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ちょっといっぷく その207 [付記]

 いつもお読みいただき、ありがとうございます。
 若干長尺の第105話をご覧いただきました。さらっと総括しておきます。

◇ ◇ ◇

 第105話。いっきたちの後輩、現部長の鈴ちゃんたちが張り切って応募した高校ガーデニングコンテストの授賞式の様子を見ていただきました。

 いっきたちにとって、ハートガーデンプロジェクトの活動はとても内向きなものです。自分たちが通う高校の中庭を整備して元気にする。いっきたちの頭には、それしかなかったのですから。なので、鈴ちゃんたちが中庭の存在意義を外向きに発信しようとしたことには、若干違和感を感じていたと思います。

 でも、代が変われば部活の形も変わります。いっきたちのプロジェクトは学校や顧問の先生が主導するタイプの部活ではありません。現部員が一番楽しめる形を模索する……中庭の整備自体はほぼ完了したのですから、それをただ続けてもつまらないという後輩たちのやる気を最も尊重したんです。

 そういう後輩たちのがんばりが受賞という形で結実したものの、大会とかコンテストというものの裏を見せられてしまう形になりました。
 もちろん、全部員がなんだかなあと思っているわけではなく、コンテスト事務局の小熊さんのえげつない当て付けの裏をしっかり読み切っているのはいっきと大人たちだけだと思いますけどね。(^^;;

 いっきは基本的に大人の世界を丸呑みしません。中学時代のいじめに先生たちが何も取り組んでくれなかったという体験を通して、大人の世界が自分たちの現実の延長線上にあるということを冷徹に見通しています。
 その怨嗟にも近い感情は、もっとも近しいはずの親から裏切られた中沢先生(今は桧口先生ですね)も持っていて、だからこそとても乾いた論評になりますね。

 でも、ぶつくさ文句を言ったところで世の中は何も変わらないんです。そういう世の中であるということを現状認識した上で実を取る。コンテストというのもそういうものだよ。こき下ろすでも諦めるでもなく、理解して取捨選択しなさい……そういう先生の示唆は的確でした。


 蝶(人)を呼ぶ庭を目指してねという滝本さんの示唆は、素敵でしたね。

◇ ◇ ◇

 さて。このあとまたしばらくてぃくるでつなぎます。本館で長く描き続けてきた長編小説に一つピリオドを打つ予定なので、しばらくそちらに注力いたします。


 ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽にコメントしてくださいませ。

 でわでわ。(^^)/



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雲の下に夏があり

雲を抜けると秋が来る




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三年生編 第105話(13) [小説]

帰りの電車の中。
手帳を開いてずーっとぶつくさ言っていたら、しゃらに
横っ腹をつつかれた。

「なに?」

「いや、授賞式だったのに、なんか冴えないなあって」

「僕が?」

「そう」

「まあね」

ふうっ。

「いや、去年だったら全開で弾けてたと思うけどね。主役
が鈴ちゃんたちになったから、そこがどうにも」

「あ、そういうことかあ」

「どっか不完全燃焼な感じがあって、それをこの前会長に
ぼやいたんだけどさ」

「なんか言われたの?」

「僕がご隠居の位置に下がったのなら、もうプロジェクト
のことはアルバムに貼ったらって」

「うわ!」

しゃらもぎょっとしてる。
はあっ……。

「会長も厳しいわ。今さら後ろなんかうろうろ見てる場合
じゃないでしょって、そういうことだよな」

「そっかあ」

「会長の言うのは確かにその通りだよ。今まで僕はプロ
ジェクトを全部、何から何まで楽しんできた。それは間違
いなくそう」

「うん。わたしもかな」

「そして、ぽんいちを卒業するまではプロジェクトの一員
として楽しむつもりだけど、プロジェクトと同じで楽しみ
方の形がどんどん変わっているんだってこと。それを認め
ないと始まんない」

「あ、そういうことかあ」

「鈴ちゃんたちが来年をどう考えるかも、僕らとは別さ。
人数が多い一年生をまとめるには、僕らみたいにご意見番
で引っ込んじゃうと保たないかもしれない。最後まで一緒
にプロジェクトを引っ張る。それでもいいと思うんだ」

「なるほどなー。いろいろだってことね?」

「うん。今日は、コンテストのいいとこ悪いとこをいろい
ろ見ちゃったけど、それだって最初から決まった形がある
わけじゃない。なんだ、プロジェクトと同じじゃないかっ
て」

「あはははっ! そう考えるとおもしろいねー」

「でしょ? 大事なのは、蝶を呼ぶこと」

「蝶?」

「そう。さっき滝本さんと立ち話して、そう言われたの」

「蝶……かあ」

「地味でも、蝶を呼ぶ花がある。僕らの活動にしても、コ
ンテストにしても、そういうことなのかなあってね」

「ふふ。そうだね」

満足そうに目を細めたしゃらが、頭をことんと僕の肩に乗
せた。

「わたしは、真っ先に呼ばれたから」




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今日の花:ブッドレアBuddleja davidii



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三年生編 第105話(12) [小説]

結局、会場に最後まで残っていたのは僕らだけ。
他の受賞校の生徒や先生は、いつの間にかみんな会場を離
れていた。
不愉快だったってこともあっただろうし、居心地が悪かっ
たのかもしれないし。

まあ、部員全員でわいわい話できる機会はそうそうないか
ら、残ったメンバーでそのまま今後のことをざっくばらん
に話をして。
最後に庭を見に来てくれた審査員の人にも入ってもらって
記念撮影をし、それで終わりにした。

ぞろぞろと会場を出るみんなの一番後ろにいたんだけど、
僕の後ろで扉が閉まると同時に、中庭審査に来てくれた滝
本さんに呼び止められた。

「ああ、工藤さん」

「はい?」

「滝本です。覚えてる?」

「もちろん! 後輩がいろいろお世話になりました」

「あはは。お世話なんか何もしてないわよ」

滝本さんが、やれやれっていう表情で、閉まった扉をじっ
と見つめる。

「小熊さんは元教育者だから、精神論を全面に出して爆弾
落としちゃったけど、あれが審査委員の総意じゃないって
ことは理解してくれるとうれしいな」

「そうなんですか?」

「私は形なんかどうでもいいのよ。庭造りを通じて、若い
うちから花と緑に親しんで欲しい。業界側の私たちは、そ
れ以上のことは望んでいないの」

「はあ……」

なんとも、コメントしにくいなあ。
僕の変顔の中身を理解してくれたんだろう。
滝本さんが、説明を足してくれる。

「小熊さんが全部手弁当でコンテストをしてるなら別よ。
スポンサーの私たちの意向をつらっと無視して、無神経な
言動を一方的にぶちかまされるのは、本当に困る」

うわ。きっつぅ。
滝本さんの表情が、一気に険しくなった。

「あれが……教育者として王様になってしまった人の欠点
ね。まあ今期で事務局を退任する人だから、もう文句の言
いようがないんだけど。残される委員のことも考えて欲し
かったな」

そっか……。

滝本さんが、手にしていた何かの花を僕の目の前に掲げ
た。
ぱっと見には色の濃いライラックのような、房咲きの赤紫
色の花。わずかに甘い匂いが漂ってくる。

「工藤さん、これがなにか分かります?」

「ブッドレア……でしたっけ」

「素晴らしい! さすがね」

「確か、バタフライフラワーとも言うんですよね?」

「そう。よく調べているわね」

「中庭にまだ大きな木があった時に、顧問の桧口先生と木
を植える意味について話をしたことがあるんです」

「ええ」

「木が茂ると庭がすごく暗くなっちゃうけど、木が虫や鳥
を呼んで生態系としては充実する。いいこともわるいこと
もあるって」

「桧口先生は、生物の先生でしたっけ?」

「はい、そうです」

「さすがだなあ」

「木をどかしてしまったんで、そういう虫や鳥を呼ぶ草花
を積極的に導入するのもいいかなーと思ったんです。ブッ
ドレアもその候補にしたので」

「植えたの?」

「まだ検討中です。花だけで見ると地味なので、組み合わ
せをいろいろ考えないとならないし」

「そう。地味。工藤さんたちの庭もそうよ。決して見る人
をあっと驚かせる庭じゃない。でも……」

滝本さんが、にっこり笑った。

「蝶を呼ぶでしょ」

「そうかあ」

「受賞はあくまでもきっかけに過ぎないの。これからも、
蝶を呼び続けられる庭にして欲しいな。期待してるよ」

「あはは。ありがとうございます。後輩たちに、そう言っ
ておきます」

「じゃあね。波斗さんにもよろしくお伝えください」

ぱちんとウインクした滝本さんが、ぱたぱたと駆け出して
いった。

おっと、僕もみんなに追いつかないと。


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三年生編 第105話(11) [小説]

「そっかあ」

「応募者は、優勝すれば賞金をもらえるだけでなくて自分
の資産価値が上がる。使役する方は、いかがわしいスカウ
ティングをせずに審査員お墨付きの美女を安く釣れる。そ
ういう目論見があれば、応募者にも選ぶ側にもいろいろな
欲が湧くの」

「不正、ですか?」

「確かにそれもある。審査員をお金で釣ったり、体を張っ
たり、経歴をごまかしたり、審査員が応募者を甘い言葉で
騙したり」

「げー」

げんなり。
さっき小熊さんから不愉快な突っ込みが入ったのには、そ
ういう懸念が含まれてたってことだよね。

「ガーデニングはミスコンと違ってうんと地味だから、欲
絡みの要素っては少ないと思うけど、それでもいろいろあ
るってことなんでしょ」

先生が、隅の方に集まってなにやら話をしている審査員の
おじさんおばさんに目をやった。

「賞を取ったということ自体は、審査の透明性や公平性が
担保されている限り素晴らしいことだと思うよ。でも審査
委員会では、受賞者がその結果をどう利用するかまでは制
限できないんだよね」

「結果の利用、ですか」

「そう。たとえば、今回グランプリを取った高校は私立校
だから、受賞歴を学校の売りにしてると思うよ。グランプ
リ受賞校で素晴らしい情操教育を……ってね」

鈴ちゃんと二人揃って、愕然。

「う……わ」

「活動の継続性が担保されていないうちのような一発勝負
のところは、結果を利用しようがないんだ。だから、審査
委員会で安心して警告に使ったの」

「うん。僕も、なんかうまいこと使われちゃったなあって」

「そう思っただろ? まあ仕方ないよ。金持ちの見栄の張
り合いを高校の庭に持ち込まれたら、コンテストの理念が
木っ端微塵だからね」

桧口先生が、皮肉っぽく口の片側だけを持ち上げて笑った。

「ははは。どうだ俺の庭は金ぴかだろうってげびた自慢を
するのは、どうしようもないスノッブ、俗物って言うの。
本当に鼻持ちならない」

ひょいと自分を指差した桧口先生が、鈴ちゃんに向かって
吐き捨てた。

「私の両親がその最たるもんでね。だから、私はスノッブ
が大嫌いなんだ」

「うひい」

鈴ちゃん、大ショック。

「いや、鈴木さんたちの応募はものすごく真っ当なの。ま
さに中庭から元気を発信さ。その発信先を学内だけでなく
て、もっと広げたい。そういうことだよね?」

「はい!」

「それは大いに誇っていいと思うよ。ただ、学校の手のひ
らの上で踊らされてる他校の部長さんや役員さんに広げよ
うとしても無駄だよ」

先生が、会場をぐるっと見回す。
一年生たちが、他校の同じ一年生たちと楽しそうにおしゃ
べりしてる。

「あれでいいってこと」

にっ!

「同じ高校生なんだからさ。馬鹿話でいいんだよ」

「そっか!」

それで、今までずっしりと肩に乗っかっていた重石がぽろ
んと落ちたんだろう。
ぺこっと会釈した鈴ちゃんが、すっきりした顔でぱたぱた
と駆け出していった。

「ねえ、先生」

「うん?」

「やっぱ……いろいろあるんですね」

「まあね。でも、全てのものには両面があるからさ」

「はい」

「そう割り切らないと、とてもじゃないけど世の中渡れな
いよ」


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三年生編 第105話(10) [小説]

「まあ、小熊さんの気持ちはよく分かるんだけど、こうい
うところでは言って欲しくなかったなあ」

「ど、どういうこと……ですか?」

「僕ら以外の各受賞校への講評。えらく素っ気なかったで
しょ」

「あ、そう言えば」

「いくらコンテストサイトで丁寧に書いてありますよって
言っても、受賞式でほとんどスルーみたいな扱いはとこと
ん不愉快さ。僕らだけがその逆。コンテストサイトでは独
創的な活動展開を高く評価するみたいな素っ気ない書き方
だったけど、授賞式ではすごく持ち上げたでしょ?」

「そっかあ」

「ああいう言い方じゃ、まるで僕らだけが受賞に価するみ
たいに聞こえちゃう」

「げー……」

「一生懸命にやってきて見事グランプリ取ったのに、なに
よその塩対応って、思っちゃうよね」

「うう、確かにー」

「まあ、どっちもどっちだと思うけどね」

「そうなんですかー?」

「審査委員からしてみたら、金をそんだけぶちこみゃ、そ
りゃあいいものできるでしょ。あんたら、そもそも考え方
がおかしくない? 少しはコンテストの意義を考えなさい
よ! 学校花壇コンテストじゃない。高校ガーデニングな
んだよ! ……ってこと」

「うん。わたしもなんかイメージ違ったなあって」

「でも、規定でそこを細かく制限してなかったってこと
は、応募した学校には責任がないよね? そこは、常識で
考えてくださいってことだったと思う」

「なるほどなー」

「うちは完全手作りだから、常識の線を引き直すガイドラ
インに使われたんでしょ」

「ぐえー」

頭を抱えた鈴ちゃんが、しゃがみ込んだ。

「えげつないー」

「あはは。会長がこそっと漏らしてたんだよね」

「え?」

「こういうコンテストには、いろいろあるよって」

「そりゃそうさ」

いきなり横から声がして、びっくりしてのけぞっちゃった。

「あ、桧口先生」

「賞を出す方にも受ける方にも下心がある。こういうコン
テストってのは、すべからくそういうものだよ」

先生の論評は、いつも通りでものすごくドライだ。

「そうだなあ。ミスコンを考えたら分かりやすいでしょ」

なるほど!

「自分が美人だっていう自己アピールをする。ミスコンは
そういうものでしょ?」

「はい」

「それにどんなメリットがある? 二人とも、それを考え
てごらん」

確かにな。すっごい分かりやすい。
うんうんと頷きながら、鈴ちゃんが答えた。

「ええとお。賞金がもらえたり、モデルさんとか女優さん
とかの仕事をもらえたりぃ」

「そ。主催する側は、いろんなニーズに適合する美女をコ
ンテストの名目で集めて、選抜することができるよね?」

「はい!」

「それはウインウイン、つまり双方に利益のあるとてもい
い機会のように思える」

「違うんですか?」

「お金が絡まなければ、ね」

「あ……」

鈴ちゃんが、ぐいっと腕組みした。



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三年生編 第105話(9) [小説]

しのやんとみのんの肩を両腕でがっと抱き寄せる。

「キャンヴァスは毎年真っ白に戻る。そこにどんな絵を描
くのかには決まりを作りたくない。僕らが残したいのは庭
じゃない。中庭での活動を僕ら仕様に作り上げていく楽し
さなんです」

「なるほどなあ」

なになにって感じで、三年のメンバーがぞろぞろ集まって
きた。
みんなに問いかける。

「なあ。ここまで、ずーっと楽しかったよな?」

最初からぐふふ顔をしていたりんが、いきなり弾けた。

「ぎゃははははっ! もちろんさっ! お釣りなんか出な
いよ。一円も」

どわはははっ!
りんらしいなあ。全員で大爆笑。

「ま、こんな感じです」

「若いなあ」

小熊さんが、僕らをぐるっと見回して苦笑した。

「安楽さんが、苦労するわけだ」

「えー? 僕らも校長には苦労したから、お互い様ですよ
う」

「当たり前だ」

突然のそっと現れた校長が、僕らを見回してにやあっと
笑った。

「若いうちにうんと苦労せんと、ろくなやつにならん」

「ううう」

「まあ、そのろくでなしの最たるもんが私だがな」

どおおおっ! そこにいた全員で、力一杯笑った。
いやあ、さすが妖怪安楽校長、一枚上手でした。はい。

◇ ◇ ◇

小熊さんが安楽校長とじっくり話し込む態勢に入ったの
で、僕はこそっとそこを離れて鈴ちゃんを探した。

「あれー?」

大役を終えて、弾けてもいい鈴ちゃんの表情がどうにもシ
ブい。

「どしたー? 鈴ちゃん」

「あ、工藤先輩。あのー」

「うん?」

「せっかくの機会だから、他の学校の部長さんともいろい
ろ話をしたかったんですけど、微妙に避けられてしまっ
て……」

ま、そうだろなあ。

「そりゃあそうさ。僕が他校の部長さんでも、鈴ちゃん来
たら逃げる」

「ええー?」

「あはは! それは、鈴ちゃんだからじゃないよ。鈴ちゃ
んでなくて四方くんでも僕でも同じ。必ず避けられる」

「どうしてですかー?」

「審査委員長の小熊さんが余計なことを言ったからさ」

「ええっ?」

あまりに予想外だったんだろう。
鈴ちゃんが、口をぱっくり開けたまま固まってる。
僕もびっくりだよ。まさか審査委員長の口からあんなとん
でもセリフが飛び出してくるなんてさ。はあっ……。



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