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三年生編 第96話(9) [小説]

「弓削さんは伯母が後見してくれることになって、当座の
心配はなくなったんですけど。しゃらは、壊れた兄貴がし
でかしたことへの反発と嫌悪感で、潰れそうになってる」

「しかもそれが単純に善悪では分けられない、割り切れな
いってことね?」

「そうです」

はあ……。

「なんともめんどくさいことになってます」

「一つ聞いていい?」

「はい」

「弓削さんの子供は、御園さんのお兄さんが生ませた子な
の?」

「違います。それなら、よくある出来ちゃったですよ。僕
らが悩む必要なんかない」

「誰かに押し付けられたってこと?」

「そうです。弓削さんだけじゃなく、お兄さんもイエスマ
ンなんですよ。誰の言うことも拒絶出来ない、究極の寄生
虫」

「うわ……」

「しゃらのお兄さんは、加害者でも被害者でもあるんです。
だから純粋な被害者の弓削さんと違って、立場がものすご
く微妙」

「なんで、加害者なの?」

「しゃらの実家に転がり込もうとする前に、弓削さんを抱
いて、妊娠させてるからです」

「!!」

会長が凍った。

「そ……」

「鬼畜ですよ。自分は誰にも頭が上がらない。その自分で
も奴隷に出来るやつがいる。でも責任とか面倒見るとか、
何も考えてない。卑屈そのもの」

「……」

「しゃらが……殺してやるって言ってましたから」

「うん。気持ちは分かる」

ふうっと。会長が溜め込んでいた息を全部吐き出した。

「そうか。御園さんが最近こっちに顔を出さなくなったな
あと思ってたけど。いろいろあったのね」

「はい。しゃらとしては、あんまり自分のネガを見て欲し
くないんでしょう。自分はがんばってる。逆境ははね返せ
る。そういう気合いをなくしたくないから」

「うん。そうね」

「それなら僕は、しゃらが重圧で潰れないようにこっそり
サポートするしかありません。今話したのも、その一部だ
と思っていただければ」

「分かったわ」


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