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三年生編 第92話(4) [小説]

本当は。
僕ではなくて、副委員長の森下くんに指摘して欲しかった
んだけど、そうも言っていられない。
ここできちんと押し返しておかないと、僕らが苦労してこ
れまで調整したことが全部無駄になる。

「あのですね。僕らは学校から違反者に下された処分に対
して、抗議することも撤回させることも出来ません。ここ
にはそんな権限が一切ないんです。みそもくそも一緒にし
ないでください!」

僕は睨みつけていた大高先生から目線を切って、後ろを振
り返った。

「これまで委員会で討議した内容は、紙とメールで委員全
員に通達してるよね?」

書記の河西さんがぷうっと膨れてる。

「ちゃんとやってます!」

「それを握りつぶしちゃった人、いる?」

全員がぶるぶると首を振った。

「そりゃそうだよね。打ち上げとか、学校がどこまで認め
てくれるかは、委員からの報告がないと分かんないもん」

「そうだよ」

「うん」

「ちゃんとしたよー」

先生に視線を戻す。

「それぞれのクラスの担任の先生にも、ちゃんと確認を
取ってください。特定のクラスに違反者が集中しているな
ら、そこでだけ報告漏れがあったかもしれませんけど、そ
ういうわけじゃないんですよね?」

渋々、大高先生がうなずいた。

「ああ」

「それなら、僕らのせいではないです」

ただ押し返すだけなら、ここまでで終わり。
でも、大高先生にこれ以上アドリブをされるのは困る。
本当に困る。

「あの。ちょっと申し訳ないんですが、五分くらい時間を
ください」

僕は先生の返事を待たずに席を立ち、教室を出て真っ直ぐ
校長室に行った。
校長、いるといいけどな。

こんこん。

「はい。誰だい?」

お、よかったー。いた。

「工藤です」

「は?」

怪訝な顔をした校長が、ぱっと出てきた。

「どうした?」

「風紀委員会なんですが……」

「何かあったのか?」

とぼけてるな。

「大高先生に、とんでもないアドリブをかまされるのは困
ります」

校長が目をつぶり、顔をしかめた。

「やっちまったか……」

「ここは、田貫緑陽とは違います。考え方を切り替えてい
ただかないと、せっかく落ち着いてきた学内がまた荒れま
す」

「……。確かにそうだな」

「僕ら三年は、今日の委員会で実質もう引退なんですよ。
議論のスタイルを、一、二年生にちゃんと引き継いでおき
たいんです。そういうことにきちんと配慮していただかな
いと」

「ふう……どっちが教師か分からんな」

「大高先生が怒るのもよく分かるんですけどね。僕らもす
ごく腹立たしいです」

「まあな。私が行った方がいいか?」

「ぜひお願いします」

「一緒に行こう」

「はい!」


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