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三年生編 第97話(7) [小説]

「まあ、どこでもそんなもんだと思うよ。どんなに開けっ
ぴろげに見えても、外に出てる部分なんか氷山の一角。人
に見せるつもりがなければ、自力でなんとかするしかない。
そういうことなのかなー、と」

「いつきはそうして来たん?」

「まーさーかー」

げらげらげらげらげらっ!
思い切り笑い飛ばす。

「ここに越してきた時には、ほとんど空っぽ。今の日和
ちゃんの比じゃないよ。もうどうでもよかった。投げや
りっていうけど、投げやる自分すら残ってなかった」

「……」

「そしたら、空っぽの自分に何か入れないと、立ってられ
ない」

「あ……」

「僕は、自分に近付いて来るものを何から何まで全部飲み
込もうとしたんだ」

腹を指差す。

「下痢するまでね」

「うひー」

滝乃ちゃんが、のけぞって驚いてる。

「知らなかった」

「でそ? こんなこと、誰にも言えないよ。人には、僕は
まだ大丈夫だよーってポーカーフェイスを見せるしかな
かったんだ」

「それは……みおっぺも?」

「そ。実生のは僕よりたちが悪い。ポーカーフェイスだけ
じゃ済まなくて、自分を潰しちゃうからね」

ごくっ。
滝乃ちゃんがつばを飲み込む音が聞こえた。

「見かけは、僕よりずっとまともなんだよ。それがかえっ
て実生の首を絞めた。愛想がよくてタフに見えるからね。
実生は、僕よりずっと危なかったんだ」

「……」

「でも。実生は強くなったよ」

「どうやって?」

それは、滝乃ちゃんじゃなく、日和ちゃんの口から出た切
羽詰まった問いかけ。僕は慎重に答える。

「僕は実生じゃないから、本当は実生に直接聞いて欲し
い。僕の印象としては……」

「うん」

「受験を自力で乗り切った。それに尽きると思う」

「どゆこと?」

滝乃ちゃんが突っ込んでくる。

「実生は勉強嫌いなんだよ。本当なら、そんなにいい高校
には進めなかったんだ。内申ぼろぼろだったし」

「……」

「でも、実生はどうしても共学の高校に行きたかったん
だ。うちから通える共学の高校はレベル的にきつかったん
だけど、初志貫徹で本命校にうかった。僕も母さんも、受
験だからって実生に特別配慮したつもりはない。実生がが
んばって、自力で乗り切ったんだ」

「そっかあ。でも、みおっぺなら女子校でもいけたんちゃ
うの?」

「僕もそう思ったんだけどね。滑り止めは女子校だったし」

「うん」

「でも、小中と女の子の間で腹の探り合いし続けて疲れた
んでしょ。致命的な失敗を繰り返して、懲りたんだ」

「致命的な失敗?」

「そ。実生は、自分を削ってまで人に合わせようとする。
それは周りから見るといいかっこしー、ぶりっ子、八方美
人、そんな風に見えちゃうってこと」

「うわ……」

「僕も母さんも、何度か警告してきたけどね。でも、それ
が実生の性格なんだ。しょうがない」

「共学なら大丈夫なわけ?」

「男子を仮想敵に置けるからね」

「げー」

滝乃ちゃんが、べたあっとテーブルに突っ伏した。




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