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三年生編 第94話(6) [小説]

学校から帰った僕は、自分の部屋の窓を開けて暮れかかっ
た空を見回した。

「もう……これから秋、なんだよなあ」

すっかり涼しくなってきた夕方の風。
それに吹かれながら、今日の受賞発表のことを思い返す。

僕やしゃらが始めて、鈴ちゃんたちがしっかり受け継いで、
たくさんの一年生を迎えてでっかい花を咲かせたプロジェ
クト。
僕らは、何かを引き継ぐっていうことの大切さを身をもっ
て思い知らされて来た。

プロジェクトからの卒業が目の前に迫ってきた今。

僕は、なぜプロジェクトを後輩たちに受け渡してこれたの
かなあと、その理由をじわっと考える。

「……」

正直に言おう。
僕の思いつきがプロジェクトとして膨れ上がっていく間
に、中庭に関わることが僕が楽しいと思えるレンジを超え
ていってしまった。

鈴ちゃんが責任の重さに耐え切れなくて泣いたみたいに。
僕にとっても、プロジェクトの総責任者の立場は重くて苦
しかった。

でも。

僕は、プロジェクトを投げ出してしまおうと思ったことは
一度もない。
どんなにモチベーションが下がってる時も、どんなに困難
にぶち当たっている時も、もう止めようと思ったことは一
度もない。

それは責任感とか義務感とか、そういうものとは違う。
僕が面白いと感じることが、作庭そのものではなく人に
移っていったからなんだ。

ものすごく入れ込む子。
どっか冷めてる子。
真面目すぎる子。
ちゃらんぽらんな子。

意識もやる気もばらっばらの子が、プロジェクトっていう
容れ物に入った途端に生き生きと動き始める。

なぜばらけないんだろう?
なぜ衝突しないんだろう?
それが不思議で不思議でしょうがなかった。

僕は……そこが楽しかったんだ。

同じ学年の子たちとわいわいやる。
それがスタートの時の形だった。
そこには横糸しかないから、年をまたいだらすぐにばらば
らになりかねなかった。
生徒会の木崎先輩に指摘された通りだ。

でも鈴ちゃんたちが入ってきて、縦糸が通った。
そうしたら、横糸の意味をもっと深く考えられるように
なった。

今、縦糸と横糸がしっかり組み合わさって、すっごいきれ
いな模様が浮かび上がってる。
そして、タペストリーはまだ編み終わっていない。

縦糸が途切れても横糸が足りなくても、きれいな模様は作
れない。
でも、どういう糸をどれだけ使えるかは、初めからは決め
られないんだよね。

それなら、その時その時に使える糸でどういう模様を作れ
るか考えよう。必要なら解いて編み直そう。

そこが……僕にとってのプロジェクトの楽しさだったん
じゃないかと思う。

「ふう……」

僕という縦糸と横糸は、もうすぐプロジェクトのタペスト
リーから抜かれる。
記録や記憶としては残るんだろうけど、これからプロジェ
クトを引っ張る子にも、僕にも、それはあんまり意味がな
いかなと思う。

それより。
僕は、楽しいから編み続けようというモチベーションを残
していきたい。
そして、それを引き継いでいって欲しい。

たくさんの失敗と試行錯誤の先に、ちょっぴりの成功。
それで……かまわないと思う。

だって、同じ庭は作れない。
どんな庭であっても関わったメンバーが全力をぶち込めた
なら、それが彼らの庭だ。

新しい模様を。
四季と同じように変化していくタペストリーを。
ぽんいちに集う生徒と先生に見せ続けられること。
その縦糸がこれからもずっとずっと続いていくことを。

僕は心から祈る。



komat.jpg
今日の花:コマツナギIndigofera pseudotinctoria



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三年生編 第94話(5) [小説]

がたあん!!
永見さんとゆいちゃんが、そろって立ち上がった。

「そ、それって」

「校長の爆弾はそこだよ。夏休みじゃない」

「……」

「違反したことを摘発するための監視じゃなく、その前。
予防措置としての相互監視の導入。そんなの、絶対にやっ
て欲しくなかったけどね」

「う」

「でも、校長が何度も警告し、風紀委員会でも具体例付き
で注意喚起を徹底してたのに、これだもん。僕が校長でも
爆弾を落としたくなるよ」

「でもさあ。実際、どうなるんだろ?」

ゆいちゃんが、心配そう。

「こればかりは僕にも予想付かない。警告としては最大の
ものだから、さすがに効いて欲しいけどね」

「一人違反者が出ただけでもアウトじゃあ……」

「それはないな。多分」

「ないよね」

しゃらも僕の意見に同意。

「一人違反で全員アウトなら、逆にみんなが暴発すると思
う」

「あ、そうか……」

永見さんが納得したようにうなずいた。

「だから、そこはぼかしたんだ」

「そう。停学期間が終わって出てきたやつが、ハクが付い
たって自慢しないように先手を打った。そういうことじゃ
ないかなー」

「それにしてもえげつない」

ゆいちゃんが、ぷうっと膨れた。

「それが安楽校長だよ。決して僕らの味方にはならない。
でもそれでいいと思う」

ノートをぱたっと畳んだ永見さんが、大きな溜息をついた。

「はあああっ……生徒会も、あとが大変だあ」

「まあね。でも、顧問の瞬ちゃんが目を光らせるでしょ」

「わたしらはいいけどさ。後輩はびびっちゃってるから」

「そこらへんは、根性鍛えてもらうしかないよなー」

「ねえねえ」

僕としゃらを見比べた永見さんが、ぐいっと身を乗り出し
てきた。

「プロジェクトの一年で、いい子いないの?」

思わずしゃらと二人で叫んだ。

「プロジェクトは、生徒会役員の養殖場じゃないってば!」


           −=*=−


僕と鈴ちゃんは、校長から前もって審査員特別賞の受賞を
予告されてたけど、実際に受賞が確定したら喜び千倍万倍
だった。
コンテストサイトにもでかでかと高校名が載り、受賞理由
や僕らの集合写真がどどーんと掲載されて、気分がごっつ
盛り上がった。

放課後全部員と顧問の中沢先生が視聴覚室に揃って、全員
で万歳三唱。雰囲気最高!

鈴ちゃんが目をきらきらさせて、ぶちまかす。

「ええと! これで終わりじゃないです! 来年どうする
かは、一年生の間で話し合ってください。来年の主役は一
年生ですから!」

うおおおっす!
一年生部員の間から拳がぽんぽんと突き上げられた。

「そして、もう秋冬花壇の設計スタート! 照準は学園祭
です。他の高校の生徒も中庭を見に来ます。実務班は花壇
の設計と作業予定、企画班はJVのセッティングを急いで
詰めてくださいね。やることはいっぱいありますよー!」

ぱん! ぱん!
あちこちでハイタッチの音が聞こえて、気分が盛り上がっ
たまま臨時総会は解散になった。



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三年生編 第94話(4) [小説]

昼休み。教室のど真ん中で。
腕組みしたまま、僕としゃら、永見さん、ゆいちゃんの四
人でずっとうなってる。

「ううー」

「ううー」

「うううー」

「まさか、あそこまでぶっ飛ぶとは」

永見さんが、頭を抱えてうずくまった。

「まあね。生徒会との協議で今の校則が動いちゃってる以
上は、校長にあれはまずいよって言えないよなあ」

「さすがにそんな権限はないわー。でもさー、あれっても
ろ相互監視の徹底でしょ?」

いや……そうじゃないな。

「違う。逆だよ」

「え?」

永見さんとゆいちゃんが、ぽけらった。
しゃらも僕と同じで、うんうんとうなずいた。

「わたしも違うと思う。誰かがなんかやらかしてるのを見
てそれをちくったら、自分の夏休みまでぱーになっちゃう
んだよ?」

「あ!!」

ゆいちゃんが、すかさず手帳にシャーペンをぐりぐり走ら
せた。

「そうか。逆だ。警告は厳しいけど、やるなら見つからな
いようにやれって……そゆことか」

おいおい、ちょっとちょっと。思わず苦笑い。

「それも違う」

「へ?」

「あれは、校長の最後っ屁だよなあ」

「あはは……」

しゃらも苦笑してた。

「うん。そうだよね。もう君たちの面倒は見ないよってこ
とでしょ?」

「そう」

「……」

「だって、校長先生の任期はもう残り半年もないんだも
ん。そしたら、校長先生が違反して捕まった生徒をかばっ
たり、処分を手加減したり、出来ないよね?」

うん。しゃらのでぴったり。

「じゃあ、何も言わないでほっといた方がよかったんちゃ
うの? どうせ自己責任なんだからさ」

ゆいちゃんの指摘はもっともだ。
他の生徒も同じように考えてると思う。でも……。

「違反するなっていうのは分かりやすいけど、違反したら
どうなるってことは僕らに意識させにくい。校長は、卒業
したらどうたらって言ってたけど、今高校にいる僕らには
関係ないの。はっきり言って。で、停学っていう処分が深
刻なことだって、僕らが考える?」

「うーん」

「学校側が処分の悪影響をいくら説明しても、僕らにはぴ
んと来ない。ガッコ行かなくてラッキー、くらいで」

「うげ」

永見さんが、大丈夫かこいつって顔で僕を見る。

「そしたら、僕らに意味のある形で警告出すしかないじゃ
ん」

「それが、夏休みの話?」

「そう。全員アウトになるなら、しそうなやつに普段から
プレッシャーがかかる。おまえ、分かってんだろうなって」



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三年生編 第94話(3) [小説]

こほんと一度咳払いした校長は、大きな声で鈴ちゃんを呼
んだ。

「ハートガーデンプロジェクト部長、鈴木則子さん!」

「はい!」

「登壇してください」

鈴ちゃんには知らされてなかったんだろなあ。
ちょっと慌てた様子で、鈴ちゃんがステージに上がった。

校長に一礼した鈴ちゃんに向かって、校長が右腕を差し出
した。

「素晴らしいチャレンジです。受賞、おめでとう!」

その手をがっちり握り返した鈴ちゃんが、声をあげて泣き
出した。それから、右手をぽんと突き上げた。

「みんなにっ! ありがとおーっ!」

わあっ! ぱちぱちぱちっ!
体育館の中が歓声と拍手で埋まる。
僕も……ぐっと胸が詰まった。

うん。部員にありがとう、じゃない。
みんなにありがとう。そうだね。

プロジェクトメンバーの目が、いつでも生徒や先生の方を
向いていたからこそ、プロジェクトの活動はずっと熱を失
うことがなかった。盛り上がったんだ。

満足げにうなずいた校長が、まだ目を擦っていた鈴ちゃん
に声をかけた。

「今月末に、東京で受賞式があります。その時に、本校の
代表として堂々と成果を披露してください」

「はいっ!」

わお! 授賞式かあ。すげー。

まだ興奮していた鈴ちゃんがのしのしとステージを降りた
あと。校長は、すかさず次の爆弾をぶちかました。

「素晴らしい話の後で、お小言は言いたくないんですが」

やっぱりかあ……。

「プロジェクトの活動にも、これまで何度か逸脱行為があ
りました。ただし部長をはじめとする各部員が、自分たち
の行為の意味と影響を考え、クリーンな活動にしようと努
力して来たんです。それは、プロジェクトが今年組み直し
になったことでも分かると思います。実に見事な襟の正し
方でした」

校長の表情が見る見る険しくなった。

「彼らの筋の通し方が、四角四面で馬鹿馬鹿しいと思って
いる生徒さんがもしいるのなら。それは、今のうちに考え
直していただきたい。いいですか?」

「みなさんが卒業後に直面する世界は、校則以上にルール
に厳しいんです。それは法律云々ということだけじゃない。
基本的な社会通念、倫理観。そういうものも含めてです」

「過ちを繰り返せば、どんどん社会の中での自分の位置付
けが下がります。そこから盛り返すのは、うんと難しくな
るんです」

ぎん!
校長が鋭い視線を巡らせる。

「それを……ここにいる間に、しっかり心に叩き込んでお
いてください」

校長が背広のポケットから白いメモ紙を取り出して、ぐ
るっと見回した。

「悪意をもって行われなくても、校則違反は起きてしまい
ます。友達の誘惑、危機意識の甘さ、感情や衝動を制御出
来ないこと……」

「でもね。どういう理由があっても、結果をひっくり返す
ことは出来ません。事実として、出来ません。それをしっ
かり肝に銘じてください」

「いいですか? 人は結果しか見ません。それが全てなん
です」

そのあとで校長がぶちかました爆弾は、はんぱなもんじゃ
なかった。

「私が何を言っても脅しだろう。そう取られると困りま
す。私は事実しか言いませんよ」

「夏休みの間に二十数件もの重大な校則違反が摘発され、
学校側では違反者に厳格な処分を出しました。しかし、そ
の処分に効果がないのであれば、もっと実効のある処分に
切り替えなければなりません」

「違反が長期の休みに集中したことを鑑み。これから一年
間みなさんの意識に改善が見られなければ、来年の夏休み
を廃止します」

ぎょええええええええええええええええええええっ!?

「いいですか? もう一度言います。私は事実しか見ませ
ん。みなさんそれぞれに、校則を守るということの意味を
今一度考え直し、自分の身を自分で守るためにはどうすれ
ばいいのかをしっかり考えてください」

「これで、本日の朝礼を終わります」

あっさり。
無表情のまま、校長がすたすたとステージを降りた。



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三年生編 第94話(2) [小説]

でも。
校長は、すぐにぴしりと突き放した。

「プロジェクト側からの提案を受けて、学校側はダメを出
します。決して丸呑みにはしていません」

「つまり、どうやったら一番いい庭が出来るか、その真剣
度を学校側がいつも量っているんです。そのレベルが水準
を割ったら、それ以降プロジェクトの活動は認めません。
庭の管理は、本来は学校側の専任事項ですから」

さっきまで沸き立っていた生徒が、今度は水を打ったよう
に静まった。

「いいですか? それは今私が言い出したことではなく、
最初にプロジェクトが出来た時から一貫して言い続けてい
ること。私だけではなく、前校長の沢渡さんも、です」

校長が、厳しい表情で僕らを見回した。

「受賞するまでの三年間。プロジェクトに携わった部員た
ちが、その原則をきちんと肝に据えてこれまで全力で努力
してきたこと。その不断の努力あってこそ、この賞に結び
ついたのだと。私は確信しております」

校長が、壇の後ろから出てステージの前に移動した。

「来年度から、部活動の方針を転換します。基本は既得権
の廃止です。惰性で続けられる部活には意味がありません」

「楽しみたいでも、鍛えたいでも、友達を作りたいでも。
動機はなんでも構いません。でも、部活には熱意をもって
取り組んでほしい。そうでないと部活が楽しくありません。
そうでしょう?」

そりゃそうだ。
多くの生徒がうなずいた。

「来年度から、部は年ごとに新設していただきます。今あ
る部が来年無条件に続くということはありません。それが、
どんなに大きな部であっても、です」

ええーっ!?
大きな悲鳴があちこちで上がった。

「そうすることで、本当にやりたいという子が集まった部
に人と資源を集めることができます。もう一つ、それに
よって組織をしっかり固められます。部活が形だけで、中
で何が行われているか分からないという事態を作らなくて
済む」

「やる気があって組織化さえ出来れば、これまでの三年
ルールの縛りがなくなりますので、新しい活動を試したい
というチャレンジが生まれます。私はそれを期待します」

校長がにこっと笑った。

「プロジェクトが担ってきたのは、まさにそのテストケー
スなんです。一人が起点になって、なんかやろうよと仲間
を集めて組織し、活動方針を決めて学校や生徒会と交渉
し、出来ることを充実させてきた。もしプロジェクトが数
人のままだったら、コンテストへの応募などとてもかなわ
なかったでしょう」

「プロジェクトに負けないよう、みなさんの新たな取り組
みが沸き起こることを心から期待します」

「いいですか? みなさん!」

校長が、大きな声を張り上げる。

「受賞という結果を見てはいけません。私に言わせれば、
受賞するのは当然なんです。それだけのクオリティがプロ
ジェクトにあるんですから。それよりも、なぜプロジェク
トがそこまで成長出来たのか。その理由をみなさんそれぞ
れに考えていただきたい!」

さすがだなあ……。
プロジェクトを持ち上げるんじゃなくて、おまえら負ける
なと競争意識をあおった。
来年の部活制度の変更のアナウンスをそこに持ってきた。
妖怪の安楽先生らしいな。


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三年生編 第94話(1) [小説]

9月7日(月曜日)

まあ……身内のこともプロジェクトでもいろいろあるけど。
リカバリー出来ないことではないし、これ以上事態が悪化
するってこともないだろう。

せっかくフォルサで暴れてすっきりしたことだし、集中力
を取り戻してアゲアゲで行こう。

「うーっす!」

「おっはー」

しゃらも表情が明るい。
今の仮暮らしも残り一ヶ月を切って、新しい家での生活が
始まるのが楽しみなんだろう。

ただ……朝礼がなあ。
各月最初の定例朝礼だけど、処分の発表直後だし、校長か
らかなりきついお達しが出そうな気がする。
残念ながら、完全に視界良好ってわけには行かないね。

「さて、朝礼に行くかー」

「かったるー」

みんなも、あまりいいことは待ってないだろなーっていう
感じで、だるそうに教室を出ていく。

ぞろぞろぞろ……。


           −=*=−


体育館に生徒と先生たちが全員揃って、整列。
静まり返った体育館に、大高先生の大きな声が響いた。

「校長挨拶!」

いつもと変わらない表情で、すたすたとステージの真ん中
に出た校長は、マイクを外して手に持った。
特に厳しいことを言いだしそうな感じではないけど……ど
うかな?

「おはようございます!」

おはようございまーす。
生徒の声のトーンもなんとなくどよっている。

「本日の朝礼ですが、一番最初にとても嬉しいニュースを
みなさんに報告します」

お? なんだろ?

てっきり処分関係の話が出るかと思ったら。
おやー?

「本校の部活動は近年全体的に低調で、個人部門での入賞
者は輩出しても、部として高い成績を収めることがありま
せんでした。ですが……」

ああっ!
もしかして!

体育館の中が、大きなざわめきで満たされた。

「静粛に!」

大高先生のでかい声で、警告。
体育館内が再び静まる。

「本校が誇るプロジェクト。ハートガーデンプロジェクト
が応募した高校ガーデニングコンテストで、本校は入賞の
みならず、審査員特別賞を受賞するという栄誉を獲得しま
した!」

どおおおっ!!

各クラスの部員が、一斉に弾けた。

奇声をあげる子。
ぴょんぴょん飛び跳ねる子。
拳を突き上げる子。
部員どうしで抱き合う子。

いつもならすぐに制止の声を上げる校長が、少し間を置い
た。

「お静かに」

まだ余熱とざわつきを残しながら、体育館の中が徐々に落
ち着きを取り戻す。

「まだ活動歴の浅いプロジェクト。庭作りのノウハウや完
成度は、上位校のレベルには達していません」

し……ん。

「しかしプロジェクトは学校主導ではなく、生徒主導の活
動です。学校は一切後押しをしていません。審査員特別賞
をいただいた中身は、まさにその自主性の部分なんです」

どおおっ!
体育館の中の熱気が一気に弾けた。



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三年生編 第93話(9) [小説]

僕がにまにましながら数学の問題集を開いたら、机の上の
携帯が鳴った。

「ほん?」

誰だろ? 知らない番号だけど。

「はい? 工藤ですー」

「ああ、済まんね。宇津木です」

どてっ。
思わずぶっこけた。

「宇津木先生! どうしてまた」

「後野と会ったんだろ?」

「はい、さっきフォルサで偶然」

「荒れてただろ」

「仕方ないですよー」

「ああ、あいつ、事情を話したんだな」

「ええ。うちのプロジェクトでも処分者が出たので」

「あたた……」

「二人して、愚痴りあってました」

「ははは。あいつ、どうだった?」

「半端なく荒れてましたよ。でも、これからの方が大事で
す」

「うん」

「後野さんの後継、女の子だって聞いたんで、サポ固めた
方がいいよってアドバイスしました」

「助かる」

「うちもトップが鈴木さんなんで、事情が似てますから」

「そうだな。気持ちを立て直せたってことか……」

「そりゃそうですよー。僕らはもう受験目前です。そろそ
ろ意識をそっちに集中させていかないと」

「ああ。あいつもそう切り替えてくれればいいんだがな」

「大丈夫じゃないすか。しっかりビジョン持ってるし」

「そうだな」

「その分、フォルサのサンドバッグがとばっちり食ってま
したけど」

「そっちに行ったか」

「後野さんと二人で、めいっぱいどつき回しました」

「くっくっく。君も大変だな」

「でも、そろそろ完全引退です。いつまでも僕が前に出て
ると後輩が育たないんで」

「そうだな。あいつにもそう言っておこう」

「また後輩が見学でお邪魔すると思いますので、よろしく
お願いいたします」

「そうだね。私たちも勉強させて欲しい。突然済まんね」

「はあい」

ぷつ。

「ふう……」

宇津木先生は心配だったんだろうな。
せっかくどん底からてっぺん近くまで這い上がった後野さ
んが、小さな傷から壊れてしまわないかって。

後野さんにとっては、切り盛りしてきた植物工場は自分の
全エネルギーとプライドを注ぎ込んできた努力の結晶。
それを大事にしたいっていう気持ちはよーく分かる。

ただ……。
その思い込みが強すぎると、後輩の気持ちとの落差が埋ま
らないんだ。

後輩の裏切りに頭が煮えるのは当然だけど、その原因がも
しかしたら自分にもあるかもしれないってことを考えとか
ないとだめなんだよね。

去年なら、きっと藤原さんがそれに気付いただろう。
でも、今の赤井部長にはそこまでの余裕がない。
僕らの同期で言えば、かっちんやしのやんみたいに僕に厳
しい突っ込みを入れられる役。
それが……同じ部にいなかったんちゃうかなあと。

でも。
後野さんは、なにがなんでも俺が俺がっていうタイプじゃ
ない。よーく状況を見てるんだ。

僕の志望の裏まで読み取ったのは、後野さん一人だけさ。
それは、僕の親やしゃらにすら出来なかったこと。
恐ろしいくらいに人を読むんだよね。

その能力を悪事に使われたらとんでもないことになるんだ
ろうけど、後野さんの目標はそんなちんけなところに置か
れてない。
部に入れ込んでた分だけ、自分を冷静に読むってところが
少し弱くなってた。それだけだと思う。

そして。
これからは部を離れるしかない。
自分自身をプロデュースするしか、気持ちを切り替えるし
かないんだ。

だから、後野さんなりにアグリ部での自分に落とし前をつ
けると思う。
僕は何も心配してない。

僕は……つくづく思う。

自慢できるのは、出来上がった庭じゃない。
その庭を作り上げるまでに、どれだけ自分をぶち込めたか。
そこなんだ。

そして僕も後野さんも。
そこだけは思い切り胸を張れるよ。

猫がひげをぴーんと張るみたいにね。




nekohige.jpg
今日の花:ネコノヒゲOrthosiphon aristatus



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三年生編 第93話(8) [小説]

うん。
不思議だよなあ。

もし。もしも、だよ。
高校入ったばっかの時に街中で後野さんと出くわしていた
ら、僕らは敵対していたかもしれない。
あの双子と鉢合わせた時みたいに、敵意剥き出しでしょう
もない削り合いをして。
せっかくの高校生活を、台無しにしていたかもしれない。

でも僕らが出会うまでの間にたくさんの出来事があって。
その間に僕も後野さんも変わった。
だから、ああいう建設的な話につなげられるんだよね。

僕らが過去を全部清算したなんて、とっても言えないよ。
まだ、いっぱいガラクタを背負ったままさ。
だからやり場のない怒りが処理できなくて、サンドバッグ
にぼかあんと出た。

でも、怒りをぶつける相手が人じゃなくてサンドバッグ
だったのは……僕らが少しマシになったってことなんだろ
う。

信用とか信頼を裏切られたことには、すごく腹が立つ。

でもさ。
じゃあ、僕らは偉そうに言えるような過ごし方をしてきた
かっていうと……微妙。

なんでも許すわけにはいかないけど、でも僕らに裁く権利
があるわけでもない。
中沢先生が、部員同士で責め合ったらだめだよって言った
意味。そこなんだ。

たとえ部長だろうがマネージャーだろうが、学生としての
立場には何も差がない。それなのに上下関係の押し付けを
やってしまったら、ゆるさが売りのプロジェクトが壊れて
しまう。

マネージャーの四方くんに与えている部員排除の権限。
それはあくまでも最後の手段であって、最終兵器が一度も
使われないってことが一番望ましい。
単なる抑止力で終わって欲しいんだよね。

まあ、そこらへんは中沢先生がよく分かってるでしょ。

「やっぱ、フォルサ行ってよかったなー」

体をしっかり動かせたってだけじゃない。
大場さんと試合して、後野さんとぐちりあって。
そこに人の気配があること。心の交流があること。

ずっと机に向かっているだけじゃ絶対に手に入らない栄養
がもらえること。そこがいいんだよね。



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三年生編 第93話(7) [小説]

「で、そいつの後釜はどうすることにしたの?」

後野さんが、底なしの馬力で盛り立てて来た野菜工場部門。
誰でも跡を継げるってわけじゃないと思う。

「……」

しばらく厳しい表情のまま黙り込んでいた後野さんが、覚
悟したように言葉を絞り出した。

「一年の……女の子っす」

ずっどおおおおん!
今度は、僕がずっこけた。

「うっそおおおおっ!?」

「いや、すごい優秀な子っす。もっと上の高校に行けるの
にアグリ部に入りたいからってうち受けた子っすから」

「すげえ……」

「ただ植物工場部門は、アタマでは出来ないっす。カラダ
張らないと」

「だよなー」

ふう……心配なんだろなあ。
女の子はまだまだ少数派だ。
男の子に囲まれると、言いたいことが言えなくなるだろう
し。

「そしたら、おみこし担ぐしかないと思う」

「おみこし、すか?」

「そう。うちも部長が女の子。いくら突破力がある子だっ
て言っても、大所帯だからプレッシャーがはんぱない」

「……うん」

「んで、部長以外のサポメン、全部男で固めたの。僕が指
導したわけじゃないよ。自然にそうなったんだ」

「おっ! そうかあ」

「そうやって負荷分散しないと、保たないわ」

「いいアイデアっすね。トオルと相談して、急いでケア考
えるっす」

「うん。特定のところに負荷が集中しないように、バラし
たらいいよ。うちも一時マネージャーの四方くんに全負荷
がかかって、彼が潰れそうになっちゃってさー」

「げ」

「で、一年からもサブマネ出させて分散させたんだ」

「すげえ……うまいことやってるなー」

「苦労したけどね。プレッシャーで、二年生何人か泣かせ
ちゃった。でかい反省点だあ……」

うちもアグリ部もそうだと思うけど、やっぱこれで完璧っ
ていうスタイルはないんだよね。
どっかこっかに穴があって、どっかこっか歪んでる。
それを修理しながら形を作ってきて、やれやれと思った
ら、もう次の子たちがどどっと来ちゃう。
そして、僕らはもう退場なんだ。

でも。
そういうプロセスをみんなに体験してもらうのも、きっと
部活での勉強のうちなんだろう。

「それはそうと。受験勉強の方はどう?」

「うー」

後野さんが、微妙な表情。

「なんかー。俺が受験会場にいるって姿が、まだ想像出来
なくて」

「だははははっ!」

思わず馬鹿笑いしちゃった。

「おんなじだー。まだぴんと来ないんだよなー」

「夏休みは合宿行ったんすか?」

「行ったんだけどねー。まだ志望校固めてなくて」

「おわ……」

「予備校の先生に呆れられちゃった」

「……。決めたんすか?」

「決めた。もう動かさない。県立大生物。合格したらバイ
オをやるつもり」

「えっ?」

後野さんが絶句した。

「なんか……イメージが」

「ちぇー。みんなにそう言われるんだよなー」

でも後野さんは、これまでの人と違って僕がなぜそうする
のかをじっくり考えてるみたいだ。

「工藤さんの好きなこと……じゃないすよね?」

「嫌いでも好きでもないかなー。まだなんとも」

「あ、なるほど」

後野さんがぽんと手を打つ。

「それなら分かるっす。ゼロからやりたいってことじゃな
いすか?」

お!

「当てたのは後野さんが初めてだなー」

「それって、プロジェクトを手作りした時と同じプロセス
じゃないすか」

わあお!

「うん。ぴったり。でも、プロジェクトは仲間とやったで
しょ?」

「そっか。今度は一人でじっくりってことすね?」

「そうなの。急かされたくない。僕は……元々はのんびり
なんだよね。みんなとわいわいもいいけど、それはオフで
やりたい」

ぐん!
後野さんが、強くうなずいた。

「俺と逆だ。俺はどうしても組織したい。俺が頭をやりた
い」

「うん。そこが、それぞれの個性になるんじゃないかなー」

「はあ……やっぱ、進路って面白いっすね」

さっきまでものすごくいらいらしていたはずの後野さんか
ら、完全に毒々しさが抜けた。
いつもの、のほーんとした後野さんの雰囲気に戻った。

それは……僕らが部活にこれ以上関われないからだ。
学校を卒業するまではもう少しあるけど、部活からは一足
先に卒業なんだよね。
それなら僕らは、部活でもらった財産をどう活かすか考え
ないとならない。その財産を無駄にしたくない。

「おっと。そろそろ帰らなきゃ。赤井さんにもよろしくお
伝えください」

「うーっす」

「最後に一発気合い入れてっかあ」

でかいサンドバッグの前に立って、思い切りハイキックを
見舞った。

どばあん! ぎしっ! ぎしっ。

「すげえ。工藤さん、素人の蹴りじゃないっすよ」

「わははっ! それはお互いさまということで」

後野さんも、最後にもういっちょと思ったんだろう。
渾身のミドルをサンドバッグにぶち込んだ。

ずしーん! ぎしっ! ぎしっ! ぎしっ。

「ふう……」

「ほいじゃ、またー。後輩が見学でお邪魔すると思うの
で、よろしくですー」

「ほーい。待ってますー」



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三年生編 第93話(6) [小説]

「うっそおおおおおっ!」

「いや、いろいろあってね」

思わず渋ぅい顔になっちゃう。

「僕は風紀委員会なんか要らないって主張してたし、校長
にも逆効果だって言い続けてたんだけどさ」

「出来ちゃったんすか」

「学校が決めることだからね。ノーとは言えない。でも、
学校側に好き勝手に使われたら、めちゃくちゃだよ」

「あ、それで」

「そう。委員長だからああしろこうしろはないよ。絶対そ
れはやりたくない。僕が言いたかったのは一つだけ」

「……」

「学校側はやるったらやる。だからみんなしっかり自衛し
て。それだけなの」

「そうっすよね……」

「それがさあ。一番学校側の監視が厳しいうちのプロジェ
クトから補導者が出ちゃうなんてさあ。もう、がっくりも
いいとこだよ」

後野さんは少しだけ溜飲が下がったんだろう。
剥き出しにしていた闘気を少し引っ込めた。

「そいつ、どうなったんすか?」

「学校側の処分は三日間の停学。でも、プロジェクトとし
てはそれじゃ済まされないよ」

「退部?」

「もし二、三年生なら速攻で叩き出すよ。でも、一年坊で
しょ? 顧問の先生からがっつり説教。それと二週間の部
員資格、部活参加停止あーんど反省文提出」

「がっちり絞ったんすね」

「まあね。それが嫌なら止めればいい。うちは出入りがゆ
るゆるだもん」

「ああ、そうか」

「幸い飲酒や喫煙に絡まなかったから、一番軽い処分で済
んだけどさ。勘弁して欲しいわ」

「ふう……」

「後野さんとこの方が大変でしょ?」

「そうっす。俺も宇津木先生もまるっきり予想してなかっ
たんで、ごっつパニクって」

うわ……。

「でも、なかったことには出来ないっす」

「退部?」

「いえ、除名です」

「最高刑だね」

「うちは学校の部費だけじゃなくって外の予算も取りに
行ってるから、今回みたいのは本当にヤバいんすよ」

「そっか……」

「そいつが信用なくすだけならいいっすけど、アグリ部全
体の評価落とすことになったら、先輩たちに顔向け出来な
いっす」

「分かる。分かるなー」

鬼の形相になった後野さんが、サンドバッグに強烈なミド
ルを見舞った。

ずしいいいいん!

「くそったれえっ!!」

本当だったら、とっ捕まえて直接ぼこりたいところなんだ
ろなあ。でも、さすがにそれは……ね。


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