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ちょっといっぷく その215 [付記]

 いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 本編を二話進めました。そして、これが最後の在庫ですから、このあと長い休止期間に入ります。
 今回お届けした二話を軽く総括し、そのあと方針変更のアナウンスを。

◇ ◇ ◇

 第108話。仮住まいから店舗兼用新居への引っ越し。しゃらの新しい生活が始まりましたね。しゃら、いっき、かっちん、なっつの仲良し四人組にとっては、久しぶりの共同作業であると同時に、しゃら一家を支えてきたこれまでのアクションが、一区切りになります。

 良くも悪くも、しゃらに関わることでいろいろなことを消化してきた四人なんです。そのプロセスが一段落することは、急かされるように走ってきた四人には「やれやれ」という安堵ではなく、これから自分たちはどうなるんだろうという不安をもたらします。

 未来が白紙であるからこそ覚える恐怖。そう、「現在」を慌てて踏み固めなくてもよくなれば、どうしても白紙をどう塗るか考えなくてはなりません。それは……必ずしも夢や希望だけでは塗れないんですよね。


 第109話。新しい店舗のお披露目に合わせて、かんちゃんと中沢先生の夫婦のお披露目も仕切ったしゃらのお父さん。両親に捨てられているかんちゃんにとって、しゃらのお父さんは雇用主であると同時に父親代わりでもあります。しかし、夫婦となればいずれは自分が父親になるわけです。親から手ひどい裏切りを食らった中沢先生もそうですね。
 タイミングとしては今しかない。結婚という転機を活かして、抱え込んでいたどろどろを一気に仕切り直せ。しゃらの両親の激励はかなり辛口だったと思います。

 まあ、かんちゃんと中沢先生はちゃんとライフプランを考えているでしょう。現状だって、見通しの明るいことばかりではありませんから。(^^;;

 それと。先にSSで登場させるという掟破りの重要人物が一人。そう中沢先生の父方の叔父、中沢利英がやっと本編に登場しました。保険金目当てに実の両親に殺されかけた中沢先生の後見人を務めてくれた人物です。
 利英は、世間の常識にとらわれない飄々とした自由人。中沢先生が憧れてコピーしたのもよくわかります。ただ、利英の見てくれと中身とは必ずしも一致しません。自分の自由を損なうものは絶対に容れない。飄々とした見かけにそぐわない強靭な自意識を、いっきはしっかり見抜きます。いくら中沢先生が利英をコピーしても、その強さだけはコピーできないんです。

 強さを保つためには、孤立を恐れない勇気がいる。でも先生にはその気力がまるっきり足りません。大人のふりをした子供なんです。いっきは、大野先生の苦言をしっかり思い返したことでしょう。

「大人っていう人種はいない。大人になろうと努力する人がそう見えるだけだ」

 まあ。それでも、今度は先生一人ではなくかんちゃんがいます。先生の足元の危うさは、かんちゃんが「ある程度」補ってくれるでしょう。

◇ ◇ ◇

 さて。これで在庫を全て吐き出しきったので、最低十話程度のストックができるまでは本編を休止します。これまでもてぃくるでずっとつないできたので、そのスタイルに変更はないんですが。てぃくるは、本館と同じように画像ネタで話をこしらえているので、画像がブログの容量を容赦なく消費するんですよ。(^^;;

 別館はあくまでも長編小説の置き場であり、てぃくるの画像がそのスペースを圧迫するのはおかしな話です。なので、画像容量圧縮のために初期のてぃくるを他に移そうと思います。
 noteに新規登録して受け皿を用意してあるので、ぼちぼちそちらに移していく予定です。

 また、しばらくは更新がてぃくるだけになりますので、更新間隔を空けます。今までは二日に一編程度の頻度だったのですが、それを不定期にいたします。いっぷくアップの間隔もこれまで以上に空ける予定です。

 本館は十年以上毎日更新していますので、そちらが優先。あっちもこっちもはできませんので、別館はペースを落とすことにします。(^^;;

 ◇ ◇ ◇

 定番化させるつもりでコマーシャル。(笑

 アメブロの本館で十年以上にわたって書き続けて来た掌編シリーズ『えとわ』を電子書籍にして、アマゾンで公開しました。第1集だけ300円。残りは一集400円です。最新作は第25集で、第26集も年内には刊行予定です。
 kindke unlimitedを契約されている方は、全集無料でご覧いただけます。






◇ ◇ ◇

 トータルで、ン百万字という規模になってしまいましたから、一度ふん詰まるとなかなか再始動できないですね。これまで書いたものを読み返して手を入れつつ、三年生編十月分をなんとか書き切りたいなと思っています。

 それまでは与太話ばかりになりますが、どうかご容赦を。
 本編だって与太話じゃないかと言われれば、はいそれまでよ、なんですが。(笑


 ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽にコメントしてくださいませ。

 でわでわ。(^^)/



bok.jpg


「ぼけっとしていたいけど、ぼけっとできひんなあ」
「しゃあないわ。ぼけてるのは名前だけやから」


 (^^;;




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三年生編 第109話(14) [小説]

まだ手術後がなまなましい膝に手を置く。

「ベストをイメージしたらだめだよ。ゼロからどこまで積
めるかを考えなさいってね」

「今は、全然わかんなくなったね」

「今は、ね。でも三年前は、動ける自分を想像できなかっ
た。喪失感がひどかったんだ」

「……うん」

「お母さんもそうだと思う。なんで、これまで当たり前に
やってたことがこなせないのって」

「うん。時々悔しそうにしてる」

「でしょ? でも、だんだん慣れる。動ける昔の自分じゃ
なくて、動けない今の自分にね」

「そうだよね」

「だから、大丈夫だよ」

ふふっという小さな笑い声が聞こえた。

「あ、そうだ。いっき」

「うん?」

「ミズヒキって草、知ってる?」

「いや……ちょっと待って」

ポケット植物図鑑を引っ張り出して、確かめる。
地味な草だなあ。タデ科、か。

「ふうん。どっかで見つけたの?」

「いや、林さんにもらったの。縁起物だからって」

「あ、そうか。紅白の水引きって言うもんな」

「そう。でも、それは花の時にしかわからないし、花もう
んと小さいから、注意しないと紅白に気づかないんだって」

「なるほどなあ。幸せっていうのは小さいから、探さない
と見過ごすよってことかあ」

「びんご」

しゃらが落ち着いた声で続きを話した。

「うちの店も、今日はいっぱいお客さんが来てお祝いして
くれたけど。すぐに平常運転なんだよね」

「うん」

「大繁盛でなくてもいいから、うちの店で髪を切りたいと
いう人がずっと途切れないでほしい。そういう人がいるこ
とをずっと喜べるようにしたい。お父さんがそう言ってた」

「大丈夫さ。開店するのを待っててくれた人がいっぱいい
るから」

「うん!」

最後は弾んだ声になったしゃらが、じゃあねと言って電話
を切った。

「ふう……」

さっきまで考えていた利英さんのことが、また脳裏に浮か
んだ。
距離を調整するっていうのは、楽なように見えて、本当は
すごくエネルギーがいるのかもしれない、と。

何もわからない人との距離は縮まらない。
その人との距離を調整しようと思うようになるのは、相手
から引力と反発を感じるからなんだ。
誰に対しても無関心を貫いてしまったら、その人は誰との
距離も縮められない。
距離を取るんじゃなく、取られてしまう。孤立する。

利英さんの持ってた自由でのびのびした空気は、人を引き
寄せる強い引力を作るんだろう。
引き寄せておいて、距離を調整する、か。
すごい高度なことだよね。

「僕にはできないよなあ……」



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今日の花:ミズヒキPersicaria filiformis



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三年生編 第109話(13) [小説]

なかなか出来が安定しない英語には、相変わらず泣かされ
ている。
苦手意識が出来ちゃったから、効率も上がらない。

「はあ……またえびちゃんに相談てことになりそうだな」

ぱたっと参考書を閉じ、シャーペンを机に置いて、背中を
伸ばす。

「ふうっ」

緊張を緩めると同時に、リドルで会った利英さんというお
じさんの顔がぽっと浮かんだ。
確かに、中沢先生がコピーしたいと思ったのが頷けるくら
い、自由でおおらかな感じの人だったな。ただ……。

「……」

僕には、その性格がポーズのようにも見えたんだ。

中沢先生のがさつさやちゃらんぽらんは、実は後付けの
ポーズ。
実際の先生はもっと小心者で、神経が細い。
その線の細さを見破られてしまうと、沢渡校長の恫喝に屈
したみたいにへなへなになっちゃうんだ。つまり。

神経ワイヤーロープで鈍でいい加減というポーズを見せる
ことで、自分を膨らませて見せてる。
あれは……先生の自衛なんだよね。

利英さんは、確かに先生よりは線が太そうだ。
でも、だからと言って何でも平気っていうほど図太くはな
いと思う。
そりゃそうでしょ。デザイナーっていうのは、繊細さを備
えていないと成り立たない職業だと思うもの。

お兄さんとのきついやり取りを繰り返す中で、利英さんは
距離を取るという作戦を編み出したんじゃないかな。
中沢先生の「逃げる」っていうのにちょっと似ているけど、
距離を取るのは戦うよりも逃げるよりもエネルギーを使わ
なくて済むんだよね。

誰かに支配されないフリーデザイナーっていう職業も、そ
う考えると納得できるんだ。
しっかり自分を注ぎ込めるけど、終わると関係が切れる。
過去を引きずらないで済むんだろう。

ただ上手に距離を保つのは、しっかり自立してる利英さん
だからできたことで、中沢先生がやるのは無理だよ。
だから上辺だけコピーしたポーズになっちゃったんだろう。

「あーあ」

会長に最初忠告されたこと。
『大丈夫だっていうポーズを取り続けたら潰れるよ』

確かにそうだなと思って、僕は自分のナマをできるだけ出
すようにしてきた。
だけど地を出せば出すだけ周りとの摩擦は増える。
それに嫌気がさすと、すぐに猫を被りたくなってしまう。
逃げ癖が抜けない中沢先生のふらふら感は、程度の差こそ
あれ僕にも共通なんだよね。

利英さんの距離のさばき方はすごいなあと思うけど、あれ
が僕にできるかっていうと、無理。

嫌な人、嫌な出来事、解消できない不安と遭遇した時どう
するか。
戦う、逃げる、距離を取る……いろんなやり方があって、
そのどれかだけが正しいってことはないんだろう。

だから会長の忠告の真意は、「ポーズを取るな」じゃなく
て、「ポーズに頼るな」なんだよね。

机に頬杖をついてもやもや考え込んでいたら、携帯が鳴っ
た。しゃらか。

「うい。お疲れさまー」

「ありがとねー。お父さんもお母さんもほっとしてた」

「いいお披露目だったよ」

「うん!」

「お母さん、疲れたんじゃない?」

「まあね。今は横になってる」

「やっぱりか……」

「でも、自分の体との付き合い方は、だいぶわかったって
言ってる」

「いい時をイメージしちゃいけないってことだろ?」

「そうなの」

はあっと、小さな吐息が聞こえてきた。

「どれくらい良くなるか、じゃなくて。どれだけ悪化させ
ないか。そう考えないと無理しちゃうから」

「わかる。僕も膝を壊した時に、手術してくれた先生に言
われたんだ」

「あ……」


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三年生編 第109話(12) [小説]

「どうだった?」

三時過ぎ。家に帰って早々に、母さんに確かめられる。

「いいお披露目だったよ。中沢先生の挨拶はぐだぐだだっ
たけど、かんちゃんのはぴしっと筋の通ったいい挨拶だっ
た」

「御園さんのお父様もほっとしたんじゃない?」

「そうだね。将来、かんちゃんに店を引き継ぐっていうこ
ともきっちり宣言したし。商店街の人たちも、くしの歯が
欠けなくて良かったって、ほっとしてるんじゃないかな」

「くしの歯、かあ……。世知辛いね」

「うん。商店街の人たちって、お互いのつながりが強い分、
そこが崩れ始めるとがたがたっと行ってしまいそうで怖い
んだよね。がんばって欲しいなーとは思うけど」

切れるつながりより、新しいつながりの方が多くなってほ
しい。
本当にそう思うけど、現実はその逆になっているような気
がする。

坂下の商店街は、現実として少しずつ寂れてる。
人と人とのつながりも、少しずつ切れていく。

いや商店街のことだけじゃないよね。
僕自身もそうなんだ。
楽しかった高校生活はもう少しで終わりだ。
高校でたくさん築いた友達との関係は、そこで一度リセッ
トされる。
それに……進学すれば、家を出る僕は家族とのつながりが
緩くなる。

勘助おじちゃんが亡くなって、工藤の方も斉藤の方も、親
族の結束が緩くなってくるだろう。
健ちゃんたちや滝乃ちゃんたちと、いつまでざっくばらん
な話ができるかわからない。

もちろん、新しいつながりを作ることで、切れたつながり
のほころびは埋められると思うけど。
宝物のように抱きしめてきた人と人とのつながりを、ずっ
と変わらずに保持し続けることはできない。

わかってる。
それは僕だけでなく、誰にもできない。
でも……できないってことがどうしようもなく寂しい。
そう感じてしまうんだ。

「ん?」

リビングの窓が風で揺れて、がたんと音を立てた。
意識が現実に戻る。

いかんいかん。どうしても考えが後ろ向きになっちゃう。
切り替えなきゃ。

「ご飯までは勉強する。学園祭前は落ち着かないから」

「そうね。準備が出来たら呼ぶわ」

「うい」


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三年生編 第109話(11) [小説]

「すげー」

全員で絶句。
なんつーか、本当の自由人てこういう人のことを言うのか
なあという感じで。

で、気付いてしまった。
先生が来る前に僕らがポーズっていう話をしてたけど。
先生にとってのポーズ……ぐうたらとか、突き放した言動
とか、乾いた態度とかは、全部おじさんのコピーだったん
だなあって。

確かに、乾いた飄々とした態度は人との距離を確保しやす
い。
下心のあるやつとか、やたらと馴れ馴れしくしてくるやつ
から離れられる。
でも先生のそれはあくまでもポーズであって、本質じゃな
いんだ。

コミュニケーション能力に激しく難のあるちゅんさんに倒
れ込んだみたいに、先生の芯は強烈な寂しがり屋なんだろ
う。
先生は、ポーズを乗り越えて来てくれる人か、ポーズを捨
てたいと感じる強い引力がある人にしかアクセスできない。

だから、難のあるちゅんさんやかんちゃんが恋愛の相手に
なったんだろうなと。
改めてそう思う。

もちろん、それは僕としゃらもそうなんだろう。
自分が壊れる寸前まで孤独だったから、過去の共通点が悪
い意味で重なっていたのに互いに倒れこんだんだ。
ポーズを……かなぐり捨ててね。

本当にそれでいいのか。本当にもう大丈夫なのか。
懸念がないわけじゃない。

でも、僕らは変わってる。
あの頃とは違う自分に、少しずつ組み替えてる。
ポーズを前に張り付けなくても、ナマでやり取りできるよ
うになってる。
それでいいんだろうし、それがきっと責任ていうやつなん
だろう。

「先生。利英さんて、一緒に暮らしてた時もあんな感じ
だったんですか?」

しゃらがこそっと聞いた。

「うーん、あんなにしゃべったのは聞いたことないなあ」

「ひええ」

「なんかね。こっちから動かない限りは置物なんだ」

「あ、わかる」

僕がフォロー。

「先生が自発的に何か言い出すまで、手も口も出さないっ
てことですね」

「そう。まあ、めんどくさいってのもあったんだろうけど」

「めんどくさい?」

「そりゃそうでしょ。年頃の女の子とどんな会話するって
いうわけ?」

確かになあ。
僕らだって、女子トークの中には入れないもんなあ。

「まあ、居心地はよかったよ。それを失ったらどうしよ
うっていう恐れはあったけどね」

「あ、そうか。大学進学の時ですね」

「うん。その時だけ、叔父さんに言われたんだ」

「なんて、ですか?」

女子が揃って身を乗り出した。
明日は我が身だもんなあ……。
あ、僕もか。

「本当に嫌いなやつがまだいないなら、まずいろいろと飲
み込んでみろ。嫌ならぺっと吐き出せばいいって。まあ、
何事も経験してみないとわかんないってことだよね」

その頃のことを思い出したのか、先生がふっと笑った。

「確かに思う。経験しないと踏み込めないことがあるなっ
てね」

それから、さっとかんちゃんの腕を抱え込んだ。
ううー、ごちそうさまですー。


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