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ちょっといっぷく その205 [付記]

 いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 本編を二話だけ進めました。それを総括しておこうと思います。

◇ ◇ ◇

 第103話。
 小ネタです。と、言ってもいっきにとっては、ですけどね。(^^;;

 生徒が誰も望まないのに、前校長(沢渡校長)が作ってしまった風紀委員会。やり手の前生徒会長(大村)と現生徒会長のじん(白井)が体を張って校内警察組織になることを阻止したものの、どうしても生臭さは残ります。それを全く理解していなかった大高先生の暴走で、やっと沈静化していた生徒対先生の不穏な衝突の気配が再燃。現校長の安楽先生が迅速に動いて、委員会の顧問を斉藤先生(瞬ちゃん)に交代させましたが……。

 その斉藤先生は、猛者中の猛者として生徒たちから恐れられています。一、二年生の委員はびびっちゃったわけです。でも、斉藤先生は口は悪いんですが、筋はこれでもかと真っ当なんですよ。これまでがつがつ斉藤先生とやり合ってきたいっきは、斉藤先生の資質を知り尽くしていますから、「上手に先生を使ってね」と後輩たちの尻を叩きます。
 それしかできませんし、風紀関係のことで学校がざわついて損をするのはもういっきたち三年生ではなく、後輩たちになっていますから。

 ライブで学校生活を楽しみたいのなら、恩恵を享受するだけでなく、自力で作れ! 挑んで欲しいものを取りに行け! 斉藤先生のどやしは直球ですし、いっきも全く同感だと思っているんですよね。


 続く第104話。
 偉そうに後輩たちの尻を叩いたいっきですが、そのいっきもまだまだ芯が固まっていません。自分が立ち上げたプロジェクトなのに、さっさとその器を後輩たちに受け渡してしまい、後輩たちが新たな活動を盛り上げているのを見て、一抹の寂しさを感じています。
 それをぼやいたら、会長にがっつり突っ込まれたんですよね。

「一緒に楽しめないなら、それはいつきくんにとって過去のことなの。物欲しそうに指をくわえて見ているくらいなら、もう心のアルバムに貼ったら?」

 ……強烈です。(^^;;

 活動の継続を優先したのは、自分が楽しかったことを後輩にも体験してもらいたいから。いっきにとって、プロジェクトはとっくの間に過去のことになっています。もちろん、理屈じゃわかってるんですよ。でも人の心っていうのは、そんなに都合よくできてないんです。

 自分にとっての甘露は、同時に毒薬にもなるということ。いっきはその怖さを、完全にへたってしまった穂積さんの姿からも思い知らされます。祖父と異母兄の行長さんから守られ続けていた穂積さんは、二人の守護が消えた途端に甘露が毒に変わることを甘く見ていたんです。
 これまで毒の中にしか居場所のなかったレンさんは逆ですね。今はどんなささいな幸せでもしっかり感じ取れますし、何にトライしても地平が広がります。完全に上げ潮。

 人生のアップダウンが毒にも薬にもなる……無我夢中で走り続けてきたいっきもそうで、今までは成果を得続けてきましたし、中学までの地獄が根底にありますから充実感は半端なかったでしょう。でも、そういう上げ潮のピークは徐々に通り過ぎつつあります。

 波を捉えるだけではなく、波をやり過ごす必要もある……それはわかっているはずなんですが。いっきは、まだ制御しきれていない自分の感情の波間にぷかぷか漂っているんですよね。

◇ ◇ ◇

 さて。ここで、ワンクールかもう一丁くらいてぃくるでしのぎます。やっとこさ、最後の学園祭の手前まで来ましたので、それが書き上がったらやや長めの第105話を単独でお届けします。

 本館の方でまだ完結させていない長編があと二つ。それらにもぼちぼちピリオドを打たなくてはなりません。別館の本作はもっとも長大ですし、慌ててがつがつ進めるつもりもありません。亀の歩みのようにのんびり進みますが、気長にお付き合いください。(^^;;

◇ ◇ ◇

 定番化させるつもりでコマーシャル。(笑

 アメブロの本館で十年以上にわたって書き続けて来た掌編シリーズ『えとわ』を電子書籍化し、アマゾンで公開中です。第1集だけ300円。残りは一集400円です。最新の第25集も刊行しました。kindke unlimitedを契約されている方は、全集無料でご覧いただけます。


 えとわ


 ◇ ◇ ◇


 ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽にコメントしてくださいませ。

 でわでわ。(^^)/



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何かわからないものは

そのままわからない方がおもしろい


わかろうとする作業は楽しいが

それとわかって楽しいかどうかとは別なんだよね



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三年生編 第104話(8) [小説]

会長の厳しい考え方。
レンさんのゆるーい考え方。

僕とプロジェクトとの関係のことをレンさんに愚痴った
ら、レンさんからはきっと違う答えが返ってきたと思う。

そして、会長とレンさんの考え方のどっちが正しい、間
違ってるってことじゃないんだよね。
いろいろあったのを、自分なりにこなして生き延びてきた
のは二人に共通。
でも、二人の生存戦略(タクティクス)は明らかに違うん
だ。

当然、僕は僕なりの生存戦略を考えないとならない。
戦略の選択を間違えたら、他の草に押し潰されて枯れてし
まう。
会長とレンさんのやり方のいいところをもらい、受け入れ
られないところはスルーする。
そういう賢さやしたたかさを身につけていかないとダメだ
なあ……。

会長が目の敵にしていたヤブガラシを思い出す。

日本の東西でタイプが違うヤブガラシ。
でも。実がなってもならなくても、ヤブガラシはタフで、
どこにでも生えてて、しっかり生き残る。
俺が俺がと他の草木の上に這い上がり、みっちり茂って蓋
をしてしまうのがヤブガラシなんだ。

その勢いに負けたくないなら、ヤブガラシが絡めないくら
いに自分を大きくするしかないんだよね。

「ふうっ」

英語の問題集を広げ、ぎぎっと睨みつける。

うじうじ考え込んで、その場にスタックしてしまいがちな
自分。
そのままいつまでもどつぼにはまっていたら、がんがんは
びこるヤブガラシの餌食になる。

穂積さんは、まさにその状態。
お祖父さんお兄さんの傘の下で守られていた穂積さんは、
見た目よりずっとひ弱だった。
周囲の誰もがヤブガラシに見えて動けないんだろう。
さんさんと日が当たってるのに、枯れる寸前になってる。

高瀬さんと糸井先生に守られ続けたレンさんも、状況は似
てたと思う。でもレンさんは穂積さんとまるっきり逆。
頭上が明るくなった幸運を絶対に逃がさないだろう。
自分がヤブガラシになろうとして、今すごく生き生きして
る。

穂積さんとレンさんの差はそんなに大きくない。
違うのは……俺もはびこるぞという意欲の差だけなんだよ
ね。

じゃあ、僕は?

問題集の英単語を見つめているうち、それがヤブガラシの
つるのように見えてきた。

「う……」

ひとごとじゃないよな。
僕だって、このままじゃヤブガラシの下敷きになる。

模試の出来不出来に一喜一憂しているようじゃ、競争相手
に置いていかれる。
ぼけっと溜息ぶちかましてる暇があったら、必死に薮を切
り開いて明るい場所に出ないとだめだ。

「この野郎」

ヤブガラシのつるがすぐそこまで迫ってる。
足元がもぞもぞしているように感じて、思わず蹴りを入れ
た。負けてたまるか!

「さあて、もう一踏ん張り!」



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今日の花:ヤブガラシCayratia japonica


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三年生編 第104話(7) [小説]

うん。レンさんが言った大丈夫。
僕も、その言葉にどれくらい励まされ、助けられてきただ
ろう。

「良かった時に戻そうとする。マイナスを小さくしようと
するって考えるんじゃなく、一番悪い時からどれだけ良く
なったかっていうプラスを評価する。積み増しできた分を
喜ぶ。リハビリに付き合うには、絶対にその考え方が必要
なんです」

「分かります。それも、リハビリの時にずいぶん言われま
した」

「ね? 今まどんで底に落ちきっていなかったんですか
ら、もっと落ちていいよ。汚い息は最後まで吐き切った方
がいいよ。いつまでどれだけっていう期限や枠は、一切考
えなくていいよ。今はそれしかないはずです。私もそうで
したから」

うん。レンさんて、やっぱ優しいよなあ。

「まあ、私も少し時間に余裕が出来るようになるから、ま
たお見舞いします」

え? それ、どゆこと?

「あの……仕事が変わったんですか?」

「ええ。看護師は夜勤があるし、シフト制で勤務時間がこ
ろころ動きます。婚活にはちょっと……」

どてっ。
そっかあ。

「理学療法士の資格が取れたので、院長に頼み込んでそっ
ちでの雇用に切り替えてもらったんです」

「わあお!」

「お給料は下がりますけど、勤務日や勤務時間が固定にな
りますから、私は楽になりますね」

「じゃあ、看護師としてはもう働かないってことですか?」

「資格がなくなるわけではないので緊急時の患者対応はこ
なしますけど、そっちがメインではなくなります」

そっかあ。

「いえね、私も穂積さんのことなんか言えないんですよ」

「しんどかった……ですか?」

「はんぱなくしんどかったですね」

携帯から、はあっと大きな溜息が漏れてきた。

「ご隠居の屋敷を追い出されていきなり一人暮らし。ハー
ドな勤務をこなして、弥生のケアや臨終に立ち会って。確
かに弱ってた足腰を鍛えるってことでは良かったんですけ
ど、心が休まる暇がなかった」

「うわ……」

「さすがにちょっと休みを入れないとね。心身が保たない
です」

「なるほどなあ」

「だから穂積さんがどうのこうのという以前に、私がぼ
けっとするためにお見舞いに伺うことにしますよ。わは
はっ!」

どてっ!

こう、なんちゅうか。
行長さんのおとぼけは、芯の頑固さや我の強さを隠すため
のデコレーションみたいなところがあったけど、レンさん
のは違うんだよね。

いいやん。僕は弱いんだから。寂しいんだから。
そういうナマがストレートに見えるんだ。
藤崎先生が生きてた時の張り詰めてた感じがだいぶゆるん
で、なんか楽になったっていうか。

おちゃめに見えて中身鋼鉄の行長さんとは逆で、ごついデ
コレーション取ったら中身がすっごいおちゃめだった……
そんな感じ。
こやって話してても、ほっとするんだよね。

レンさんのそういうゆるさ。人間としての弱さ。
それが、いつかきっと穂積さんの気持ちを楽にしてくれる
んじゃないかな。

いいやん、それで。
大丈夫、なんとかなるさって。

「そんなことで。ご報告まで」

「はあい。ありがとうございましたー」

ぷつ。


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三年生編 第104話(6) [小説]

「ご両親が揃ってパワフルですし、優しいお祖父様と言っ
ても血の繋がりがあるわけではなく、しかも頑固者だと
伺ってます」

「はい」

「お兄さんにしても、とても芯の強い方ですよ。決して穂
積さんを丸抱えしてたわけではなく、ずっと距離を置いて
いたんでしょう」

そっか……。

「その中で、誰にもきっちり心を預けられないまま二十年
以上緊張し続けてきて、その糸がぷつっと切れた。そりゃ
あ、何も出来なくなりますよ」

なるほどなあ。

「私はお医者さんではないので診断や治療にはタッチでき
ませんけど、受けた印象はそんな感じでした」

優しいレンさんでも、氷は溶かせなかったってことか。
はあっ。

僕の溜息の音が聞こえたんだろう。
レンさんが苦笑混じりに話を続けた。

「みんな、急ぎすぎ。私はそう考えてます。いいんですよ。
今のままで五年くらいぼーっとしてても」

「はあ?」

いいの?
ちょっと、びっくり。

「私は、ご隠居に拾ってもらってから十年以上屋敷に引き
こもってたんです。荒んでた気持ちがまともになるまで、
それだけかかったんですよ」

あっ!

「確かに、弥生とのことは自立の決定的きっかけにはなり
ましたけど、それは結果論。もしわたしが中高生の時に弥
生に出会っていたとしても、私は変わらなかったと思いま
す」

「そっかあ……」

「自分が望んだって、変化ってのはなかなか来ないんで
す。それなのに、本人が望んでもいない変化を外から押し
付けられたって、受け入れられませんよ」

そっか。確かにそうだよなあ。

「まあ、あんまり深刻に考えないで、何年か食っちゃ寝し
てたらいいんじゃないかって。そう言っておきました」

うわ……。

「それって、穂積さんのご両親が聞いて怒りませんでし
た?」

「呆れてましたね。でもケアする方も、それくらいで考え
とかないと保たないです」

「あっ! そっかあ!」

「でしょう?」

「僕も、膝のリハビリの時にお医者さんに言われました。
焦るなって」

「そうなんです。リハビリの経験がある人は、焦りも、そ
れが回復の役に立たないことも、ちゃんと分かる。ご両親
に足りないのはその経験だけです」

「なるほどなあ」

「あとは、愛情もやる気も根気もあるんですから。大丈夫
ですよ」



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三年生編 第104話(5) [小説]

ふと気付いたら、外が真っ暗になっていた。
リビングが賑やかになってるから、みんな帰って来たんだ
ろう。

椅子から降り、カーテンを引いてから一度大きく深呼吸を
する。

「ふううっ! もうちょっとしたら、晩飯のコールがかか
りそうだな」

振り返って、机の上を見る。
真っ赤になってる問題用紙は、討ち死にの跡。
記述型の模試は本番までまだ何回かあるから、今日と同じ
失敗をしないようにしっかり備えないとだめだ。

「残りは、晩ご飯のあとにしようっと」

食事コールがかかる前にリビングに降りようとしたら、机
の上の携帯がじこじこ言い出した。

「しゃらかな」

夕食時間にかけてくるのは珍しいなあと思ったら、しゃら
じゃなかった。レンさんだ。すぐに出る。

「もしもし? 工藤ですー」

「レンです。この前はどうもー」

「穂積さんのお見舞いに行かれたんですか?」

「ええ。今日シフトの関係で休みだったので、行ってきま
した」

「どうでした?」

「……」

返事はすぐに返ってこなかった。
それで、穂積さんの状態が相当悪いってことが予想できた。

「まあ……」

レンさんは、そのあとしばらくまた絶句。

「なんというか。今の状態じゃ、誰が何をどうやってもだ
めっていう感じですね」

「うわ」

最悪じゃん。

「去年のクリスマスの方がましだったってことですか?」

「あの時は、元気はなかったけど、受け答えは出来てた
じゃないですか」

「はい」

「結局、最後まで口を開きませんでしたから」

あーあ……それじゃあ、いかにレンさんが優しいって言っ
てもどうしようもないじゃん。
よくなるどころじゃない。治療を続けても伯母さんが放り
出しちゃうくらい悪化してるってことか。

「ただね」

「はい」

「それは仕方ない。私はそう考えてます」

「仕方ない、ですか」

「はい。穂積さん、今まで自分のキャパ以上に中身を吐き
出しちゃったんじゃないかなあと」

ふうん。



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