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三年生編 第108話(4) [小説]

「確かに、おばあちゃんの家や借りてた部屋だと限界があ
るもんなあ」

「そうなの。なんかね、最後まで自分の部屋っていう感じ
じゃなかった。いじりきれなかった」

「うん」

「ここは違う。今度は間違いなくわたしの、わたしだけの
部屋。誰にも気兼ねしなくていいよね」

「んだ」

「うふふ」

嬉しくてしょうがないという顔でぱっと立ち上がったしゃ
らが、まだ真新しい壁をそっと触った。

その光景は……僕、かっちん、なっつの三人にとって、地
味だけど最高の一瞬だったかもしれない。

高校入学の時、全ての不幸がいっぺんに押し寄せて崩れる
寸前だったしゃら。
何も悪くないしゃらが気の毒で気の毒で、僕らは思わず手
を伸ばした。
でも本当は。必ずしも純粋な善意だけでしゃらに手を貸し
たわけじゃないと思う。

最悪の中学時代を過ごした僕だけでなく、環境が変わって
大きな不安を抱えていたかっちんもなっつも、しゃらを取
り囲んで賑やかに過ごすことで自分の不安を薄めようとし
た。
そしてしゃらは、僕らの中核にぴたりとはまったんだ。

それは、決して必然とか運命じゃない。ただの偶然。
だから僕らは……本当に運が良かったんだと思う。

これまで、四人べったりの時間をずっと過ごしてきたわけ
じゃない。
クラスも、オフの過ごし方も、興味の方向も、もちろん性
格や嗜好もそれぞれに違っていて。
違うことが反目に変わったら、互いの距離が離れても仕方
なかったんだ。

実際、一年の時によくつるんでいたメンバーから、しきね
とてんくが脱落してる。
夢を追ったしきねはともかく、親友を失ったてんくは今で
も僕を恨んでいるだろう。

しきねとてんくのような離脱は、僕らの間にいつ起きても
おかしくなかった。
でも……。
僕らの結束は、出会ってから今まで揺らぐことはなかった。

一度も。
ただの一度も。

僕らの間に危機がなかったわけじゃないよ。

僕がしゃらと激しく揉めてた時。
そして、どつぼったかっちんがなっつとぎくしゃくしてい
た時。
誰もが自分自身のことで精一杯だった。
もしその時に衝突していたら、僕らの友情には深いひびが
入っていたかもしれない。

でも四人が四人、僕らの間のトラブルを誰かのせいにはし
なかった。
相手から逃げない。ちゃんと向き合う。僕らはその原則を
崩さずに、ここまで来れたんだ。
だからこそ面と向かってきついことも言えたし、耳の痛い
ことを言われてかちんときても最後に消化できた。

親友という言葉を、軽々しく使いたくないけど。
やっぱり、いっぱいいる友人の中でも、一番最初に友達に
なって、一番深くまでお互いに刺さって、一番自分をさら
け出せるようになった友達は他にいないんだ。
かっちんとなっつ以外にはね。

ただ……。
最高の時は、最高であるからこそ一番辛い。
こうして四人が何も構えず自然に集まれる日は、もうそん
なに残っていない。




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