SSブログ

三年生編 第108話(2) [小説]

「おせーぞ、いっき」

「すまんすまん」

すでにねじり鉢巻で気合い十分だったかっちんが、手ぐす
ね引いて待ってた。

「荷物は?」

「大物は兄貴がほとんどやっつけた。あとは段ボール系だ
けだ」

「おっけー! しゃらの荷物は女性軍任せだろ?」

「そう。そっちはなっつと恩納先輩が仕切ってる。俺らの
出番はねえよ」

「わあた!」

仮住まいだったアパートの荷物は、もう引き払い済みだっ
た。
最初から、最低限の家具や電化製品しか持ち込んでなかっ
たものね。

商店街の人に借りた倉庫に収めてあったものが、荷物の本
隊になる。
車を使うほどの距離でもないので、レンタルのリヤカー二
台でピストン輸送。
倉庫から荷物を出して乗せる組、運んで新居前で荷下ろし
する組。新居に運び入れる組の三部隊に分かれてさくさく
と片付ける。

前の引っ越しの時もそうだったけど、手伝いの人数が多い
からあっという間だ。

おばあさんの家を引き払う時には、みんな湿っぽくなっ
ちゃったけど、今回は誰もが明るい。
そりゃそうだよ。新築ぴかぴかの家への引っ越しだから!

当然のこと、しゃらもご両親もテンションが高い。
アドレナリン出し過ぎて、あとで燃え尽きなきゃいいけど。
ちょっと心配。

商店街にとっては書き入れ時の夕方の作業だったから、本
業がある大人たちは荷物搬入終了と同時にさっと引き上げ
た。
そういう制限のない僕ら学生だけが、新しいしゃらの部屋
でささやかなお疲れさん会をやった。
と言っても、恩納先輩とりん、ばんこはバイトがあるから
すぐ離脱しちゃって、残ったのはいつ面。
僕としゃら、かっちんとなっつの四人だ。

上機嫌のかっちんが、音頭を取る。

「おいおい、とうとうここまで来ちまったよ。一昨年には
想像もつかんかったよなあ」

「そうだよねー……」

自分の部屋をぐるっと見回して、しゃらがふっと笑った。

「最初の家、おばあちゃんの家、仮住まいのアパート、そ
してここ。いつも自分のスペースがあるっていうのは、恵
まれてるなーと思う」

「そっかー」

ぷっと膨れたなっつが、文句をぶちかます。

「わたしも自分の部屋はあるけどさ。もうちょい静かな方
がいいなあ」

かっちんが苦笑いしながらうなずく。

「下が作業場だもんな」

「弟も騒がしいし」

「いつも賑やかでいいじゃない」

しゃらの一言で、場がさっと静まった。

「あ、ごめん。嫌味じゃなくって」

慌てて、しゃらが手をぱたぱた振った。

「わたしの部屋は、いつも必要以上に静かだったから」

「そうか……」



nice!(60)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー