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三年生編 第109話(6) [小説]

ぱちぱちぱちっ!
大きな拍手の音に、僕は溜息を紛れ込ませた。

先生を甘やかさなかった?
違うよ。僕は共倒れしたくなかったんだ。

僕は子供。先生は大人だ。
その大人が、大人のふりをして僕を抱きかかえ、抱えきれ
なくなって放り出したら。
その時に傷つくのは誰? 先生じゃない。僕なんだよ。
僕は、最初から今までずっとそれを警戒してただけ。

逃げるな!
それは本来、先生が僕らに言わなきゃならない言葉でしょ?
逆にしてどうすんのよ。

でも。そういう先生のダブルスタンダードに誰もが気づく
わけじゃない。
僕やしゃらは、ものすごく傷ついていたから見抜けたん
だ。
元西先輩みたいに、もともとガッツのある人は気付かな
かったと思う。

親に愛されたことのないかんちゃんは、人の奥底を僕ら以
上に鋭く見抜く。
先生の甘さや弱さはちゃんとわかってる。
先生が、かんちゃんの背負ってるものの少ししか肩代わり
できないってことはもう悟っているだろう。

いつも隣にいてくれるだけでいい。
それが……かんちゃんのずっと望んでいたこと。
だから、押し続けることも引き続けることもしないと思う。
それでいいんじゃないかな。

僕の苦笑をちらっと見た先生は、ばつが悪そうに視線をそ
らすと、もう一度略式の挨拶をした。

「本日は、ありがとうございました。これからも、どうぞ
よろしくお願いいたします」

ぺこり。

柔らかい拍手の音が響いて。
しゃらの一家の退場とともに、ギャラリーの輪が緩やかに
解けた。


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