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三年生編 第111話(5) [小説]

家に帰ってから、すぐ巴伯母さんに連絡を入れた。
弓削さんの時と違って、伯母さんの力で何とかして欲し
いっていう話じゃない分、僕は気楽だった。

弓削さんのケア絡みで則弘さんのこれまでの経緯は一通り
話をしてあるから、則弘さんがここに来てからのぐだぐだ
な生活と今回起こしたアクシデントを追加で説明する。

もちろん、伯母さんの中では穀潰しのくせに弓削さんに手
を出した則弘さんの印象は最低最悪のはずだけど。
だからって、放っておけとも言わないと思う。

「ということなんですけど」

「ふうん」

僕の話を聞き終わった伯母さんは、乾いた返事をした。

「まあ、正直言わせてもらえば、ああいう箸にも棒にもか
からないろくでなしはどっかで野垂れ死んでしまえばいい
と思うんだけど」

うう、容赦ないのう。

「そうは行かないでしょ」

お、さすが伯母さん!

「彼をなんとかしないと、御園さんの御宅が崩壊してしま
う」

「あ、そっちか」

「そりゃそうよ。五体満足で、役立たずだと言っても今働
けているなら、基本は自力でなんとかしなさい、なの」

「はい。僕もそう思うんですけど……」

「でも、図体はでかくても、中身が小学生じゃね」

「うう。中学生以下っすか」

「そう。親に反発したくても、そこまで心と体がまだ発達
していない小学生。そのものよ」

こほんと一つ咳払いした伯母さんが、淡々と話す。

「全てが彼のせいではないわ。気の毒な経緯があったこと
はわかる。でも年齢的に言い訳ができないし、則弘さんに
こびりついてしまった本能的な生き方はそうそう変えられ
ないでしょ

「本能的な生き方、かあ」

「そう。寄生虫としての生き方」

うん。僕もそう思う。
自力でなにか作り出すことをしないで、強い者にくっつい
ておこぼれをもらって生き延びる。
でも、本物の寄生虫ならともかく、人間は寄生虫にはなれ
ないよね。誰もがそんなやつは遠ざけようとするから。
善人だけじゃなくて、悪人ですら。
役立たずの寄生虫なんか要らないって。

僕の推測をなぞるようにして、伯母さんが丁寧に説明を足
した。

「則弘さんが本当の寄生虫なら、干すだけよ。実際、もう
干される寸前だし。それで寄生虫は駆除できる」

「ひええ。駆除っすか」

「でも、彼は寄生虫じゃない。人間だからね。寄生虫のよ
うに見えるのは生き方であって、彼の本質であるとは限ら
ないの」

「なるほど……」

「そうしたら、手段は一つしかないでしょ」

ごくり。核心だ。

「どういう?」

「寄生虫のふりができないところに隔離する」

「隔離かあ」

「ねえ、いつきくん」

「はい」

「以前、長岡さんて子のお兄さんが同じように万引きで捕
まったの、覚えてる?」

「あ、そうそう。伯母さんが、海外のボランティアスタッ
フにするって言ってましたよね。彼、あのあとどうなった
んですか?」

「ふふ」

伯母さんが含み笑いした。

「楽しそうに向こうで働いてるわよ」

「えええっ?」

それはびっくり。


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