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三年生編 第99話(9) [小説]

「レンさーん、ケアしてくれる人はプロ。お医者さんと同
じです。その人を信頼することは出来ても、友達にはなれ
ないんですよ」

「あ、そういうことかー」

「はい」

「うーん……」

さっきは僕がうなったけど、今度はレンさんがうなったき
り黙り込んじゃった。

ふっと短い吐息が聞こえて、それからレンさんがぼそぼそ
と話し出す。

「いや、お見舞いくらいで済むなら、会って話をするのは
全然構わないんですが、そのあと私に倒れ込まれるのは
ちょっと……」

うん。そうだよなあ。

「私がものすごくどっしりしっかりしているなら別ですけ
ど、相変わらず依存癖丸出しの寂しがり屋ですからねえ。
あれだけ弥生にどやされたのに、あんまり改善してなくて」

そうかなあ……。
僕は、一度携帯を下ろしてでっかい溜息をついた。

「ねえ、レンさん」

「はい?」

「亡くなった藤崎先生のことを、悪く言いたくないんです
けど」

「……」

「先生、厳しすぎるんです」

「やっぱり」

え? びっくりした。
今度は、レンさんが苦笑してるみたい。
かすかに吐息が漏れてきた。

「私も、あとで院長に聞かされたんですよ。弥生はリハビ
リ科の担当医から外される寸前だったみたいなんです」

「あ!」

「患者さんへの再起圧力が強すぎる。リハビリには硬軟両
方の推進力が要るんですけど、その柔らかい部分が全然足
りない」

「ううう、それって、伯母さんと同じじゃん」

「そうなんですよね。でも、ガン家系で自分も罹患歴のあ
る弥生は、いつも死の恐怖と戦ってた。自分のリハビリと
患者さんのリハビリを重ねたら、どうしても自他に厳しく
なっちゃうんです」

「でも、藤崎先生には親がいましたよね?」

「お父さんが。優しそうなお父さんでした。ずっと弥生の
ことを気にしていたんでしょう。でもね、家族がいても支
えにならないことがあるんです。どんなに家族が支えてく
れようとしても」

「え? どうしてですか?」

「支えられると、立とうとする気力がなくなるからです。
ご隠居のところにいた私と同じですよ」

「あ……」

「介助の手を拒めば、どうしても孤立する。寂しくなるん
です。私みたいに弱音を吐き出せなければ、自分を尖らせ
ないとやっていけません」

「それで、立てるリハビリプランがきつくなっちゃうって
ことかあ」

「はい。弥生の厳しいやり方は、ぐだぐだだった私が自立
するには必要でしたけど、みんなにそれが通用するわけで
はないので」

「そっかあ」


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