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三年生編 第99話(5) [小説]

今日の発作はしつこいなー。
夕飯が済んでも、頭痛が治らない。

これまでと違って、イミグランがばちっと効いてくれない
のが辛い。
薬を飲まないよりはずっとましなんだけど、頭痛の脈動が
消えてくれない。
痛みの強さよりも脈動の気持ち悪さが気になって、いつま
でたってもすっきりしない。

ずぐん、ずぐん、ずぐん……。

「いっちゃん、まだしんどそうだね」

いつもなら容赦なくちゃかす母さんが、珍しく心配顔だ。

「うん。こんなのは初めてだなー。今までは、野口先生に
診てもらって薬飲んだらすぐよくなってたから」

「もう一回、救急で行ってみる?」

「いや、そこまでじゃないよ。痛みはずいぶんましになっ
てるの。でも、なんつーかこう、頭の中にでっかいポンプ
があって、それがぼっこんぼっこん騒音出してる感じで」

「うげえ……」

実生が、信じられないっていう顔をした。

「まあ、明日から休みだし。連休中は少しのんびりする
わ。これまで進路絡みでプレッシャーあったのも、影響し
てたかもしれないし」

「そうだよね。めりはりつけなきゃ」

「そうする」

「模試は?」

「連休中は入れてない。健ちゃんやひよりんの関係で行き
来があるかもしれないなーと思ったから」

母さんが呆れ顔で僕をつついた。

「あんたもまめねえ」

「いや、僕の方からはアクションを起こさないよ。あくま
でも、保険さ」

「そうね。最後は自分でこなさないとならないんだし」

「うん。さて、僕はまた横になるわ」

「無理しないんだよ」

「へえい」

真っ暗な部屋の中。ベッドの上に転がって、すぐに布団を
かぶる。

カラダは正直だ。
今まで、僕自身では大丈夫だと思っていたいろんなこと
が、そろそろ入れ物いっぱいになってたんだと思う。

さゆりんのことも、日和ちゃんのことも。
そして、まだ不安定さを引きずってるしゃらのことも。
さっき母さんが言ったみたいに、それは『僕』の問題じゃ
ないんだ。
最後は、みんなそれぞれでけりをつけなければならない。
分かってるよ。僕だってそうだったんだし。

でも、あとはよろしくって突き放すこともできず。
僕に任せろって抱え込むこともできず。
ものすごーく中途半端な位置にいろんなものが置かれてて、
僕自身が全然整理できなかったんだ。

そこから来るストレスが、そろそろ満杯になっていたんだ
ろう。

「受験がなければ……ね」

そう。
僕にとっての一番厄介ながらくたは、僕自身なんだ。
僕が抱え込んじゃってる難題を片付けないと、僕はどこに
も動けない。誰にも手を差し出せない。

今、頭痛が警告していることは、まさにそれなんだろう。
おまえが壊れたら、何の意味もないからなって。

「ふう……わかってるさ」

弓削さんのことだって、穂積さんのことだってそう。
僕にもう少し余裕があれば、僕なりに出来ることを探れる
と思う。
でも、今は自分自身のことで精一杯。ずっと側にいるしゃ
らのことですら、全然こなし切れてない。

あっちもこっちもはできない。
誰にでもいいかっこしーするわけにはいかない。
自分に何ができるかじゃなく、自分をどうしないといけな
いか……そう考えないと、関わった人にかえって迷惑をか
けちゃう。

「……」

それでも。
ここに越してきてから出会った人たちは、どんどんチャン
スをものにしてる。
ちゃんと自力でトライして、結果を出してる。
僕が最初から最後まで手伝ったなんてのは、一つもない。

五条さん、中沢先生、会長、宇戸野さん、あっきー、北尾
さん……そして、しゃらも必ずそうするだろう。

最後は自分。自分に返ってくるんだ。
僕に何ができたか。僕は何をしないとならないか。

「うん」

最後に自分で始末をすること。
みんながそうしてきたように、僕もそうしないとならない。
それなら自分で自分をきちんと動かせるように、しっかり
空きスペースを確保しておかないとね。

だから、今は眠ろう。
頭痛の警告が治るまで。



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