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三年生編 第98話(7) [小説]

「ちわーす」

久しぶりに訪ねた先輩の実家。
先輩が帰って賑やかになってるのかなあと思ったら、しん
と静まり返ってる。
あれー?

呼び鈴を押そうと思ったら、ほそーくドアが開いた。

「しーっ! 今やっと眠ったんだ」

「わ!」

「生まれたばかりなら、ずーっと寝てるのかと思ったんだ
けどさ。どっこい、これでもかと全力で泣くみたいで、お
袋がすっかり参っちゃってるんだ」

「ひえー」

「やっぱ男の子だなあ。ちっちゃくても自己主張激しいわ」

「そんなもんすか」

「まあ、上がって。そーっとね」

「……うす」

「……はい」

抜き足差し足で、泥棒みたいにこそこそとリビングに移動
した。

リビングに置かれたベビーベッド。その中で、小さなあく
びをかみくだいた赤ちゃんが、まさに眠ろうとしていた。

「うわ……」

お母さんじゃなく、お父さんにそっくりだ。
先輩がお母さん似だから、顔の系統がまるっきり違って見
える。不思議なもんだなあ。

でも、うちもそうか。
僕と実生とではやっぱ顔の作りが違うもんなあ。
しゃらのところもそう。しゃらはお母さん似だけど、お兄
さんはどっちかと言えばお父さんに似てた。

血を分けた兄弟って言っても、こうやってみるとまるっき
り個人と個人。なるほどなあ……。

ベビーベッドの真横で疲れた顔をしていた先輩のお母さん
に、お祝いを伝える。

「お子さんの誕生、おめでとうございます」

小声だから、なんか変な響きになっちゃう。

「あはは。ありがとう。まさかこの年になってから二人目
が生まれるとは思わなかったわ」

「いえー、僕の周りでは結構多いですよー。お隣さんが三
人目生まれたばかり。最初のお子さんとは、先輩と同じで
一回り離れてますね」

「へえー」

「会長さんのところ?」

先輩が興味津々で身を乗り出した。

「そうですー。男の子。司くん」

「そっかー、賑やかになったんだね」

しゃらが、くすっと笑う。

「賑やかですよー。上の進くんもやんちゃだからー」

「それと、宇戸野さんのところがこれから二人目。予定日
が来月だから、もうすぐですね」

「年子かあ」

「仕事の関係もあるんですかね」

「なるほどなー」

きょろきょろとリビングを見回したしゃらが、こそっと尋
ねる。

「あのー、お父様は?」

「ああ、買い物を頼んであるの。みえりが家を離れて、今
は二人での生活になってるから」

「そうですよね……」


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