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三年生編 第105話(5) [小説]

小熊さんが、礼服の胸ポケットから折りたたまれた紙片を
出して、それを広げた。

「まず。現時点での大きな問題点を申し上げます」

「ご応募いただいた各学校において、その応募主体が生徒
なのか学校なのか、区別が付かないのです」

あ……。

「ほとんどの応募校におかれましては、庭は学校の施設設
備でしょう。つまり、そもそもから生徒主体の応募にはな
りえないんです。それが園芸部のような部活であっても、
学校側の指導要項の一部として活動を展開し、成果をア
ピールする形での応募になりがちです」

「その是非を問うつもりはありませんよ。応募規定の中に
は、こうしなさいという制限はなにもないわけですから。
しかし学校が応募主体になると、財力、指導力、組織力、
そういう庭とは直接関係のない因子が審査結果を強く引っ
張ってしまうんです」

小熊さんが、表情を引き締めて会場をぐるっと見回す。

「もちろん、お金さえかければいい庭ができるというわけ
ではありませんよ。でも、広大な敷地に惜しみなくお金と
手間をかけている学校と、一万に満たない部費で猫の額ほ
どの花壇を作ろうとしている学校を並べて比較するのは、
ものすごく無理があるんです」

やっぱりなあ……。
僕もそれがすごく気になってたんだ。

「ですので、区切りのいい二十回めのコンテストでは、面
積と予算に上限を設けます。学校の直接指導を否定するこ
とはできませんが、あくまでも応募主体が生徒さんである
ことを求めようと思っています」

おっしゃあ!

「当然ですが、こっそりお金を使っていいものをという不
正を防ぐために、苗や機材の購入を証明できるものを揃え
て応募していただきます」

うわ……それは大規模にやってきたところだときついだろ
なあ。

「これまで学校単位で素晴らしい庭を見せてくださった優
秀な学校さんには、各種制限のない機関部門に応募してい
ただければと思います」

なるほど。部門を分けるってことか。
例えば聖メリアみたいなところは学校主体で庭造りをやっ
てるから、機関で応募してねってことね。

「もう一つ、大きな変更点があります。それは、我々審査
員による審査方法の変更です」

お! なんだろ?

「これまでの審査では、造営された庭の写真もしくは動
画、その庭のコンセプトが書かれた企画書、出来上がった
庭をアピールするプレゼン文書を提出していただき、それ
を審査して参りました」

「本来であれば、応募してくださったそれぞれの学校にお
邪魔して実査を行いたいのですが、限られた運営費でコン
テストをまかなっている以上、審査が大掛かりになるとこ
ちらの財源が保ちません。苦肉の索で、予備審査を実施し
てきたという実態がございます」

「しかし、その場合どうしても実際の庭とは別個にプレゼ
ンの優劣で評価されてしまうきらいがあり、公平性を確保
できないのではないかという懸念が多数の委員から寄せら
れました」

「ですので、一次審査をクリアできた応募校については、
二次審査に向けて追加のプレゼンをしていただこうと考え
ております。同時に、実査についても可能な限り伺える学
校数を増やすつもりでおります」

す、すげえ……。
応募しっぱなしじゃなくて、ちゃんとプレゼンを用意しと
いてねってことだ。そりゃあ、モチベーションが上がるわ。

こそっと一年生を見ると……みんな気合い入ってる。
いひひ。

「まとめます。来年度のコンテスト開催に向けて、一般部
門と機関部門とに分割し、一般部門においては学生主体の
参加を促進するために総費用及び庭面積に上限を設ける。
審査方法を大幅に改定し、応募者による庭のアピールおよ
び審査員による実査の機会を増やす。以上二点が大きな変
更点になります」

「さて」

そこで笑顔に戻った小熊さんが、会場をぐるっと見回した。


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