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三年生編 第98話(11) [小説]

よれよれ……。

「さすが、あのお父さんにしてこの息子ありって感じだっ
たなー」

「すっごいぱわふるだよねー。わんぱくになるんだろなー」

「わははっ。お父さんは育てがいあるんちゃう?」

「先輩も嬉しそうだったね」

「うん。これで」

「え?」

少し前を歩いていたしゃらが、くるっと振り返った。

「これで先輩は、本当に目から解放されたんじゃないかな」

「えと、どういうこと?」

「先輩のあのイメチェン。前からやってみたかったってこ
とじゃ、必ずしもないと思う」

「ふうん、どして?」

「まるっきり違う自分になりたい。そういう願望があるか
らじゃないかなあと思ってさ」

「あ、そっかあ……」

「目がなくなったから、フツーの女の子になれる。それっ
て、本当は変なんだ」

「え? どうして?」

「だって、先輩から目を取ったら、フツーの女の子じゃん。
わざわざなる必要ないもん」

「うわ、そっかあ。確かに」

「でしょ?」

「うん……」

弥富さんちの道場で、僕としゃらが合気道の模擬試合を見
せた時。先輩はすごく複雑だったと思う。

僕がなんでもリードしているように見えるしゃらとの関係
に、本当は上下がないってこと。
それが、試合を見てれば分かったはずなんだ。
そして対等であることの決め手は、しゃらが強くなったこ
とだった。

みんなで寄ってたかってしゃらを支えたステージはとっく
に過ぎてて、しゃらは合気道で自分を鍛えにかかった。
自己改造のアクションは、むしろ先輩より早かったんだ。

先輩の足をずっと引っ張り続けてた目。
でも、先輩は目を嫌悪しながらも、祓いの決め手として利
用もしてた。
そこに、自分の能力や努力を突っ込んじゃったんだ。

特殊になった自分から祓いに関係したものを引くと、あん
ま残らない。
フツーじゃなく、フツー以下になっちゃうんだ。

先輩が、大学に入ってからものすごくイメチェンに突っ込
んでるのは、そういうやせ細っちゃった自我を、目があっ
た時くらいにもう一度きっちりとんがらかすため。

僕ならそう考える。

じっと考えてた僕と同じように、足を止めて考え込んでた
しゃらが茜空を見上げた。

「そっか。いい意味で、フツーでなくしないとって……そ
ういうことかー」

「んだ。いろいろ試してんのとちゃうかなあ」

「だよね」

「僕としゃらの場合は、それぞれ落とし所はここらへんか
なーっていうのが違ってて、違ったままでいける」

「あ、うん。そんな感じ」

「先輩は、準規さんと一緒になるなら、そこが大変なんだ
ろうと思ってさ」

「そだね。でも、大丈夫そう」

「ははは。片桐先輩だもん」

「覚悟が違うよねー」

「んだんだ」

覚悟、か。
僕には、覚悟があるからっていうより、先輩の生命力が大
きいからだって思える。
そして、そのたくましい生命力は、間違いなくご両親から
受け渡されたものだよね。
肉体だけでなく、精神の強靭さも含めて、ね。

「ふふふ」

僕が笑ったら、しゃらに突っ込まれた。

「何がおかしいのよう」

「いや、やっぱ親子って、大事なものがバトンされてくん
だなあと思ってさ」

「あ、そっちかー」

「しゃらも、お父さんの頑固さやお母さんの一途さをちゃ
んと受け継いでるやん」

「ぶー。そうなんかなあ」

ぷっと膨れたしゃらが、忌々しそうに首を振った。

「じゃあ、お兄ちゃんのぐだぐだは、誰に似たんだろ?」

ううう、そうだよなあ。
顔がお父さんによく似てるから、どっかからのもらいっ子っ
てことじゃないんだろうし。

「トツゼンヘンイ?」

「そんなんいらなーい。かんべんじでー、ううう」




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今日の花:スベリヒユPortulaca oleracea



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