句を言うな、
と。いっきは、それはどちらも不可能だろうと危惧する。
翌日の日曜、フォルサにスカッシュの練習に出かけたいっ
きはインストラクターの大場と試合をし、充実したひと時を
過ごすが、その直後に橘社長に娘の穂積をかくまっていたこ
とを口汚く罵られてぶち切れる。相手を高校生だと蔑んで一
方的に恫喝する手口は、あなたが嫌っているヤクザそのもの
じゃないか! 反論出来ない橘を置き去りにして、いっきは
憤然と席を立った。
いっきと橘社長の衝突を知った伯母の巴は、完全にへたっ
てしまった穂積を交えて、いっきに経緯説明を求めた。いっ
きは穂積に向かって、本音を明かさない穂積の姿勢は橘社長
と同じでオトナのいいかっこしいだと断じる。穂積の退場後、
巴は自死を口にする穂積がおっかなくてしょうがないといっ
きにこぼした。いっきから橘社長との衝突を聞かされたしゃ
らも、気を落としてしまう。
週明け、進路面談に臨んだいっきは、斉藤から衝撃的な情
報を聞かされて唖然とする。沢渡校長が校則の改訂を画策し
ている、と。その中に風紀委員会の設立と交際禁止が盛り込
まれていることを聞かされたいっきは激怒する。
斎藤からの情報リークをクラス中に広げたいっきは、まだ
案に過ぎない新校則に正面から反対運動をするのは意固地な
校長を刺激して逆効果になると考え、水面下でそれを押し返
す方法を考えることにした。
すぐに校長との懇談に乗り込んだいっきは、校長の案を実
効がなく馬鹿げていると一蹴する。そして、校長の思案は大
きな矛盾をはらんでいる、それに気付いてくれと投げ掛けて
校長室を後にした。
数日後、矛盾にどうしても気付かないと漏らす沢渡校長。
いっきは、自主独立の意味を自ら問えと僕らに投げかけたの
は校長だ、その検証も何もしないうちに一方的に僕らからそ
れを取り上げるのかとこきおろした。じゃあ、どうすればい
いんだと突如逆ギレした校長に、いっきは他校の風紀委員会
の実例を示す。
放課後、しゃらと生徒会のじん(白井 仁)と共に再度の
懇談に臨んだいっきは、校長から新校則の適用に一定の試行
期間を確保するという譲歩を引き出す。さらに、校則改訂作
業に生徒会も加えるという校長の提案に、じんが実利を取っ
た。生徒会が学校に組み入れられるのは、自主独立に反する
ぞ。校長の皮肉に、じんは交渉窓口の確保の方が重要だと笑
顔で返した。
終業式を目前に控え、叔父リックの結婚式のためにいっき
の礼服を買いにいく工藤家の面々。いっきの母は、買い物を
早々に済ませたあと、いっきとしゃら、実生を伴ってフォト
スタジオに連れ込む。実生の盛装の写真を撮るためと思い込
んでいたいっきだったが、母親はいっきとしゃらに結婚式の
前撮りのような写真を撮らせる。慌てるいっき。
いっきは母に、なぜこんな写真を撮るのかと問い詰める。
母は、二人の仲が自立への焦りで壊れることを危惧している
ことを明かし、いつも未来思考でがんばって欲しい、あの写
真はその未来の一つの姿だと、二人を諭した。
その翌日、フォルサにスカッシュの練習に出かけたいっき
は、がらの悪い大学生たちのマナーの悪さをたしなめた年配
の男性が暴力を振るわれるのを見て、フォルサのスタッフと
警察に連絡する。駆け付けた五条は、ヤンキーをあっという
間に叩きのめして男性を助けたが、それは橘社長だった。
学生の暴行に対して被害届を出すという橘社長に、構わな
いが実効はないよと突き放す五条。逆恨みされて自分が再度
被害者にならないためにも、寛大な姿勢を見せた方がいいと
アドバイスしたが、激昂する橘社長にはその気遣いが届かな
かった。
帰宅したいっきのところに、加害者の大学生たちの所属す
る大学(来知大)から、謝罪の電話が掛かってきた。なぜ、
当事者自身がそうしないのだろう? 訝るいっきに、大学職
員の奥村が、改めての謝罪と説明を打診する。
そして終業式。校長から正式に校則改訂作業のアナウンス
があり、それが校長自身の発案ではなく、もっと上からの要
請であることを明かした。仰天するいっきたち。
帰り道、病院帰りの五条とばったり会ったいっきとしゃら
は、どこか具合が悪いのかと案ずるが、それがおめでたであ
ることを聞かされて大喜びする。帰宅したいっきは母に五条
の懐妊を伝えるが、母はそれを祝福しながらも本当の試練は
これから来ると案じた。
そして、来知大職員の奥村が謝罪のために工藤家を訪ねて
来た。いっきは、奥村から大学と高校とのシステムの違い、
学校側の対応方針の説明を受け、学生に下される処分が決し
て寛大なものではないことを知って納得する。
二年生編 あらすじ(9) [あらすじ]
二年生編 第百三十六話〜第百四十二話 二学期後半編 新潟旅行
修学旅行から帰ってきてすぐの日曜。いっきは、道具屋か
ら預かった二本と自分の持っていた秀峯の供養について、片
桐みえりに相談を持ちかけた。みえりは、父親に製造元の刀
匠に問い合わせるべきだと助言され、それをいっきに伝えた。
ただ送り付けるだけでなく、供養に立ち会おうと考えたいっ
きは、新潟の三条にある刀匠の家を訪ねることを思い付くが、
みえりはなぜかそれに乗り気で、同行すると言い出す。焼き
もち焼きのしゃらも旅行に誘ったみえりは、とまどういっき
たちをよそに一方的に段取りを進めた。慎重なみえりらしく
ない拙速な行動に、いっきは疑念を抱く。
いっきもしゃらも新潟行きへの両親の同意を取り付けるが、
みえりが同行する本当の目的が読めず、不安を抱いた。
旅行の届け出で担任の斉藤に突っ込まれたいっきだったが、
特殊事情を説明して了解を取り付ける。旅行中の当番の交代
を北尾に掛け合ったいっきは、北尾が通訳を目指すことを聞
いて驚くが、自分自身だけではなく周りを見ることが出来る
ようになった北尾の意識の広がりを高く評価する。
新潟旅行直前、盟友ばんこの浮かない顔に気付いたいっき
は、しゃらを交えて悩みの相談に乗る。てっきり療養中の母
親のことだと思っていたいっきだったが、ばんこの悩みは進
路に絡んだことだった。保育士を目指すばんこの志望校には
受験時にピアノの実技試験があり、独学ではそれをクリアす
るのが難しい、と。
いっきたちは、喫茶店リドルのウエイトレス佐竹美琴が音
大受験のためピアノを習っていたと言ったことを思い出し、
佐竹に相談を持ちかけた。佐竹の的確なアドバイスと助力の
申し出に、いっきたちは一安心する。
そして、いよいよ新潟への出発日が来た。待ち合わせ場所
に濃いメイクを施して現れたみえりを見て、いっきもしゃら
も強い胸騒ぎを覚えた。
新潟に向かう新幹線の車中で、いっきは京都で預かった秀
峯二本をみえりに見せるが、みえりはそれを強く忌避し、姿
を消していた秀峯が怨念塗れの物騒な鋏に変わり果てた理由
を、いっきとしゃらに推測してみせた。
三条に到着したいっきたちは、刀匠の弥富の家を訪ねるが、
その家が普通の住居であるのを見て拍子抜けする。そして、
三人の前に七代目宗喬こと弥富孝典、八代目宗規こと日浦準
規が相次いで現れる。八代目が弥富姓でないことに驚くいっ
きたちを奥の練武場に案内した宗喬は、弥富の刀匠としての
歴史を語り始めた。
日本刀の構造や作り方を説明した宗喬は、刀匠としては歴
史の浅い弥富家が、刀鍛冶として生き残るために特殊な刀の
作成を引き受けていたこと、その作刀には高い精神性が必要
なため継代を世襲にして来なかったことを明らかにした。さ
らに宗喬は、生活を安定させるために刃物製造の会社を興し
たと述べて、いっきたちを驚かせた。
技と精神を継げるものが弥富を名乗る。それを証明するか
のように、準規が自ら鍛えた刀を振るっていっきたちに試し
切りを見せた。食い入るようにそれを見つめるみえり。
宗喬の説明を聞き終えたいっきたちは母屋に戻ったが、そ
こではとんでもない異変が発生していた。部屋中に響き渡る
不気味な金属音。みえりの顔色が変わる。いっきが供養のた
めに持ち込んだ秀峯のうち、京都で預かった二本に取り憑い
ていた邪気が猛烈に膨れ上がり、実体化して災いを振りまく
寸前になっていたのだ。
家人を避難させ、符で必死に邪気を抑えようとするみえり
だったが、一人では抑え切れずいっきの助けを乞う。邪気の
猛圧に耐えながら、必死に押さえ込もうとするいっき。みえ
りとの連携でなんとか鋏の入った桐箱を符で封鎖することに
成功したが、みえりは応急措置に過ぎないと警告する。
鋏の邪気を甘く見ていた宗喬だったが、鋏を輩出した家と
しての責任を痛感し、鋏を鍛え直すと宣言して準規に祓いの
支度を命じた。宗喬と準規が鍛冶場の準備に追われる中、み
えりは鋏の邪気が嫉妬から来ることをいっきとしゃらに説明
した後、呪師としての心技体が整わない自分の弱さを吐露し
て意気消沈した。いっきはその姿を見て、強い違和感を覚え
た。弱さを認識していたからこそ、危機から逃げずに果敢に
行動してきたはずの先輩が、今さらなぜ?……と。
宗喬と準規は、邪気塗れの二本の鋏を全身全霊を注いで数
時間かけて鍛え直し、邪気を祓った。みえりは、その姿を凝
視し続けた。祓いが終わって、鋏がただの鉄片に戻ったこと
を確認した後、宗喬はいっきの持っていた秀峯の残骸を地金
にして、カスタムメードの剪定鋏を作ることを提案した。秀
峯を失うことに一抹の寂しさを覚えていたいっきは、その提
案を聞いて大喜びする。
祓いが無事に終わって、準規の実家での夕食会に招かれた
いっきたちは、準規が宗喬の会社で技術開発に携わることを
目指して新潟大工学部を受験しようとしていることを知る。
いっきは、将来構想がしっかりしている準規に強いコンプレ
クスを感じ、祓いが終わったにも関わらずみえりの緊
張が全く緩んでいないことにも強い不安を覚えた。
翌朝。前日以上にきっちり白塗りメイクを施したみえりを
見て、いっきの不安と緊張が高まる。宗喬が所用で家を離れ
たあと、入れ替わって現れた準規に、みえりが居合いの試技
を見たいとねだった。練武堂の前で真剣による見事な試技を
見せた準規。だが、みえりは準規に突如とんでもない依頼を
切り出した。『目』を斬ってくれ、と。
いっきはみえりの目論みを全て覚り、そして後悔した。先
輩のあの化粧は死化粧じゃないか。なぜ、最初から気付けな
かったのか、と。
状況が分からず狼狽した準規に、みえりが『目』の説明を
始めた。母親から受け継いでしまった望んでもいない能力。
人の念が見えてしまうこと。それがゆえに気味悪がられ、友
人が出来ず、ずっと孤独であったこと。そして、自身も『目』
に見せつけられる念の恐怖に怯えていたこと。みえりはそれ
を涙ながらに切々と訴えた。恐怖を克服する切り札だったは
ずの祓いも、弱さが克服出来ないみえりには使いこなせない。
いっきはみえりの深い絶望を思い、打ちひしがれる。
見えない『目』を斬る。みえり本人を斬るわけではないこ
とを知って安心した準規だったが、刀を振るう場所がみえり
の眼前であることを知らされて、激怒する。俺を人殺しにす
るつもりか!……と。みえりの依頼をにべもなく拒否した準
規に絶望して、みえりは自死をほのめかした。それを、必死
に止めるいっきとしゃら。
だが、準規が突然翻意した。やるよ、と。しかし、みえり
を引っ叩いた準規は、確たる理由もなく人に危険な依頼をす
るのは失礼だとどやす。なぜ、俺、なんだと問う準規。みえ
りの答えは……準規が好きだから……だった。それを聞いた
準規は、惚れた女の頼みは断れないと、みえりの依頼を引き
受けた。あまりに急転する展開に呆然とするいっきとしゃら。
そして、みえりと準規は『目』を斬る儀式に臨んだ。いっ
きとしゃらはただ見守るしかなかった。
みえりが全身全霊をかけて自分の怨念を着せ、実体化させ
た『目』。いっきに憑依していたようこのサポートもあって、
準規の渾身の一撃が『目』を見事に切り裂いた。血涙を流し
て倒れたみえりを助け起こそうとしたいっきは、準規に突き
飛ばされる。「触るな! それは俺の女だ!」
留守中に準規がみえりに向かって真剣を振るったことを知っ
た準規の父親と宗喬は揃って激怒し、準規を激しく叱責した。
意識を取り戻したみえりは、もう『目』がないことを知って
喜びのあまり嗚咽を漏らした。
みえりは化粧を落とし、準規を責め立てていた宗喬と準規
の父に向かい、平伏して陳謝した。全ては私のわがままから
出たこと、責任は全部自分にある、と。そんなみえりを庇う
準規に激怒した父親から鉄拳が飛び、殴られた準規は思わず
反駁した。惚れた女の命がけの頼みは断れない、と。
みえりも、祓いと『目』を失って自分には何もなくなった、
それでもいいのかと準規に下駄を預ける。好きになるのに理
由なんかない! そう即答した準規の胸に、ためらいなく飛
び込むみえりだった。
準規の行動が腑に落ちない宗喬は、いっきとしゃらを鋏工
房の墨尾のところに案内する車中で、みえりと準規の間にな
ぜ接点が出来たかを問うた。いっきは、みえりが『目』を祓
える人材を探したものの準規にしかその可能性がなかったこ
と、そして迷いのない準規と優しいみえりが、互いに自分に
ない素養を見たのが恋愛感情に高まったのではないかと推察
した。納得する宗喬。
墨尾の工房で、いっきだけでなくしゃらも鋏を打ってもら
えることになり、しゃらは大喜びする。
工房から宗喬の家に戻ったいっきたちは、しゃらの父親が
発注しようとしている理容用の鋏の見本を宗喬に見せてもら
う。しゃらは家庭の事情を語り、崩れそうだった自分の家が
いっきたちの活躍で立ち直ったことを嬉しそうに語った。
夕食の時に、宗喬にしゃらとの将来のことを聞かれたいっ
きは、初めてはっきりと将来二人で歩いて行きたいというこ
とを公言した。ただし、今はそれを始める時期ではない、自
分たちはまだそんなに強くないと、自分としゃらに言い聞か
せた。
その夜。就寝しようとしていたいっきの元にきっちり服を
着込んだみえりがこそっと訪れ、コンドームをせがんだ。驚
いたいっきに、準規と今後のことを話し合いたい、そのため
にラブホに泊まると説明するみえり。いっきは、約束のため
に体を許すのかと咎めたが、みえりは準規のことを全て知り
たいだけと笑い飛ばした。
みえりと準規が出かけたあと、今度はしゃらが部屋に来る。
いっきは、友人としての関係はこれで終わりにしようと切り
出す。二人での将来に向けて新たな関係を築く。その意思を
確かめ合う二人だった。
翌朝。朝帰りした準規とみえりを巡って日浦家は大騒動に
なっていたが、なぜかそれを面白がる宗喬。宗喬は、いっき
としゃらを連れて日浦家に乗り込んだ。準規の父親は、準規
とみえりが結婚して独立すると宣言したことに大慌てしてい
た。いっきは、宗喬が準規たちの味方をすると思っていたが、
宗喬は逆に二人を世間知らずとこき下ろした。頭を冷やして
よく考えろと、若者四人だけにして部屋を出る宗喬。
部屋に残されたいっきとしゃらは、焦るなと二人を諭す。
偉そうにと不快感を示した準規を言葉でも力でもねじ伏せた
いっきは、準規がみえりを支配してしまうのはまずいと訴え
た。それでは命をかけて『目』を切った意味がないと。
いっきはみえりの今後が心配だったが、もう関与は出来な
い。準規の両親にみえりの生い立ちを説明し、みえりが抱え
続けてきた寂しさに理解を求めるのが精一杯だった。いっき
はみえりが今回の件を親に伏せるであろうことを予測し、み
えりを孤立させないために、みえりの親に顛末を報告する決
意を固めた。
墨尾の工房で秀峯に代わる新たな剪定鋏を受け取ったいっ
きとしゃらは、出来栄えの素晴らしさに感嘆し、大喜び。だ
が新潟から帰る新幹線の中で、自分たちの見えない未来に焦
燥感を募らせるのであった。
田貫市に戻った二人は、その足でみえりの実家に向かった。
いっきは、みえりの両親が準規とみえりのマッチングを期待
していたと予測していたが、両親が揃ってみえりの抱えてい
た深刻な絶望感に全く気付いていなかったことに呆れ返る。
みえりは自分の目を斬るために弥富を訪ねたのだといっき
に告げられた両親は激しく狼狽するが、みえりが本懐を遂げ
たことを知って安堵する。親子の間の意思疎通が不十分だっ
たことを素直に認めた父親(片桐揺錘)は、今後について娘
としっかり話し合うことをいっきとしゃらに確約し、二人は
胸を撫で下ろした。
縁を切ると忌み嫌われる刃物がみえりと準規の縁を繋いだ
ことに、二人は不思議な感覚を覚えた。
あまりに濃い新潟旅行から戻ってすぐ。進路に関する予備
面談があり、いっきは自分の進路を仮決めした。その直後、
みえりがいっきとしゃらを自宅に呼び出した。いっきのお節
介に腹を立てていたみえりだったが、準規との婚約をいう形
を取ったこと、ただし将来結婚まで辿り着くにはいくつもの
ハードルを越さなければならないこと、そのもっとも間近な
ものが大学受験であることを明かし、決意を新たにした。み
えりの強い意思を見せつけられ、いっきは気後れする。
自分の意思をもっと強くしなければならない。いっきは自
分自身にそう言い聞かせるのであった。折しも、それはいっ
きの十七歳の誕生日であった。
二年生編 あらすじ(8) [あらすじ]
二年生編 第百二十二話〜第百三十五話 二学期中盤編 修学旅行
学園祭が終わり、いっきたちの関心は徐々に修学旅行に向
かい始める。担任の斉藤から、概略のスケジュールや注意事
項の説明があり、出発までの自己管理についても警告が出た。
クラスやプロジェクトでの学園祭打ち上げの話が進む中、
いっきは外見も姿勢も鮮やかに大変身した荻尾に驚く。
学校から修学旅行関係の資料が配られ、ホームルームで斉
藤との質疑が行われる。つっけんどんな態度とは裏腹に、丁
寧に説明に答える斉藤の姿に、いっきは信頼感を覚える。
プロジェクトでの学祭打ち上げで、いっきは後輩たちに宿
題を出す。今の楽しい雰囲気をどう引き継いでいくかを考え
ろ、と。
十月最後の雨の日曜日。風邪気味で部屋でのんびりしてい
たいっきのところに五条から電話が掛かって来た。それは、
学園祭最終日にいっきたちの目前で死んだヤクザと、その下
でかくまわれていた市工の連中や高岡の経過報告だった。首
領が斃死したことで隙が出来た事務所を急襲し、未成年性犯
罪の巣窟を摘発したことを告げた五条は、犯罪者がたむろす
るような危険な場所を忌避するよう、いっきに警告する。
中学の時にしゃらを襲った双子のその後が気になっていた
いっきは、五条の口から彼らの衝撃的な末路を知る。入所し
ていた少年院で、兄が弟を殺していたのだ。更正のチャンス
を自ら潰してしまった兄の愚かさを哀れむいっきだった。
週が明けて、クラスの中では修学旅行の行動班作りが話題
になるようになった。さっさと決める子。なかなか決まらな
い子。いっきも、同行メンバーをどうしようかと思い悩むよ
うになる。
放課後、いっきとしゃらは恩納先輩に相談があると呼び止
められる。先輩は、ご隠居こと木戸充彦との同居を決めた小
塚おばあちゃんの家を離れることになったのだ。寂しくて一
人暮らしにはもう戻れないと嘆く先輩に、いっきは伯母の土
屋巴との同居を勧めた。先輩は巴との面接に臨み、同居の許
可を得る。喜ぶ先輩。
帰り際に巴に呼び止められたいっきは、ばんこのサポート、
父の圧力から逃れて巴のもとに逃げ込んでいた橘穂積の秘匿、
従妹ジェニーの謝罪受け入れを打診され、それを了承した。
十一月に入ってすぐの土曜日。中庭の花苗の植え替え作業
が行われ、その場でいっきは三人の三年生部員の義務解除と、
次期執行体制についての一年生中心の案出しをアナウンスす
る。先輩から方針が示されないことを不安視していた一年生
男子部員四方に、こっそり知恵をつけるいっきだった。
作業の帰りに三人の先輩たちとしゃらとでリドルに昼食に
行ったいっきは、実務班の副班長だった酒田真鈴の乾いた姿
勢に驚かされる。また、先輩たちの進路の話を聞き、自分の
将来についても思いを馳せる。
翌日、フォルサにスカッシュの練習に出向いたいっき。偶
然居合わせた橘社長が、いらいらしていることに気付く。触
らぬ神に祟りなし、そっとしておこうとしたいっきだったが、
突然女子大生の渡瀬に指導を頼まれ、渋々引き受ける。
ど素人にも丁寧な指導をしたいっきを気に入って、ナンパ
しようとした渡瀬だったが、いっきは焼き餅焼きの彼女がい
るからと断る。その様子を見ていて大笑いした橘を交えて、
三人での恋愛談義になった。橘は、自分は肉食系で心に女を
住わせたいのだと心情を吐露し、いっきはその経歴を聞いて、
社長が行長と穂積の父であることを確信する。
修学旅行が近付き、自由行動のプラン作りが本格化する中、
いっきの元に、しのやん、あっきー、りん、北尾からそれぞ
れレスキューメールが飛び込んでくる。自由行動の相手がい
ないと。
それぞれに微妙な事情をあることを理解したいっき。しゃ
らも友人の家原に同行者がいないことを憂慮し、最初いっき
としゃらとで一緒に行く予定だった二日目の日程を急きょ別
行動として組み直すことになった。班作りのどたばたを介し
て、友人の意味をしばし考えるいっき。
行動班作りが一段落してクラス内が盛り上がっていく中、
いっきはばんこの母親の回復が遅れているていることを知り、
一人で我慢して抱えるなと忠告する。修学旅行への期待の陰
に、変わらない現実があることを憂慮するいっきだった。
修学旅行への出発直前、いっきは桂坂ミューゼアムにバイ
トに行き、館長の釘谷から校倉の偏った性格が何に由来する
のかを聞き出した。親との軋轢、仲のよかった姉との離別、
海外生活……。転機が来る度に性格が依怙地になっていった
と聞かされたいっきは、釘谷に校倉には構うなと再度警告さ
れる。
そして、いっきたちが楽しみにしていた修学旅行がいよい
よ始まった。初日の京都市内観光のバスガイド野沢は、いっ
きたちに時の試練に負けるなとエールを送った。それを心に
刻んだいっきだった。
修学旅行二日目の自由行動日。親友四人で神戸観光に出か
けたいっきたちは、外国人観光客のエレナや神戸港クルーズ
船に乗り合わせた小野らに出会い、その意味を考える。神戸
観光を心ゆくまで楽しんだいっきたちは、四人での再訪を心
に誓うのであった。
修学旅行三日目も自由行動日。いっきはしのやん、かっち
ん、渋谷と四人で京都中を駆け足観光した。小さなハプニン
グ込みで自由行動を楽しんだいっきは、別行動だったしゃら
たちレディースも体験型のイベントで盛り上がったことを聞
いて安心する。
四日目の奈良観光を無事終えて、最終日。午前中にお土産
の買い出しに出かけたいっきは、ふらりと立ち寄った道具屋
で刃の折られた秀峯二本を発見して驚く。道具屋の老人に由
来を聞いたいっきは、二本の秀峯を供養のために預かること
になった。
修学旅行から帰った翌日、京都から宅配便で送ったお土産
が届き、家族はそれに大喜びした。いっきは、修学旅行の記
憶は褪せても、それを心の底から楽しめたことは一生忘れな
いと、充実した五日間を思い返すのだった。
二年生編 あらすじ(7) [あらすじ]
二年生編 第百十七話〜第百二十一話 二学期中盤編 学園祭前後
十月十三日。早朝。ぽんいちの中庭に関係者が集まり、い
よいよ封鎖儀式が始まった。舞い方、祓い方、止め方が配置
に付き、片桐時枝の祝詞を皮切りに、舞い方の二人が舞いを
始める。舞いのテンポが早まるとともに、荻尾の全身から
『糸』が放出され、それは時枝の手によって『蓋』に編まれ
た。
荻尾が狂乱状態で踊る中、祓い方による呪術が始まり、片
桐揺錘の面前に亀裂が引き寄せられた。秀峯を一閃させてそ
れを切り広げる揺錘。その直後に、広がった裂け目から莫大
な邪気が吹き出した。
結界ごと吹き飛ばそうとするかのような猛烈な邪気の圧力
に、いっきたち止め方は必死に耐える。そしていっきは、腰
が引けていたみのんがなぜ危険な止め方を引き受けたかを覚
る。みのんは片桐が好きだったんだ、と。
初圧が下がった邪気を、何者かが上空に抜き去った。いっ
きは、それがようこの手助けだろうと考える。邪気の猛威で
ぼろぼろになっていた揺錘とみえりだったが、機を逃さず、
亀裂の邪眼を『蓋』で塞ごうとする。最初は瞬時に燃え尽き
ていた『蓋』は、みえりの手で重ねて被せられるうちに邪眼
を覆って鎮めて行った。邪眼が眉のように『糸』で覆われた
のち、揺錘は強力な符を用いて邪眼を異界の果てまで吹き飛
ばした。
封鎖は見事に成功したが、関係者の疲弊は極限に達してい
た。意識を失ったみえりと荻尾。保健室に運び込まれた二人
のうち先に目覚めた荻尾は、そこで初めて自分の出自と特殊
能力を知る。驚く荻尾。しかし、みえりが意識を取り戻すこ
とはなかった。
儀式翌日。みえりの容態を気にしたいっきたちは、しゃら
も誘ってみえりの見舞いに出かける。意識は取り戻していた
みえりだったが、封鎖をしのぎ切った達成感はなく、逆に自
分の弱さを思い知らされていた。私には祓い師は出来ない。
心が弱すぎる、と意気消沈するみえり。
へたってしまったみえりを両親が慰めた。あまり思い込み
過ぎるなと。そして、時枝にはみえると同じような『目』が
あり、それがもとで実家に十六年幽閉されていたことを明か
した。仰天するみえり。時枝を解放したのはみえりの曾祖父
の長与(ちょうよ)で、それは跡継ぎを拒む揺錘の懐柔策の
駒であったことを知って、みえりは絶句する。
しかし揺錘は、知り合った経緯よりもその先の方が大事だ
と、時枝との結婚後に二人で生き方を話し合って決めたこと
を伝え、時枝は自分が欲しかった運命を手に入れられればそ
れが最良の出会いだと結論付ける。さらに、時枝が先視を使っ
て、みえりに近々いいことがあると予言する。
あまりに荒唐無稽な話に唖然としていたいっきたちだった
が、みのんが突然みえりに告白した。みえりは二人の弱さが
重なることを指摘して、それを柔らかく断った。
そして……。いっきの手元に刃が砕けて見るも無惨な姿に
なった秀峯が戻ってくる。いっきは秀峯を労い、その供養を
考える。
封鎖儀式の成功で中庭の脅威が低下し、気分よく学園祭の
初日を迎えたいっき。その勢いでクラスイベントのステージ
発表に臨む。出演者は思い思いの仮装でウケと笑いを取り、
場内は大盛り上がり。中でも、頭を丸刈りにした北尾の思い
切った仮装は、クラスメートにも衝撃を与えた。
ステージの大成功に気を良くしたいっきは、中庭で翌日行
われる平舞いのリハに立ち会う。舞い手の荻尾の前に現れた
のは、封鎖儀式で負傷して満身創痍のようこだった。ようこ
を抱きしめて身を案じる荻尾の体から最後の糸が現れ、それ
がようこの傷を癒した。ようこは堪えきれずに泣き崩れる。
ようこがモニュメントに隠れなかったことを見たいっきは、
ようことの別れが近いことを覚る。
校内展示を見に行ったいっきは、新聞部の特集号に釘付け
になる。佐倉が、恋人である天交の厳しい指摘をこなしてま
とめたシビアなルポ。学校側の無理解をあげつらうだけでな
く、生徒側の心構えの甘さも鋭く突き、警察への取材で生徒
に事実を突き付けて、自主独立の意味を問う厳しい内容だっ
た。展示教室でルポの内容を話し合う二人だったが、佐倉が
突然強姦事件の噂が漏れ始めたことを嘆く。いっきは、リハ
ビリにたとえて、体は元に戻らなくても心は戻せると説く。
初日の中庭イベントに大きなトラブルはなく、警備に自信
を持ったいっきたちは一般客の出入りがある二日目に臨んだ。
いっきとしゃらは、二日目最初の時間枠の警備を受け持ち、
迷子やナンパ男をさばいて次の当番と交代する。
学園祭を楽しみにしていたようこを伴って、しゃらと校内
のイベントやステージを駆け足で見に行ったいっき。昼前に
行われる平舞いを見に駆け戻る。荻尾、片桐の母、しゃらの
友人家原の三人で行われた優雅な舞いは、伴奏を引き受けた
岡辺や江平の好サポートもあり、来場者の耳目を集めた。舞
いに見入るようこは、自分に捧げられた玉串を見て涙するの
であった。舞いの終了後、談笑する荻尾と江平を見た片桐の
母は、そこに縁がつながったといっきに告げて、いっきを絶
句させる。
無事に舞いの奉納が終わってほっとしたいっきたちは。中
庭にブースを出した調理部の稲荷ずしを味わう。ようこは早
食いにチャレンジして優勝間違いなしの記録を叩き出した。
しかし、盛況のブースに乱入してきたのはゴナンの札付き三
人組。売上金をかつあげしようとする彼らに、いっきではな
くようこがキレる。三人組を挑発して中庭から誘い出したよ
うこは、彼らを同士打ちさせて排除した。その後、早食いの
優勝者の発表があり、ようこは副賞の狐の置物に無邪気に喜
ぶのであった。
午後から、イベントを全制覇する勢いで見て歩くいっき、
しゃらとようこ。いっきは、ようこの後ろ姿にどうしようも
ない寂しさを見て取る。美術部の展示を見に行った三人は、
わだっちやじょいなーの作品がないことに驚くが、部運営の
難しさやスランプを素直に嘆くわだっちに、逆に感心する。
わだっちはようこを見て即興で塑像を削り出し、『神が降り
てきた』と言い残して去った。
そして学園祭も大詰め。ステージにラークスが登場した。
メンバーの中に住田と伊藤がいないことに驚いたいっきたち
だったが、市商の学園祭と重なって参加出来なかったのだ。
代わりにタカと加賀野をサポメンに加えたラークスは一発勝
負を仕掛け、聴衆を扇動してがんがん盛り上げた。いっきた
ちは完全燃焼する。
ステージの熱気がまだ冷めやらぬ中、体育館を出たいっき
を五条が待っていた。五条はいっきを単独で校長室に連れ出
す。校長室で五条がいっきに告げた事実。それはぽんいちの
学生の乱れた風紀に対する厳しい警告だった。繁華街での未
成年取り締まりを強化するので、校長から学生に釘を刺して
欲しいという五条の要請を、校長は深刻に受け止めた。さら
に五条はいっきにも、事件に巻き込まれた佐倉が再度犯人グ
ループに狙われないよう警護しろと要請した。
後夜祭に出るため校庭でしゃらと合流したいっきだったが、
五条の要請が気になって佐倉と天交を探すことに。その目に
飛び込んで来たのは、殴られ気を失って倒れていた天交だっ
た。慌てて佐倉を探すいっきたち。佐倉たちが学校関係者の
盲点になっている中庭にいると勘付いたいっきは、全力で中
庭に走った。
中庭には佐倉の他に、以前しゃらと恩納先輩を襲った市工
の学生二人と、プロのヤクザがいた。レイプの動画を売って
カネにする、そう言い放って中庭を出ようとしたヤクザを、
ようこが足留めし、録画したDVDのディスクを壊してヤク
ザを挑発する。元データを含めて全てを消去されたことに激
怒したヤクザは、ナイフでようこの首を切り落とすが、よう
この胴体がそれを拾って元通りに。あまりのおぞましい光景
に、腰が抜けるいっきたち。中庭を穢すものは許さないとヤ
クザを一喝したようこは、ヤクザの足下を泥沼に変える。ヤ
クザの助命嘆願を一蹴したようこは、市工の学生には償えと
チャンスを与える。
絶命したヤクザを五条たちが事故処理し、いっきたちが凍
り付いている間に後夜祭は終わっていた。全員おもらしして
しまったいっきたちをよそに、ようこは中庭を振り返ってし
みじみと漏らす。楽しかったなー、と。
学園祭翌日の代休日。最後の惨劇のショックがまだ残って
いるいっきだったが、中庭に出かける。ちょうどしゃらも中
庭に来ていて、夏休みのトラブル後も二人が引きずっている
ぎくしゃくした関係を思い返すことになった。
二人で中庭を見ているところに学園祭を欠席した片桐が現
れる。儀式の時の恐怖からまだ回復していないと愚痴った片
桐は、いっきから前日の惨劇のことを聞き、死んだヤクザが
まだ中庭をうろうろしていると指摘する。恐怖に怯えるいっ
きとしゃらだったが、実害がないと聞いて胸を撫で下ろす。
三人で話をしているところにようこが現れ、片桐は一家を
代表してようこに儀式協力への謝意を表す。それに対して、
舞い奉納への謝辞で返すようこ。そしてようこは、中庭を
去って眠りにつくことをいっきたちに告げる。別れを惜しん
でようこを抱きしめるしゃら。すると突然ようこが美男子の
形(なり)に変わり、しゃらに長々とキスをする。呆然とす
るしゃらを残して、ようこは笑いながら中庭から消えた。
ようこの暴挙にぶんむくれるいっきだったが、自室に帰っ
てから出会いの幸運と生命の意味について、深く考え込むの
であった。
二年生編 あらすじ(6) [あらすじ]
波乱の夏休みが明けて、まだ微妙にぎくしゃくしたまま新
学期に臨んだいっきとしゃらを待っていたのは、驚愕の事態
だった。無神経な試験制度変更に不満を持つ三年生が再考を
求めて全員授業をボイコットし、それに激怒した校長と生徒
会会長の大村が体育館で対決するはめに。いっきたち下級生
もほとんど全員が体育館に揃い、大村と校長との激しい応酬
を見守った。有償参加の夏期講習への配慮がなかったことを
徹底的に突いた大村は、校長をやり込めて交渉に持ち込む。
教室に戻ってから斉藤に裏事情を聞かされたいっきは、生
徒側は校長との交渉で実利を取れないだろうという厳しい予
測に驚く。
プロジェクトも、学園祭に向けたリアレンジとイベントの
提案を受けて動き始める。話し合いは順調に進んだが、集会
後職員室に鍵を返しに行ったいっきは、騒動における中沢の
中立のスタンスに疑問を抱く。それに対し、二元論の弊害を
説いた中沢は、いっきにこう答えた。判断材料が出そろうま
では拙速に動かないよ、と。
いっきは、校長、教師、生徒会それぞれのスタンスについ
て熟考する。
新学期早々の波乱の一週間をしのいだいっきは、ちゃりで
フォルサにスカッシュの練習をしに行き、そこでベテランの
おじさんに声をかけられる。練習後、博物館のバイトに出向
いたいっきはクラスメートの毛利(もーりー)がバイトに来
ていたことに驚くが、仕事に集中する。
帰り際、調子が悪かったちゃりのチェーンが切れ、修理の
ために自転車屋にちゃりを持ち込むが……。ちゃりには、あ
ちこちに細工された跡があり、修理不能なほど壊れていた。
ちゃりを壊した犯人が人間ではないことに勘付いたいっきは、
片桐を呼び出してちゃりを見てもらうことに。
片桐の診断は、依り代を失った中庭の邪気がちゃりを標的
にして破壊したというものだった。肝を冷やすいっき。
その翌日、体力不足解消のためジョグに出かけたいっきは、
その足で小野塚稲荷にお参りに行き、ご神体の狐を見て和む。
だが、そこに突然ようこと名乗る小学生くらいの女の子が現
れ、しきりにいっきに絡んだ。付いてこようとする女の子を
たしなめたいっきだったが……。
中庭の見回りにいったいっきの元に、先ほどの女の子が再
び現れて、中庭が羅刹門の吹き出しの直近だと説明した後、
突然モニュメントの中に入って消える。呆然としていたいっ
きのところに血相を変えた片桐がふっ飛んでくる。なぜ、小
野塚稲荷の主がここにいるのか、と。
ようこが恐ろしい妖怪としての顔を持つことをいっきに警
告した片桐だったが、ようこが羅刹門の吹き出しに言及した
ことをいっきから聞いて考え込む。中庭の不吉な縁起。その
凶事の原因がとうとう明らかになったのだ。
対策をどうするか思い悩む片桐のもとに英語教師の荻尾が
現れ、ようこは荻尾に無邪気に絡む。荻尾が中庭を去った後
ようこは、荻尾が今は廃社になった睡思宮という神社の巫女
の末裔で、夢魔封じの糸を作り出せることを二人に説明し、
羅刹門の亀裂封鎖にその力が使えるのでは、と提案した。根
本解決に向けて、即座に対策に乗り出す片桐。
中庭からの帰り道、しゃらの見舞いによったいっきは、小
野塚稲荷と中庭で起きたことをしゃらに説明した。いっきの
周囲がざわざと動き始めた。
週明け、生徒会から校長との衝突の経緯について詳しく書
かれた速報が配られ、いっきたちはそれを食い入るように読
む。そこには、校長の不退転の決意、頑迷さ、そして交渉の
厳しさが余さず書き出されていた。それをネタに、速報にこ
められた大村会長の意図を汲もうと、いっきとクラスメート
たちは真剣に話し合う。
その週末。プロジェクトメンバー総出で中庭の改植作業を
行ったいっきたちのもとに、突然ようこが姿を現す。いっき
たちの作業には関心を示さなかったようこだが、しゃらを見
てしょんべん臭い小娘とあげつらい、いっきは渡さないと宣
戦布告する。激高して詰め寄るしゃらをあざ笑うようにモニュ
メントに消えたようこを見て、関係者は絶句する。
ようこの態度が面白くないしゃらだったが、いっきからそ
の正体を聞かされ、稲荷社の秋の豊穣祭が絶えていることを
思い出す。そして、学園祭の時に中庭を稲荷社の分社として
祀ることをいっきに提案する。俄然乗り気になるいっき。
翌日しゃらを誘ってフォルサにでかけたいっきは、前回も
来ていたベテランのおじさんに声を掛けられ、スカッシュの
試合をする。おじさんは、いっきたちに橘紀幸と名乗り、率
いている会社、橘ファルステックの説明をする。
橘に進路希望を聞かれた二人は、まだ未定だと答えるが、
『でもしか』にならないようにと忠告される。まじめなしゃ
らは、それに強いショックを受ける。
週明け、校内に校長との衝突の膠着感が漂う中、いっきは
は中庭で昼食を食べている時に、疲れた様子の校長に話しか
けられる。校長の意図を読み取った上で、直球が持ち味の校
長らしくないと突き放すいっき。そして、校長が明確な説明
をしていないことが事態をこじらせていると指摘する。それ
に対し、校長は説明を確約した。
翌日、全校集会で校長が行った説明と見せた姿勢は、大村
らの圧力にも関わらず一切譲歩はなかった。そして、生徒会
を含む学生側との交渉は受けないと宣言した。殺気立ついっ
きたち。しかし、校長は『懇談』という形での窓口を確保す
ると提案。それを受けていっきと有志たちは、校長の不可解
な姿勢が何に由来するのかを校長に確認に行く。
校長との懇談で、校長のスタンドプレイと調整不足を指摘
したいっきたちは、懇談から戻ってから今後の変化について
予想し合う。
その翌日。クラスでもプロジェクトでも学園祭のプランニ
ングが始まった。しのやんと共にプロジェクトの中庭使用権
確保について対策を立てたいっきは、クラスイベントの方で
は二重指揮を避けるため、沈黙する。
イベントの提案がなくクラスが重苦しい雰囲気になる中、
北尾が思わぬ提案をする。男女引っくり返してミスコンをし
よう。一気に盛り上がるクラスメートたち。そして、担任の
斉藤から、修学旅行の班作りと行動計画書作成に対する説明
があり、いっきの気分は高揚してくる。
学園祭や修学旅行に向けて始動したことを体感して迎えた
週末。いっきは博物館でのバイトに出向き、釘谷に素材と加
工の話をされる。目標とその実現に向けた努力。どちらが欠
けても人生はうまくいかないと。バイトの後、ファミレスで
釘谷の言葉を反芻していたいっきは、突如現れた校倉の乱暴
な誘いを退け、スカッシュの練習で汗を流す。
翌日曜日。散歩に出かけたいっきは小野川の堤防で中沢と
かんちゃんのカップルに出会う。紅白のヒガンバナが群生す
る場所。かんちゃんはそこで、自分がずっと抱えている業を
中沢に吐露し、それでももう自分を解放してやりたい、その
時間が欲しいと中沢に告げる。中沢をみずほと呼び捨てにし、
手を差し出すかんちゃん。中沢はその手を取り、二人の関係
が一つ進んだことを素直に喜んだ。証人として、二人の変化
を見届けたいっきだった。
週明けの学園祭実行委員会で、警備を切り札に中庭使用権
を勝ち取ったいっきたち。一山越えて、祝日をのんびり自宅
で過ごしていたところに、かっちんから電話が入った。なっ
つと一緒に行く、しゃらも同席して欲しいと。二人がまとまっ
たことを予感したいっきはしゃらを呼んで、二人が来るのを
待った。
かっちんの言い方。それは、幼馴染みを解消することにし
た、だった。腐れ縁の友人にはもう戻らないという覚悟を見
て、いっきは自分としゃらとの付き合いにそれを重ね合わせ
る。そこを通ってみないと分からないことがある、と。
リドルで昼食をとった彼らは、自由行動の一日を四人で神
戸に行くことに決める。いじめの影響で中学の時に修学旅行
に行けなかったいっきとしゃらは、その分も取り戻すと言っ
てはしゃぐ。
学園祭もプロジェクトのイベントも順調にプランが動きだ
し、気分がいいいっき。九月最後の週末の土曜に博物館のバ
イトに出かけたが、元締めの遠藤の元気がないことを気遣う。
作業が終わってフォルサに行こうとするが、スカッシュで気
晴らししようとする遠藤も付いてくる。嫉妬深いしゃらに配
慮して連絡を入れたいっきだったが、しゃらがフォルサに来
るという。
フォルサに現れたしゃらはしょげていた。居合わせた橘を
交えてミニゲームで汗を流したいっきと遠藤だったが、橘に
社長室に招かれる。橘は四人に新規採用に関して説明し、明
るくエネルギッシュな遠藤を高く評価して、面接を受けない
かと誘った。舞い上がる遠藤とは対照的に、ますますしょぼ
くれるしゃら。それは、バイト先の店員にセクハラ紛いのこ
とをされ、それを見抜けなかったことを気に病んだからだっ
た。橘はしゃらに、対人関係でのタフさを鍛えるようにと諭
し、職業体験を勧めた。
翌日、しゃら、実生と一緒に会長宅に出向いたいっきは、
お百日で撮った進くんの無数の写真とともに、会長一家、そ
してあっきーの盛装の写真を見て、家族の意味をしばし考え
る。
その帰り、突然片桐からいっきに相談が持ち込まれた。両
親込みでの相談。いっきに緊張が走る。しゃらと実生を遠ざ
け、片桐一家を自室に招いたいっきは、片桐の父揺錘(よう
すい)の口から、衝撃的な事実を次々に知らされる。ようこ
の正体。中庭がかつて広大な忌み地であったこと。その原因
が羅刹門の亀裂にあること。そこから漏れる邪気が凶事の原
因であったこと。そして、亀裂の封鎖が極めて困難であるこ
と……。
しかし、封鎖に挑む決意を固めていた揺錘は、封鎖に必要
な条件をいっきに切り出した。鍵になる睡思宮の巫女の末裔
荻尾の説得、そして、封鎖儀式を補助する止め方四名の確保。
学園祭のイベントに舞いを見せ、それに荻尾を巻き込むこと
をいっきが提案し、さらに止め方の確保を揺錘に確約する。
封鎖儀式の日程が固まり、いよいよ事が動き出した。
九月末日。いっきは、プロジェクトの盟友三人、かっちん、
しのやん、みのんを呼び出し、これまで中庭で起きた数々の
凶事に原因があったこと、それを封鎖しない限り自分たちに
もそれが降り掛かりうることを明かす。動揺する三人だった
が、片桐が自分の身命を賭して羅刹門の亀裂封鎖に挑むこと
を説明して、覚悟を求める。僕らは弱い。その弱さと戦わな
いと未来はない、と。各々が覚悟を決め、止め方が揃った。
しゃらによる荻尾の説得も成功し、儀式に必要な陣容が全
て整った。荻尾と止め方四人は片桐の家に集合し、揺錘およ
びその妻時枝(ときえ)によって、儀式での手順の説明を受
ける。華やかな衣装に舞い上がる荻尾とは対照的に、張り詰
めるいっきたち。
荻尾の帰宅後、止め方と揺錘との間で最終確認が行われた
が、儀式で使われる神剣の確保だけが未決になっていた。いっ
きは御神刀を打つ弥富の傑作秀峯が使えると考え、自分の持っ
ていた秀峯を儀式に提供した。
儀式が近付いて緊張が高まる中、いっきは博物館でのバイ
トに出かける。元締めの遠藤は、橘の社への採用が決まって
喜んでいるはずなのに、まるっきり元気がなかった。そして、
作業が一段落したいっきは、遠藤が叶わぬ恋に耐えられずに
号泣しているのを見てしまう。恋。その狂わしいもの。いっ
きは自分がしゃらに恋をしているかと、思い返す。
気持ちが決意と弱気の間で揺れる中、中間試験直前の慌た
だしい空気を避けて中庭に行ったいっきは、ようこと会話を
交わし、その寂しい心情を思い遣る。
試験直前対策でしゃらの部屋に行ったいっきは、職業体験
でしゃらが妹尾さんという女性社員に相談に乗ってもらって
いることを知り、興味を持つ。
今いち調子が上がらなかった中間試験を終えたいっきのと
ころに、聖メリア女子高理事長の若槻が、しおんを伴って訪
ねてくる。若槻は退学処分にした北尾のその後を気にしてい
たが、北尾がイベントとジェニーとの交流を契機に前向きに
なったことを知って安心する。
一方、リハビリ担当医だった藤崎のガン死を知らなかった
しおんは、墓参は生きる力にならないという藤崎の遺言を聞
いて涙し、北尾の変身に負けていられないと再起の決意を新
たにした。
封鎖儀式前日。気晴らしも兼ねて市工の学園祭に出かけた
いっきたちは、アグリ部の高度な活動の大半が手作りだった
ことに強い衝撃を受ける。しかし、高校生には高度過ぎて自
力では進めないのが欠点だと言う、アグリ部部長の藤原の懸
念を聞き、部活の自立性の重要さを改めて認識する。
次期部長の後野に過重な負担がかかることを危惧して、配
慮を勧めるいっきたちは、自分たちのプロジェクトの今後に
ついても話し合う。
そして……いよいよ封鎖儀式が……始まる。
二年生編 あらすじ(5) [あらすじ]
二年生編 第八十四話〜第九十五話 夏休み後半編
ジェニーの滞在最終日。伯母の巴、妹の実生、そしてしゃ
らと一緒に空港までジェニーを見送りに行ったいっきは、別
れの挨拶でジェニーと握手しようとするが、突然ジェニーに
唇にキスされる。
帰りのバスの中。いっきには、嫉妬を爆発させたしゃらを
直視する勇気はなかった。憤怒の激情をたぎらせるしゃらと
冷静に話をする自信がなかったいっきは、妹の実生にちゃん
とフォローするようにと勧められる。しかし、しゃらから送
りつけられてきたのはとんでもなくアブナいメールだった。
いっきは、事態打開のためには冷却期間を置くしかないと
考える。
お盆。受験や学校生活を優先させたまたいとこたちは、墓
参への出席率が悪かった。また、いっきや実生と仲のいい工
藤さゆりが進路のこと父親とで正面衝突しているのを知り、
二人はは心を痛める。それを過渡期にはよくあることだとさ
らっとかわした大叔父、大叔母のどっしりした姿勢に、安心
感を覚えるいっきたちであった。
お盆が冷却期間になって、しゃらが機嫌を直すことを期待
したいっきだったが、実際のところ関係修復の切り札を見出
せないでいた。話し合いのためしゃらの家に出向こうとした
いっきは、会長に呼び止められてトラブルの内容を説明する。
会長の諌めも届かず、いっきは無力感に苛まされていた。
そして、しゃらの家。呼び出しに応じて出て来たしゃらは、
全く態度が変わっていなかった。その凄まじい怒りを見て、
いっきの中に溜まっていた不満感が爆発する。ジェラシーを
コントロール出来ないなら別れる。いっきはしゃらに一方的
に付き合いの解消を宣言し、立ち去ろうとした。しゃらは、
その豹変を見て慌てて引き止めようとするが、いっきの強い
不快感はもう止めようがなかった。
無理やりしゃらの部屋に引きずり込まれたいっきだったが、
僕にはどうして欲しいのかが分からないとぶち切れる。それ
に対して、しゃらが全く予想外の行動に出た。服を脱いで全
裸になり、抱けと迫ってきたのだ。いっきの理性が吹き飛び、
抑え込んできた肉欲が爆発した。二人は……最悪の形で体を
合わせることになった。
行為の後逃げるように帰宅したいっきは、自分の欲を制御
出来ずにしゃらを傷付けたことへの罪悪感でのた打ち回った。
家族との接触を断ち、食事も摂らず、自室に籠って心を閉ざ
した。
しかし、どうしても罪悪感を自力で処理し切れなかったいっ
きは、翌日堪え兼ねて設楽寺の光輪に会いに行った。光輪は
いっきとしゃらの間に何があったかを嗅ぎ付け、人の欲はい
じれない、だからまず自分の始末をしろといっきを突き放し
た。
どうしても頭の中を整理出来ないいっきは、予備校の夏期
講習に行くことで気を紛らわせようとする。そして、しゃら
との接触を一切遮断し、講習に臨んだ。
講習帰りに中庭に寄ったいっきは、そこにえも言われぬ嫌
な気配を感じて逃げ帰る。
講習の最終日。夏だというのに異常な冷雨が降る中、いっ
きは講習に逃げ込んだところで何も解決しないことを思い知
らされ、意気消沈していた。夜遅くなって、いっきのところ
にしゃらの父親から切羽詰まった電話がかかってくる。家を
出たきり帰ってこない、と。しゃらが中庭にいることを予想
したいっきは、真夜中ちゃりで学校の中庭に行く。
中庭は点灯しているはずのガーデンライトが一つ残らず消
えていて真っ暗だった。それだけでなく、嫌な気配で埋め尽
くされていた。
中庭に流れ込んだ邪気がしゃらを依り代にしようとしてい
る。そう気付いたいっきはモニュメントに住み着いていた鳳
凰がしゃらをかばっていると考え、冷たい雨が降りしきる中、
必死にしゃらがなぜ中庭に来たのかを考えた。仲直りの願掛
けのためにしゃらが植える提案をしたはしばみ。しゃらがそ
こにいると思い付いたいっきは、鳳凰がかばっていたしゃら
を中庭から助け出すことに成功する。
しかし、病院としゃらの実家への連絡を妨害するような異
常事態が続き、病院に担ぎ込んだ後もしゃらを診察した医師
の診断は不可解なものだった。投薬と点滴治療を受けて帰宅
したしゃらだったが意識は戻らず、いっきは意識が戻るまで
付き添うことを決意する。
深夜。いっきがずっと手を握っていたしゃらの容態が急変
する。激しく痙攣し、何かから逃れようとうわ言を繰り返す
しゃら。いっきは何も出来ず、ただ手を握りしめるしかかな
かった。その後、しゃらの容態が落ち着き、眠ったことを確
認したいっきは、うたた寝をする。だが、その間にしゃらは
高熱を出していた。
翌朝、しゃらの様子がおかしいことに気付いたいっきたち
は、救急車を呼ぶ。肺炎寸前だったことを医師に咎められた
いっきたちは、昨日の病院の対応が不誠実だったことを逆に
なじる。該当する医師が存在しないことに慌てる病院関係者
たち。しゃらは病院での処置が功を奏して容態が落ち着き、
意識を取り戻した。それを見届けたいっきは気を失った。
目を覚ましたいっきは、見舞いに来た片桐に中庭への鳳凰
招聘の真の理由を聞かされる。鳳凰は守り神ではなく、単な
る保険だ、と。そして、中庭の邪気を律するには、これまで
のように陽の気を送り続けるしかないと諭される。片桐は、
中庭でうかつに自我を捨てるのは邪気を呼び込む、危険だと
しゃらにも警告を発し、去っていった。
その後しゃらは順調に回復した。安心したいっきだったが、
罪悪感が消えたわけではなかった。家族の腫れ物に触るよう
な対応も、かえっていっきの悩みを刺激した。
自室で塞ぎ込んでいたいっきのところに、突然スイカを持っ
て光輪が訪ねてくる。いっきがまだ何も消化出来ていないこ
とを見抜いた光輪は、スイカを食べただけで何も言い残さず
に帰る。光輪の穏やかなケアで、いっきの心は少しだけ軽く
なった。
気晴らししたいいっきは、田園風景が残る板倉地区に出か
け、そこで光輪の妻である見波に出会う。見波の口から、光
輪も見波もかつて少年院にいたことを聞かされ、驚くいっき。
しかし、一見悟りを開いているように見える光輪が、実は何
も変わっていないことを知らされ、驚く。帰りにしゃらを見
舞ったいっきは、まだしゃらにかける言葉が見つからなかっ
た。
しゃらが退院し、きちんと心の整理を付けないといけない
と決心したいっきは、しゃらの自宅に見舞いに行く。いっき
から別れるつもりはないと聞かされたしゃらは、逆に自分の
愚かな行動を恥じることになり、激しく泣く。
気持ちが後ろ向きになって、プロジェクトからも逃げよう
としたしゃらに、いっきは秀峯を覗かせる。心が砕けてぐちゃ
ぐちゃに潰れた自分の姿を見せつけられ、ひどく怯えるしゃ
ら。いっきは、逃げても解決にはならない、自分の弱さと戦
うしかないと諭す。
二人は中庭に出かけ、鳳凰の去ったモニュメントに向かっ
て再出発の誓いをするのであった。
関係修復の道筋がついてほっとしたいっきに偏頭痛の発作
が起きて佐古丸総合病院の頭痛外来に行くはめになり、そこ
できびきびと働くレンと再会する。しかし、いっきを昼食に
誘ったレンの口から衝撃的な事実を知らされる。いっきの膝
のリハビリを指導していた藤崎が、ガンのために亡くなって
いたのだ。自分を監視する目だけしか残してくれなかったと、
藤崎の義眼を見つめるレン。レンは、亡くなった藤崎の遺志
に報いるためにもリハビリを中途半端に放り出すことは出来
ないと、いっきに決意を語った。
大きなショックを抱えたまましゃらの見舞いに寄ったいっ
きは、藤崎を失った悲しさに耐え切れず号泣する。
夏休みも残り少なくなり、いっきがプロジェクトのスケ
ジュール組み立てを模索する中。自信を失い、迷走している
かっちんのサポートをりんに依頼される。
自室にかっちんを呼んだいっきは、夏休み中に自分としゃ
らとの間に何があったかを暴露し、かっちんに覚悟を求めた。
付き合うのなんか簡単。そこから気持ちを重ねるのが本当に
大変なんだ、と。恋愛の苦さを噛み締めるいっきだった。
夏休み最終日。何かを変えたいいっきは、体を動かしてス
トレス発散しようと、受験勉強で煮詰まっていた妹の実生を
誘って、開業したばかりの総合レジャー施設フォルサに出か
ける。いっきはそこでスカッシュに魅力を感じ、きちんとト
レーニングしようと考えてフォルサの会員になる。
帰り際に寿庵に寄ったいっきは、店主の中村が長岡を厳し
い研修会に送り込んだ話を聞き、しゃらの家に寄った時にそ
の話を持ち出す。自立のために、自分のレベルを上げなけれ
ばならない、と。
『独りが嫌なら、独りでなくすることだけでなく、独りに耐
えるってことも出来ないと、これから保たない』
二年生編 あらすじ(4) [あらすじ]
夏休みが始まってすぐ。いっきは花農家の榎木にバイトを
持ちかけられ、しゃらと市工の後野を巻き込んで、それを承
けることにした。榎木は、いっきが超高校級の活動内容を誇
るアグリ部とパイプを持っていることに驚く。
その後、いっきとしゃらはモヒカン山に遊びに行く。モヒ
カン山のてっぺんで、自分との仲が進まないことに苛立つしゃ
らを見たいっきは、以前感じた嫉妬感情のことを明かす。そ
れに喜んだしゃらが大胆な行動に出て、いっきは一抹の不安
を覚える。
モヒカン山の反対斜面にある設楽寺を訪ねたいっきとしゃ
らは、相変わらず超マイペースの光輪さんに振り回されなが
らも、その妻(伊予田見波)が自分たちと変わらないくらい
若いことに驚く。
翌日、榎木の農場でバイトするいっきとしゃらを出迎えた
のは後野だけではなく、アグリ部の面々と宇津木先生だった。
榎木とアグリ部メンバーとの高度なやり取り、アグリ部部員
のてきぱきした行動、そしてもてまくるしゃらを見て、強い
コンプレクスを感じるいっき。
さらに、いっきは榎木が農大に行っている自分の娘(春)
に厳しい態度で自立を迫るのを目撃してショックを受ける。
榎木の家に住み込んで働いている阿部の積極姿勢への変化。
そして、阿部が尾花沢の会社で働いている山崎と付き合い始
めたことを知って、いっきの中に焦りの感情が生まれた。
その翌日も榎木の農場で摘心のバイトをしたいっきは、榎
木に娘のことで愚痴られる。悩むというのは、自分を真剣に
考えていることの証しで、それは財産になると。実感のない
いっきだが、年はずっと上なのに子供っぽく見える榎木の娘
の姿を見て恐怖を覚える。
現実を見据えて里村との付き合いに慎重姿勢を示した佐々
木(ゆずぽん)の姿にもショックを受けたいっきは、帰宅後
情けない自分の姿を秀峯にグロテスクに見せつけられ、あえ
なく沈没する。
翌日、その恐怖に耐えられなくなったいっきは、先輩の片
桐にすがる。まじめ過ぎて飲み込んだものを消化出来てない。
それが溢れただけと指摘され、意気消沈するいっき。しかし、
校長の試験制度改革に噛み付く片桐の姿を見て、揺るがない
自分を作る重要性を認識する。
片桐のアドバイスで少し浮上したいっきは、翌日博物館の
バイトに出かけ、上下、田崎の後任の元締めとして大学から
派遣された牧田が、その情けない姿勢を釘谷に糾弾されて追
い出されるのを目の当たりにした。釘谷は、自分の意思を誰
にでもイエスノーの形できちんと表明出来ないのは論外と、
切り捨てる。いっきはそれを、飲み込むだけで吐き出せなかっ
た自分の姿と重ねて落ち込む。
バイトから帰宅したいっきは、自立の第一歩として清掃の
バイトに応募した天交が玉砕し、その尻拭いをのうのうと打
診してきたことに呆れる。
天交の代わりに魚市場の清掃バイトに出かけたいっきは、
経験を活かしててきぱきと作業をこなし、清掃会社の社員さ
んに絶賛される。覚悟のない天交をどやしたいっきは、その
後博物館のバイトに向かった。
博物館でいっきを待っていたのは上下、田崎、牧田に続く
四代目元締め、県立大マスター一年の遠藤雅美だった。明る
く、ちゃめっけたっぷりでエネルギッシュな遠藤の仕切りに、
いっきは好感を持つ。
七月最後の日。バイトに追われていてスケジュールの合わ
なかった二人は、やっと二人だけで江ノ島に出かける。露出
度の高いしゃらの格好にどぎまぎするいっき。しかし、昼食
を食べに入った民宿で、宿の女将に無理をしてると言われ、
二人は落ち込むことになった。口から出る好きだという言葉
とは裏腹に、まだ縮まらない心の距離を意識する二人だった。
翌日、母親がトレマホームセンターでのパートに応募した
ことに驚いたいっきは、昼食で出かけたリドルでかんちゃん
と出くわし、中沢との仲が進まないことを愚痴られる。自分
としゃらの関係に重ね合わせて落ち込むいっき。
その後トレマの菊田からリョウの就職祝いに来ないかと誘
われ、トレマでの短いバイトをこなしたいっきとしゃらは、
菊田の家で行われた焼き肉を楽しむ。その席で、暴走族のヘッ
ドだった菊田の過去を聞かされ、花を育てるのではなく人を
育てろという指摘に考え込む。
菊田の訓示翌日。タルボットのバイトがあるしゃらと別行
動のいっきは、博物館のバイトに出かける。片時もじっとし
ていない活動的な遠藤とは対照的に、ひたすらうろついていっ
きに付け入る隙を狙っている校倉にうんざりするいっき。そ
して、試しでトレマでのパートを始めたいっきの母親も、嫌
みな主任の態度に辟易して愚痴をこぼした。
翌日、もう少しトライしてみるとトレマに出かけた母親を
見送ったいっきは、久しぶりに会長に会い、自分としゃらの
不安定な関係をこぼした。しゃらの露骨な働きかけに自分を
制御出来る自信がない、と。
会長はそれにはアドバイスせず、自分の過去の家庭環境、
そして娘の自殺の真相をいっきに暴露する。会長の娘が思春
期に親に猛反発し、男にたぶらかされて体を許した挙げ句に
妊娠し、堕胎を拒んで飛び降り自殺したことを聞いて、いっ
きは唖然とする。
会長はいっきに警告した。『獣はいつも檻の外にいる。檻
があると思うのならそれは幻想だ』と。
パート先の主任が配置換えになって喜色満面の母親とは対
照的に、会長から重大事を聞かされたいっきの気分は晴れな
かった。母親は、そんないっきを突き放す。自分の色は自分
でしか決められない。会長は、それを知らしめるために自分
の色を先に見せただけだ、と。
会長の爆弾発言を消化しきれなかったいっきのところに、
しゃらからSOSのメールが来る。エアコンのない灼熱地獄
の自室じゃ眠れない。寝かせてくれ、と。昨日のこともあっ
て腰が引けていたいっきは、自室を半日しゃらに明け渡し、
博物館のバイトに出かけた。無邪気な遠藤の行動にどぎまぎ
しながらも、仕切りをきちんとこなす遠藤の姿勢に感心する。
バイトから帰ったいっきはしゃらと一緒に会長宅での昼食
に招かれ、あっきーと三人で会長に過去の男性経験のことを
聞かされて絶句する。しゃらとあっきーの中にあった聖母の
偶像は、木っ端みじんになった。性について、していない経
験は共有出来ないと三人を突き放す会長。
従妹のジェニーの来日前日。会長の爆弾発言にひるんだしゃ
らは友人と遊びに出かけ、いっきは博物館でのバイトの後、
本屋に寄って会長の著書を探す。『心』がキーワードの会長
の本。しかし、いっきにはその内容が高度で理解出来なかっ
た。失意を覚えて帰宅したいっきは自分の立ち位置を失う悪
夢にうなされる。そして、しゃらも出かけた先で遊び人の男
にアプローチされて気分を害して帰って来る。
そして、いよいよジェニーが叔母とともに来日した。引っ
込み思案で自己主張の乏しいジェニーを放って、おばたちが
さっさと旅行に出かける中、いっきは取り残されたジェニー
の扱いに苦慮する。しかし、しゃらたちの合気道や和菓子作
り体験の提案に食いつくジェニーを見て、いっきはジェニー
の姿勢がスローモーなだけで対人恐怖とは違うと気付き、自
分の拙速で雑な対応を反省する。
翌日、しゃらとあっきーがジェニーを合気道の体験に案内
する。講師の高桑が英語でジェニーを指導するのを見て驚く
いっきたちであった。
体験終了後、昼ご飯を食べに駅ビルに行ったいっきたちは、
しゃらに迫っていた遊び人に遭遇し、嫌な思いをする。しか
しその後出会ったアグリ部部長の藤原と昼食を共にして、楽
しい一時を過ごす。いっきは、堂々と自分のことを英語でジェ
ニーに説明する藤原の姿勢に強いコンプレクスを覚える。
ジェニー滞在三日目。将来への不安を会長に吐露したいっ
きは、職選びは一生のことだし、好きと出来るは違うと諭さ
れる。会長の言葉がなんとなく納得しきれないいっき。
その後寿庵での和菓子体験には、いっきがへましてプロジェ
クト全員に一色宛てのメールを流したことで、一色の他にクラ
スメートの相馬が飛び入りになった。いっきが一色を誘ったこ
とに嫉妬し、激しく怒るしゃら。
和菓子作りの体験はジェニーにとても喜ばれ、いっきはほっ
とするが、嫉妬爆発のしゃらが収まらずに、いっきにきつい
皮肉をぶつける。険悪なムードになった二人に、ジェニーが
怯える。
ジェニー滞在四日目。しゃらにジェニーを預けたいっきは、
しゃらとの衝突で逆立った気持ちを休めようとするが、北尾
から思わぬSOSメールが飛び込んできて、うんざりする。
北尾への対応をしゃらに説明する時、いっきは突然キレる。
過剰なジェラシーはこなせない。それが続くなら関係を友だ
ちに戻す、と。
うろたえたしゃらがりんに泣きつき、りんがいっきに事情
説明を求めてきた。全部いっぺんに片付けようと考えたいっ
きは、りんのいる伯母宅に関係者を全員招集する。
北尾が悩まされていたのは、無神経な沖田(愛称 寝太郎)
のつきまといだった。全員の前で沖田に雷を落としたいっき
は、自分の始末くらい自分で付けろと、北尾やしゃらに苦情
を言って引っ込んだ。
ジェニー滞在五日目。いっきはしゃらに、ジェニーだけで
なくトラブル対策で来ただけの北尾までりんに引きずり込ま
れて、キャンプ状態になったことを聞いて絶句する。しかし、
北尾の英会話能力とジェニーへの急接近に、しゃらが実力不
足を感じて気を落とす。
レディースにみのんを加えて博物館のはしごに出かけたいっ
きたち。桂坂で校倉に遭遇した彼らは、その異様な態度に驚
く。そして、県博では部長の井森、学芸員の神村が流暢に英
語を操ってジェニーと会話を交わした。いっきは、その実力
差と自分の小ささを思い知らされる。
ジェニー滞在六日目。母親や巴伯母、ジェニーの母親らと
ともにローダンセ美術館に出かけたいっきたち。彼らを出迎
えたのは、なんといつの間にか結婚していた橘行長と糸井美
郷だった。二人を祝福するいっきたち。だが、行長の口から
思わぬ事実が語られた。ローダンセ美術館を維持出来ず、畳
むかもしれないと……。
そして、結婚を急いだ理由が周囲の不理解を跳ね返すため
と聞いて、いっきとしゃらは愛情と結婚の形について考え込
む。さらに、伯母の巴は処遇が不安定な美術館の今後を案じ
て、その場で美術館の買い取りを決める。その行動力に驚く
いっきたち。
ジェニー滞在七日目。離日前日になり、お土産を買いに街
中に出たいっきたちは、以前しゃらに迫っていた遊び人の男
に再遭遇し、絡まれて嫌な目に遭う。その窮地を救ったのは、
男のクラスメートである陵大付属の武田だった。
無事買い出しから戻ったいっきたちは、みのんの実家の寿
司屋でジェニーとメリッサ叔母のフェアウエルパーティーに
臨む。高瀬、橘行長と糸井美郷、叔父のリックとその婚約者
の丸子静流(しずちゃん)、飛び入りの北尾も加わり、パー
ティーは和やかに過ぎて行く。
行長と美郷、リックとしずちゃんの馴れ初めや裏話を聞い
たいっきたちは、それぞれにまだ障害や課題があることを意
識する。
二年生編 あらすじ(3) [あらすじ]
模試の勉強中に偏頭痛を発症したいっきは、家族との会話
を通じて自分と家族の今後を漠然と考え始める。いつまでも、
このままではいられないのだということを……。
そして模試の帰り、久しぶりにトレマホームセンターに顔
を出したいっきは、元気に働くリョウと菊田の顔を見てほっ
とする。しかしリョウが、菊田の指導が続かなくなることを
不安に感じていることに気付く。保証されていない未来への
不安を隣人の鈴木信香やあっきーからも感じ取り、考え込ん
でしまういっき。
模試が不出来で浮かない顔のいっきとは対照的に、きっしー
としのやんのペアがボーリングの大会で準優勝し、盛り上が
る。その一方で、バイト先の館長が上下の退路を作って、館
から追い出しにかかっているのを知って、いっきは強い危機
感を持つ。あやふやなまま、ずるずる行くのはヤバい、と。
雨の一日。図書委員の当番でたまたま片桐先輩とペアを組
んだいっきは、中庭の鎮護が不充分であること、その不吉な
縁起がただならないものであることを片桐から知らされる。
その翌日、野点の協力を仰いだ加賀野の母親のところにお
礼に出向いたいっき、しゃら、しのやんと茶華道部部長の簑
田は、お土産の和菓子を仕入れに立ち寄った寿庵で、店主中
村の腕前としたたかな宣伝戦略を改めて印象付けられた。さ
らに加賀野の母親に娘の交際が破綻したことを知らされ、親
子関係の難しさを愚痴られる。
一学期の期末試験が近付く中、いっきは自分に欠けている
ものと将来への不安が大きくなってきたことに悩み始める。
寿庵でのやり取りを通して、自分が関わって変わって行く現
状の中に自分も入って行かないと……と考え込むいっき。
そして。期末試験直前。佐倉の怪我による欠席を斉藤が告
げ、続けてロングホームルームをキャンセルするアナウンス
があった。勘のいいいっきは、そこに事件性を読み取る。
案の定、いっきが帰宅した後に五条が訪ねて来て佐倉への
サポートが依頼された。渋々腰を上げるいっき。いっきは、
病室で佐倉の天交への恋情を見抜き、リハビリを急ぐようア
ドバイスする。
試験週間前の休日。試験直前対策をりんに打診されたいっ
きは、気合い注入のためにリョウに臨時コーチを依頼する。
その厳しいコーチングに絶句するいっきたち。でも、それを
通じてみんなのリョウに対する見方が変わった。
その翌日、最後の追い込みに余念がなかったいっきの家に
父親と衝突して行き場を失った天交が突然転がり込んで来る。
絶句するいっき。とりあえず試験が終わるまでは家で預かる
ことにし、五条に親子での話合いの仲介を依頼する。
試験直前、佐倉の事件のことで斉藤に呼び出されて詰問を
受けたいっきは、詳細は知らないと突き放すとともに、父親
と衝突した天交が自宅に避難していることを継げ、斉藤を絶
句させた。
そして期末試験が始まった。いきなり厳しくなった試験問
題を見て、いっきは学校サイドの隠された意図を見抜く。厳
しくなった試験にげんなりするしゃらに、これからはずっと
そうだと釘を刺すいっき。そして、天交もその予想を支持し
た。
期末試験終了後、すぐに天交の親子面談が組まれ、仲介に
当たった五条が天交に厳しく指摘した。棋士より医師を目指
す強固な理由がないと父親を説得出来ないよ、と。
そして面談。息子を前にしてぶち切れる父親に対し、五条
が釘を刺す。子供を独立させることと放り出すことは違う、
そして暴力は犯罪だと諭す。しかし憤然と席を立った父親を
見て、五条は頭を抱える。
面談から帰ってきたいっきは佐倉が退院したことを聞いて
驚くが、その後天交に佐倉に好意を寄せていることを知らさ
れてぶっこける。天交に佐倉の見舞いに行きたいと打診され、
慌てて佐倉に確認を取るいっき。佐倉はいっき同伴での見舞
いを受け入れるが、いっきはそこで佐倉が事件を隠さずオー
プンにするのではないかと危惧する。
翌日、天交を伴って佐倉の見舞いに出かけたいっきは、うっ
かりしゃらがバイトしている洋菓子店タルボットで菓子を仕
入れてしまい、応対に出たしゃらに女の影を勘付かれる。
佐倉の家へ出向いたいっきと天交は、佐倉がジャーナリス
トを目指す動機を聞き、そのストレートさに驚く。だが、そ
の後見舞いに来た理由を天交に問い詰める佐倉に対し、天交
が突然の告白。事件のことでそれに素直に喜べない佐倉は、
二人の前で何があったかを洗いざらい吐き出した。
夜繁華街で男たちに囲まれ、連れ込まれたアパートの一室
で一晩中性的暴行を受けた挙げ句、左足を叩き折られたこと
を涙ながらに話す佐倉。だが、天交の好意は全く揺るがなかっ
た。それは僕がゆいちゃんが好きなことと関係ないと言い切
る天交に、佐倉の喜びが爆発する。
カップル誕生の喜びよりも、事件の背景を気にするいっき。
そして、帰宅したいっきを待っていたのは、しゃらの容赦な
い詰問だった。
ひどくなり始めたしゃらの嫉妬癖に辟易しながらも、いっ
きはバイト先の博物館に獣医志望のクラスメート、毛利を誘
う。高校生にも手を抜かず、きちんと獣医の実情を説明して
くれる館長釘谷の姿勢に感心するいっき。
だが、その後毛利の容姿をあげつらい、いっきの仕分け中
のサンプルに菓子を放り込んだ校倉に釘谷が激しい体罰を加
えた。いっきと毛利はその苛烈さに絶句する。そして、校倉
が釘谷の孫娘であることを知る。
期末試験の後で行われた面談で、斉藤から沢渡校長の試験
制度変更の狙いをリークされたいっきは、クラスに戻ってそ
れをオープンにし、先行きの厳しさを予想する。
その足で博物館のバイトに行ったいっきは、バイトの元締
めの上下が館長の釘谷に追い出されることを知って驚く。
実家を飛び出してからジプシー生活を送っていた天交にも
変化の時が来た。ガンとの闘病中の天交の母親が、死を見据
えて息子に自立を急ぐように宣言する。言葉を失う天交とそ
の父。
試験が終わって骨休めしたいいっきとしゃらは、いっきの
従妹であるジェニーの来日スケジュールを確認した後、県博
で行われていたボタニカルアート展を見物に行くが、そこで
学芸員の神村に厳しい言葉をぶつけられる。生き方を重ねる
のは難しい。時間に侵されない心を見つけるのはそんなに甘
いもんじゃないよ……と。恋人を事故で亡くした神村の指摘
にショックを受ける二人。
天交の家族会議の推移を気にしたいっきは、五条に電話で
成り行きを確かめる。五条は逆に、佐倉の事件後の経過を心
配し、その現況をいっきから聞き出そうとした。天交との交
際が始まったことを知って驚く五条だったが、あとは二人の
問題だと言って、いっきを安心させる。
その日の夜、プロジェクトの重鎮の、みのんことマイアー
稔の両親が切り盛りする寿司屋に出かけたいっきとしゃらは、
安くておいしいお寿司をお腹いっぱい食べて喜ぶ。
夏休み直前、厳しくなったことが知れ渡った試験制度変更
の重圧がプロジェクトメンバーやクラスメートにのしかかり、
学内の雰囲気が陰うつになったことを気にするいっき。
放課後博物館のバイトに出かけたいっきは、新しい元締め
の田崎が幕間つなぎのピンチヒッターに過ぎないことを知っ
て拍子抜けする。
そして終業式。校長の口から明かされた試験制度変更の趣
旨の厳しさは、いっきたちの想像を絶するものだった。校長
は高らかに宣言した。私は君たちの自主独立を試す、と。
追試と処分がセットになった制度変更の詳細を斉藤から聞い
て、速攻で追試対策に乗り出すいっきたち。
いっきは、校長の仕掛けが思わぬ余波を生むことを予感し、
その影響を危惧するのだった。
二年生編 あらすじ(2) [あらすじ]
二年生編 第二十話〜第四十五話 一学期中盤編
連休明け。欠席した三田が訳ありなことを匂わせたゆいちゃ
んは、いっきとミステリー班の面々を伴って市営住宅に見舞
いに行く。父親の再婚に伴う複雑な家庭の事情を嗅ぎ取った
いっきたちだが、深入り出来ないことを悟る。
本格的に博物館での胃内容分析のバイトに乗り出したいっ
きは、館長の釘谷美代(くぎたに みよ)、悪魔こと校倉清
香(あぜくら さやか)、県立博物館の部長である井森忠夫
(いもり ただお)らと遭遇する。元締めの上下に負けず劣
らず個性の強い面々にとまどういっき。
休日に、いっきはしゃらをモヒカン山の裏側への探検に誘
う。モヒカン山の頂上で、好きの次を探さないと続かないと
しゃらに告げるいっき。それを聞いたしゃらが膨れる。小さ
な歪みが二人の間で顕在化し始めた。
モヒカン山の反対側にある設楽寺を覗いた二人は、そこに
現れた住職の伊予田光輪(いよだ こうりん)に無理やり草
刈りをさせられて辟易する。しかし二人に共通した業を光輪
に見抜かれ、そろって落ち込む。
中庭での春花から夏花への改植作業のあと、北尾のことを
調べていたしのやんが、いっき、しゃら、りんの助言を求め
る。北尾が孤立児童であったことを探り当てたしのやんは、
その彼女がなぜメリアに適応出来ていたのかを不思議がる。
答えが出ないまま会長の家を訪ねたいっきとしゃらは、聖
メリアの理事長若槻光代から、北尾が怠業によって聖メリア
を退学させられるという衝撃の事実を知らされる。
その後若槻は、北尾を伴ってぽんいちへの編入を沢渡校長
に打診した。立ち会ったいっきは、北尾に自発的に楽しいこ
とを探すように勧める。
会長の出産を控えてばたつくいっきの周辺。その合間に体
育祭の種目登録があり、いっきはテニスを選択した。
そして、いよいよ会長の出産が始まった。慌ただしく産院
に出かける会長たちと入れ替わるように、会長の義理の母で
ある津川松枝(つがわ まつえ)が工藤家を訪ねてきた。
津川は、会長とその父が母親の心の病で苦労してきたこと、
父親の事業の失敗で会長がスナックのアルバイトで生活を支
えたことをいっきたちに話して聞かせた。運命の波に翻弄さ
れてきた会長が、それを乗り越えて今出産に臨んでいること
に、いっきは強い感動を覚えた。
関係者全員が安産を祈る中。早朝に、会長は無事に男の子
を出産。男の子は進(すすむ)と名付けられる。
その同じ日。切羽詰まった若槻と北尾の両親が、泥人形状
態の北尾の説得に一縷の望みを託していっきの家を訪ねる。
ぽんいち校長の沢渡が、北尾の受け入れに厳しい条件を付け
たのだ。それは、自ら復学の意志を示しに来いというもの。
若槻は必死に北尾を説得するが、北尾は無反応。それにキ
レたのは、いっきではなくあっきーだった。北尾をいきなり
引っ叩き、なんでもあるのにそれを無神経に捨てる、あんた
は贅沢だと叫んで泣くあっきー。
そしていっきの母も、親がいつまでも涎掛けを持って子を
追い回すなと言って、北尾親子を突き放した。
会長の出産が無事終わってほっとしたのも束の間、今度は
妹の実生が学校で男子生徒のつきまとい被害を受けているこ
とが分かり、工藤家はその対応に追われる。いっきは、かつ
てぽんいちの養護教諭だった森本にその対応を相談する。森
本は、即座に行動を起こして問題児の引き離しを実行に移し
た。安堵するいっきたち。
いっきの案内で会長の赤ちゃんを見にいった菊田は、自身
の娘の誕生の時に会長から預かったものを返すと言って、銀
のスプーンを会長に贈った。その子が自分の力で幸運をすく
い取りに行きますように、と。
親から見捨てられればどこにも居場所がなくなる、そう恐
れた北尾はぽんいちへの転入を校長に直訴し、北尾はいっき
のクラスに転入してきた。いっきは、構い過ぎないようにと
校長から直々に釘を刺され、それを受けて関係者に事情を明
かして慎重対応をアナウンスした。
転校直後は意気消沈したままの北尾だったが、体育祭への
出場が義務付けられていることをいっきに告げられ、バレー
班に編入される。そしていっきは、バレー班にコスプレをそ
そのかす。うろたえる北尾。だが、ムードはお祭りに向けて
一気に盛り上がり始める。
職業を調べる授業、テーマの題材を学芸員にしたいっきは、
その取材のために県立博物館の井森に連絡を取り、学芸員の
神村(こうむら)を紹介される。神村は中沢の大学の先輩だっ
た。
そして博物館での公開講座の後、井森と神村が上下の公私
に渡る姿勢を批判し、二人が自らの過去や職の決定について
も厳しい目を向けていることに、いっきは強い印象を受ける。
体育祭が近くなる中、テニス班で集まって練習に励むいっ
きたち。ペアの組み合わせや基本作戦が決まり、班の目標が
ドゥマイベストに定まる。クラスでも各班の目標が決まって、
徐々に雰囲気が盛り上がってくる。
そんな中、プロジェクト初の共催イベントとして、体育祭
後に中庭で野点を開催することが決まった。
体育祭目前で盛り上がる中、いっきの盟友ばんこの様子が
おかしいことに気付いたいっきは、急きょミステリー班(し
のやん、さとちゃん)を召集。ばんこから衝撃的な事実を告
げられる。母親を食い物にしている男から、学校を止めて働
けと言われていると。
学生には手に負えないと判断したいっきたちは五条にレス
キューを依頼。五条はばんこの家からちんぴらを叩き出すが、
ばんこの母親の精神的ダメージが大きく、入院治療を要する
状態だった。突如孤立したばんこに、伯母(土屋 巴)の家
での同居を提案するいっき。りんが親身に相談に乗る姿を見
て、いっきはほっとする。
そして。テーマでの発表。テニス班の練習をきっかけに棋
士への道を自ら閉ざして医師を目指す決意を固めた天交、
ジャーナリストを目指す佐倉、保育士を目指すばんこらのき
りっとした姿に強いコンプレクスを感じるいっき。しかし斉
藤は、むしろそうした姿勢の方が脆いのだと警告を発した。
近くと遠くを両方見ろ、と。
伯母の巴の助力があってばんこの事態が落ち着き、いっき
はほっとする。しかし、事情を知らないしゃらが嫉妬に狂っ
ていっきを容赦なく吊るし上げる。
うんざりしながらもフォローのためにしゃらの家に出向く
いっき。しゃらは、久しぶりに二人きりの時間が持てたこと
で機嫌を直す。いっきは、従妹のジェニーが来日するかもし
れないことをしゃらに予告する。しゃらは、いっきに外国人
が扱えるはずがないと、珍しく妬かなかった。
しゃらのジェラシーをかわしてほっと一息だったいっきだ
が、今度は親友のかっちんが新しいクラスになじめず、なっ
つとの仲も進展しないことでへたってしまい、いっきに倒れ
かかってきた。ガッツがあるのにそれを活かせないかっちん
の姿を見て、イライラを募らせるいっき。バイト先で続く校
倉のちょっかいが、余計うっとうしく感じるようになる。
そして、体育祭が始まる。いろいろなごたごたは引きずら
ずにきっぱり楽しもうとするいっきは、テニス班の試合で闘
志剥き出しで勝ちに行き、死闘を戦い抜いて、クラスの球技
班では唯一決勝に進出した。そして決勝。私情を交えず冷徹
に勝ちにこだわったいっきの姿勢は、新旧のクラスメートた
ちに鮮烈な印象を残した。
体育祭では、コスプレバレー班のお笑いに北尾さんがはまっ
ていたこと、佐倉が天交とのペアで勝ち切れなかった悔しさ
を隠さなかったこと、昨年体育祭がきっかけで付き合いだし
たかつての旧友カップルが壊れていたことなどがいっきの印
象に残った。
いっきが自らに課したこと。それをやり遂げた満足感を胸
に、体育祭は幕を閉じた。
体育祭が終わってすぐ。今度はプロジェクトの共催行事と
して、中庭での野点の舞台設営が行われた。弱小部のあり方
を通して部活の意味を一段深く考え始めるいっき。
バイト帰りにしゃらの家に寄ろうとしたいっきは、しゃら
の部屋に男の気配を感じて初めて強いジェラシーを覚え、そ
れが解消しないまま電話をかけてきたしのやんにぶっきらぼ
うな応対をする。それを思いがけず当てこすられて、いっき
はべっこりへこむ。
翌日、しゃらの部屋にいたのがかっちんだと判明してもいっ
きはすっきりせず、いらいらが募っていた。その態度をりん
からも指摘され、いっきはひどく落ち込む。
その後気晴らしに出向いた設楽寺で、いっきは住職の光輪
に荒れ狂っていた過去を聞かされる。穏やかな今の姿との
ギャップにとまどういっきに、光輪は言い放った。俺は石だ。
どんなに尖っていても、誰かが手に取らない限り何もしない。
出来ない、と。
家に帰ったいっきはしゃらに、自分は今精神的に余裕がな
いと吐露して理解を求めた。
しのやんにも精神疲労の現状を訴え、どよっていたいっき
とは対照的に、体育祭を乗り切った北尾が思い切った行動に
出た。いっきの主催するプロジェクトに参加を申し込んだの
だ。快諾したいっきは、夏休みに北尾と同じひっきーの従妹
ジェニーが来日するかもしれないことを、みのんと北尾に告
げる。
そして、中庭で茶華道部とプロジェクトの共催の野点が行
われ、校長、教頭の飛び入り参加もあって、成功裏に終わる。
久しぶりに、すっきりと満足感に浸ったいっきだった。