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ことしもお世話になりました [付記]


 大晦日ですね。
 一年があっという間に過ぎてしまった感じですが、本話はあまり過ぎておりませんで。(^^;;

 今年は公私ともいろいろありまして、すっきり気分で一年を振り返るという感じではありません。
 それでも、こうして年末の挨拶ができるというのは、十分恵まれている証拠でしょう。


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 今年最後の画像二枚は、『次』を示唆するもの。

 一つはスズメウリの果実で、もう一つは鳥のフン。

 スズメウリの果実は、カラスウリのようには目立ちません。それでも、いろいろなところから生えてきますので、きっと果実を食べて種子をばらまく動物がいるんでしょう。
 目立った果実(成果)がなくても、そこから種子を蒔いて次につながるなら、それでよし。きっと今年はそういう一年だったのだと、自分に言い聞かせています。

 鳥のフンの中身は、何かの種子。それが地面に落ちればそこから芽を出すチャンスがあるんですが、葉っぱの上ではねえ……。でも、この葉も間も無く落ちます。葉の上だったからだめだと思っていた種子には、まだ芽を出すチャンスがあるんですよね。
 一時の運不運に囚われると、その先に続いているかもしれない大事な命脈を逃してしまうかもしれない。自戒したいと思います。

◇ ◇ ◇

 来年もまた、時間を作っては何かしらを書く日々を続けようと思っています。本編がなかなか進みませんが、無理せず出来る範囲で少しずつ書き足して行こうと思っています。

 今年、拙ブログにお越しくださった方々に心から感謝いたしますとともに、来年も変わらぬご愛顧のほどをよろしくお願いいたします。

 みなさま、どうかよいお年をお迎えください。(^^)/






  変わらぬと嘯(うそぶ)き乍(なが)ら大晦日






 *諸事情ありまして、年末年始はコメント蘭を閉じさせていただきます。m(_"_)m








Tomorrow Is A Chance To Start Over by Hilary Grist




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【SS】 栄冠は君に輝く *汚れ役* (四方 透) (二) [SS]


「汚れ役、か」

親父が、なんとも言えない顔で俺を見下ろしている。

「そう。みんなから無理やりマネージャーを押し付けられ
たんなら、俺一人に泥おっかぶせやがってって放り出すけ
どさ。やるって手ぇ上げたのは俺だからなあ」

「おいおい」

呆れ顔してるなー。あはは。

「マネージャーってのは、すごく難しいポジションだぞ。
できて当たり前。できなきゃぼろっくそだからな」

「わかってる。だから、ずーっとしんどかったんだ」

「今まで、うまくこなせてたのか?」

「うーん……」

胸を張ってこなしてきたと言いたいところだけど、そうは
言えない。

「合格点はなんとかクリアしてると思うけど、俺的にはま
だまだかもしれない」

「ほう。どこが、まだまだなんだ?」

「汚れることを、嫌だなあと思ってしまうから」

「なるほど」

なぜか、妙に納得した顔をしている。

「実にいい勉強をしてるな」

「そう?」

「ああ。社会に出れば、誰でもマネージャーだよ」

「へえー。そんなもんなのか」

「そりゃそうさ。独りっきりで誰とも関わらずに暮らすな
らともかく、誰かと一緒に多くの時間を過ごすのが社会っ
てやつだよ」

「うん」

「その中の誰かは必ずマネージャー……汚れ役をやらんと
ならんのさ」

親父が俺の隣にどすんと腰を下ろした。

「たとえば」

「うん」

「俺とトオルの間だってそうさ。親子であっても、どっち
かがマネージャーだ」

「あ、確かに!」

「だろ? まあ親子の場合は、普通年長者の親がマネー
ジャーになる。泥被りは親の仕事だ」

「そうかー」

「でも年恰好が揃っている時には、その中の誰かが必ず泥
をかぶらないとならないんだよ。そうしないと、世の中が
回らないんだ」

にやっと笑った親父が、俺の肩をばんばん叩いた。

「一度泥をかぶれば。汚れ役を経験すれば。いろんなとこ
ろに目が届くようになる。嫌がらずに一緒に泥をかぶって
くれるやつを、ちゃんと見分けられるようになるんだ。そ
うだろ?」

確かにそうだ。そして、俺を手伝ってくれるやつは間違い
なく増えてる。
マネージャーを始めたばかりの頃より、仕事量も精神的負
担も軽くなってるんだ。

「うん。汚れっぱなしじゃないってことか」

「そりゃそうさ。汚れ役は必ず尊敬される。逆に、汚れ役
なのにきれいなままだと無能扱いだよ」

「あたた……」

ここらへんでいいやって手を抜いてたら、マネージャー権
限発動の瞬間、本当に汚れちゃうってことだ。
うう、こわいこわい。

「苦労は買ってでもしろ。昔からそう言うが、苦労しまし
ただけじゃ、なんの財産も残らん」

「そうだね」

「苦労が入賞って形で実ったんなら、そらあ最高だよ。マ
ネージャー冥利に尽きるってやつだ!」

親父に手一杯持ち上げられて、やっとこさ受賞の喜びがじ
わじわ体を満たし始めた。

「汚れ役をやってきて……本当によかったと思うわ」

「そらそうさ。一番汗水たらしたやつが、一番おいしいと
ころを取れる。だからこそ汚れ役が機能するし、やりた
いってやつが出るんだよ。そんなもんだ」

上機嫌の親父が、テーブルの上に置いてあった車の鍵を
がっと掴んだ。

「トオル、着替えてこい。うまい寿司を食いに行こう! 
受賞祝い兼慰労会だ」

「やりぃ!」

◇ ◇ ◇

工藤先輩や篠崎先輩だけじゃない。
同じ部の仲間は、ちゃんと俺の働きを見てくれてる。
親父も、しっかり評価してくれた。
俺が汚れっぱなしで放置されたことは、一度もないんだ。

だから……今までマネージャーをやってこれたのかなと。
そう思う。

「さあ、がっつり食うぞおっ! ひゃっほーっ!」




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(チリメンタケ)





(補足)

トオルこと四方(しかた)透は、ハートガーデンプロジェ
クトのジェ
ネラルマネージャー。
二年生部員の中では一番性格が明る
く、発想がポジティブ
です。行動力も調整力もあって、本
来なら一番部長向き
だったかもしれません。


でも自分一
人が先走ってしまうことを恐れ、サポートに
回ったんです。

独善性の弊害は、部長というポジションだと致命的になり
ますから。

有能な四方くんでも大所帯の部を調整するのはもの
すごく
大変で、ストレスのせいで何度かぶち切れてますね。


いっきたちプロジェクト創設メンバーは、四方くんが潰れ
ないよう陰に陽に彼を支え続けています。







Dirty Work by Steely Dan

 


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【SS】 栄冠は君に輝く *汚れ役* (四方 透) (一) [SS]


「ふ……」

高校ガーデニングコンテスト受賞の発表で部員たちの喜び
が爆発している中、たぶん俺一人だけ苦笑いしてたと思う。
あーあ、これでまた仕事が増えちまうなあと。

確かにものすごく嬉しいんだけど、同じくらいの苦味も感
じながら。
いつものように、中沢先生との打ち合わせや今後の水やり
のスケジュール調整をして、暗くなってから家に帰った。

「お? トオル。どうした?」

今日は親父が早く帰ってきたらしい。
うちはお袋がいないから、親父が一人二役だ。
俺の機嫌や様子の変化はすぐに見破られちまう。

制服のままでソファーに体を投げ出し、でっかい溜息をは
あっとついた。

「いや、すごくいいことがあったんだけどさ」

「ほう? おまえにか?」

「いや、部が。ハートガーデンプロジェクトが、高校ガー
デニングコンテストで審査員特別賞を受賞したんだ」

「おおっ!」

親父が大仰に驚く。

「そらあすごいじゃないか!」

「そう思う。初挑戦で、いきなり受賞だからね。部だけ
じゃなくて学校内もがっつり盛り上がってる」

「その割には、おまえの反応が地味だな」

「ははは。どうしてもそうなっちゃうんだよなー」

「は? どうしてだ?」

もう一度、でっかい苦笑いをぶちかましちゃった。
それは、すんなり喜べない俺自身に対しての苦笑いだ。

「俺が。マネージャーっていう汚れ役をやってるからさ」

◇ ◇ ◇

俺は、調整っていう仕事を甘く見てたんだ。

調整っていうけど、部活の実質裁量権は調整役にあるんだ
よ。それくらいの意識でやっていいから。
前部長の工藤先輩やそれまで調整をやってた篠崎先輩にそ
う言われて、俺自身もその気になって。
引き受けてやってみたら、とんでもなかった。

俺が調整しなければならない仕事の多さが、はんぱなかっ
たんだ。
ひいこら言いながら仕事をこなしてたら、篠崎先輩に言わ
れた。

「トオル。一人で抱え込むなよー。僕らだって、僕ともも
ちゃんとうっちーの三人で分担してやってたんだ。ちゃん
と調整班のメンバー動かして、仕事割り振ってね」

それはわかってる。よーくわかってる。
仕事はちゃんと、サブマネのキタと黒ちゃんに割り振った
んだ。
だけど、それがきちんと動いてくれない。なかなか機能し
なかった。

先輩たちが補佐してくれる分だけ、他のメンバーが手を抜
いてしまうんだ。
縛りのきつくないゆるい部活……その弊害だけが俺にど
どっと押し寄せてしまった。

ただのマネージャーというだけじゃなくて、チームを作
り、それを指揮する権限を持ったジェネラルマネージャー
の創設。
俺らが最初にプランを立てた時には、それで行けると思っ
てた。

甘かった……。
どんな名前であっても調整は調整なんだ。
俺は、マネージャー権限がみんなから無視されるというこ
とを予想できなかったんだ。
権限なんか絵に描いた餅に終わるってことをね。

よーく考えてみたら、そうなるよな。
強い権限を行使した時点で、俺一人が悪者になってしまう。
自分勝手で、なんでも思うようにしたがるやつ……そうい
う見方をされてしまう。

俺は、どうしてもそれが嫌だったんだ。
だから結局、俺一人で相撲を取るはめになってしまった。
重荷を背負いきれなくて潰れそうになったことは、一度や
二度じゃない。
部の執行体制作りは俺が中心でやったから、誰にも文句が
言えなくて……本当に苦しかったんだ。

「なんでもかんでも俺に押し付けるなよっ!」

コンテストの現地審査の時、女子たちが俺抜きにスタンド
プレイをぶちかまして、校長にがっつり睨まれた事件。
俺は……とうとう感情を爆発させてしまった。

高校生にもなって、みんなの前で泣きながらぶち切れる。
ものすごく恥ずかしかったけど。
ああ、それでいいのかって。どこかでほっとしている俺が
いた。

そして。俺より激しく工藤先輩がぶち切れた。
工藤先輩は俺みたいに感情的にならないから、怒ると逆に
怖い。
逃げ場を全部埋め立てて、理詰めでごりごり来るんだ。
工藤先輩の筋論を真正面から押し返せるやつは、そうそう
いないと思う。顧問の中沢先生さえ叩きのめすんだから、
本当にしゃれにならない。

まさか、首謀者を俺の前で土下座させるとは思わなかった
わ。こわいこわい。

工藤先輩には、しんどい時にずいぶん助けてもらった。
と同時に、一番汚いところを工藤先輩に任せてしまったこ
とがあって、すごく心苦しかったんだ。

でも、工藤先輩に言われたんだよな。

「おいしい料理を作るコックさんがいても、みんなが見る
のは料理だけさ。庭だけじゃなくて、部活っていうのもそ
んなもんだと思う」

汚れ役を請けるなら、最後まで汚れ切る覚悟が要る。
汚れなくても済む部員は、汚れ役のしんどさをちゃんと想
像できるようにならないとダメ。

それは。先頭に立っての旗振りから、調整、そして部員と
しての末端の仕事まで、全て経験してきた工藤先輩のリア
ルな実感なんだろう。

必要性は十分認めるけど、汚れ役の役得は苦労に見合わな
い。
コンテストでの受賞を俺が素直に喜べなかったのは、ジャ
ストそこなんだ。
一番苦労したのは俺。でも、脚光を浴びたのは部長。
それにすんなり納得できなかった俺が……いたんだ。






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(カワラタケ)











Dirty Paws  by Of Monsters And Men

 


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【SS】 栄冠は君に輝く *長の花* (鈴木則子) (二) [SS]


「いろいろあったよね……」

何でも一人で抱え込んでしまうわたしの悪い癖。
小中の時に何度も失敗したのは、きっとそのせいなんだろ
う。

みんながやらないなら、わたしが。
そうやって、何もかも抱え込んで自滅する。
懲りもせず同じことを繰り返してきてしまった。

でもわたしが部長になる時に、工藤先輩がとても上手にサ
ポート体制を整えてくれた。

調整を四方くんに全部任せられたから、わたしは学校側と
の交渉や旗振りに専念できた。
わたしがこなし切れない部分は、副部長の菅生くんがこそっ
とサポートしてくれた。

三役っていう言葉が、飾りじゃなくてきちんと機能したっ
てこと。
わたしは初めて長の付く役をこなしていることにカタルシ
スを感じたの。
そう、これ。これが欲しかったんだって。

だけど、沢渡校長ともめた時に校長の圧力を体を張って押
し返したのは、わたしじゃなくて工藤先輩だった。
それが……本当に申し訳なかった。
本当はわたしがやらなきゃならなかったんだよね。
悔し涙を流したのは、誰かを責めるためじゃない。
自分の意思の弱さと力不足を思い知らされたから。

そのあと心を入れ替えてプロジェクトを立て直し、コンテ
ストに応募して。
わたしは部長として全力で突き進み、こうして何にも代え
がたい栄誉を手に入れた。

賞を取ったことが嬉しいんじゃない。
長として全力ですべきことをして、その努力をみんなが正
当に評価してくれたこと。
それが、どうしようもなく嬉しかったんだ。

校長の受賞発表のあと壇の上に呼ばれて、そこで絶叫した
こと。

「みんなにっ! ありがとおーっ!」

あれは、わたしの心の底からの叫び。
長の名前に押しつぶされないよう全力で支えてくれたみん
なへの、感謝の絶叫だったの。

◇ ◇ ◇

リビングでお母さんと大はしゃぎする。

「ねえ、授賞式あるんでしょ?」

「あるあるっ。東京のホテルで」

「わあお! みんなと行くの?」

「部員全員で行こうって話してる。中沢先生が取りまとめ
してるの」

「そっかあ……花満開だねえ」

「うんっ!」

わたしは、応募した時に使った中庭での集合写真をじっと
見つめる。

高校の中庭に植えられているのは、その多くがありふれた
単色の花。その組み合わせで景色を作る。
でも、ポイントに置かれている目立つ花もあるんだよね。

地の花は置き換えが効く。
でも、ポイントの花だけは替えが効かない。
その花が咲かなければデザインが成り立たないから、必ず
花を咲かせないとならない。

長の花っていうのは、そういうものなのかもしれない。
その花は、必ずしも目立つ、派手な、美しい花っていうわ
けじゃない。
でも、その花がなければデザインが崩れちゃうんだ。

絶対に咲いて見せるって、わたしはがんばった。
そして……わたしが咲きやすいように、先輩たちや仲間が
わたしを押し上げてくれた。

喉が渇いたら水をくれた。
お腹が空いたらご飯をくれた。
害虫が来たら追い払ってくれた。
病気になったら看病してくれた。

だから負けるものかって、がんばれたんだ。
わたしっていう……長っていう……たった一本しかない花
をこうやって咲かせることができたんだ。

じわじわと涙が溢れてくる。

長の花。
プロジェクトからいろんな財産をもらえた子は、わたし以
外にもいっぱいいると思う。
でも、長として花をもらえたのはわたし一人なんだ。

こんなでっかい幸福を独り占めしていいのかって、そう
思っちゃうけど。

やっぱ、うれしいーーーーーーっ!!

「さあ、次、だなー」

「次?」

「そう。わたしが部長を引き受けた時に、工藤先輩に言わ
れたの。楽しさをつないでいこうって」

「ふふ。そうね」

「部長はおもしろい! こんな楽しいこと、他の人には譲
れないよ。そう考えてくれる子を探さなきゃ」

「見つかりそう?」

「たぶんね。今年は、めっちゃ一年生がいっぱい入ってく
れたし、やる気のある子も多いから心配してない」

「あんたも、立派に長の顔になったね」

「あはは……」

長の花。
わたしの後に部長をする子にも、ぜひその花を誇らしげに
胸に飾ってもらいたいなと思う。
その花はたった一つしかないんだ。きれいに咲かせるのは
大変だけど、絶対に素晴らしい花だからさっ!






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(カンツバキ)





(補足)

鈴ちゃんこと鈴木則子は、いっきの後の部長さん。
派手なところはなくて、真面目で責任感が強くて一本気で
すね。
なんでも抱え込んでしまう欠点はいっきが最初から心配し
てて、その解消のためにいろいろとアドバイスをしていま
す。

鈴ちゃんの一番の右腕はジェネラルマネージャーの四方く
んなんですが、四方くんは業務過多でいっぱいいっぱい。
鈴ちゃんのサポにまでなかなか手が届きません。
そこを副部長の菅生くんが地味ぃに埋めています。

鈴ちゃんはグリーンフィンガーズクラブの一員でもありま
す。
長の肩書きを外してしがらみのないフリートークができる
場所を確保した方がいい。
そういういっきやしゃらの配慮ですね。







Mountain Top  by Chris Christian

 


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【SS】 栄冠は君に輝く *長の花* (鈴木則子) (一) [SS]


「のりちゃん、のりっ!」

耳元でお母さんのでかい声がして、はっと我に返った。

わたしは、家に帰ってからずーっと放心状態だったみたい。
自分では全然気がついてなかったけど。

お母さんは、わたしが学校ですごく嫌な目にあったんじゃ
ないかって、心配したんだろう。

うん、確かに。
高校に入るまでは、嫌なことしかなかったから。
そして、わたしだけでなくてお母さんにもいっぱい迷惑を
かけちゃったから。

「あんた、大丈夫なの?」

「大丈夫って?」

「いや……また友だちとなんかあったのかなって」

お母さんの心配は当然だ。
わたしも、過去の自分自身に苦笑してしまう。
それをどれだけ本当に過去のことにできたか。
わたしは、落ち着いて振り返れる余裕がまだない。
でも、一つだけはっきり言えることがあるんだ。

わたしは椅子から降りて、お母さんにはぐっと抱きついた。

「ちょ、ちょっと」

「さいっこーっ!」

「え?」

「ハートガーデンプロジェクトがね、高校ガーデニングコ
ンテストで受賞したの。それも、審査員特別賞!」

「うっそおおっ!」

わたしよりも先に、お母さんが爆泣きし始めた。

「す……っごおい!」

「嬉しいっ! 嬉しい嬉しい嬉しい嬉しいーっ!」

他の言葉が一つも出てこない。
嬉しいという一言で、これまでの全ての闇が塗りつぶされ
ていく。

侮蔑も、無視も、孤独も、無力感も。
過去のわたしを支配していた、どうしようもない空転感。
それらが全て「嬉しい」の一言だけで反転して、全てが色
鮮やかな花園のように輝いていく。

部が入賞したことはもちろん嬉しい。
でもわたしが本当に嬉しかったことは、初めてわたしが空
回りしなかったこと。
わたしが部長として全力でがんばったことが、一つも無駄
にならずに結実したこと。

それが……わたしにとってはどうしようもなく嬉しかった
の。
それは多すぎもせず少なせずもせず、ぴったり「嬉しい」
の中に収まったんだ。

◇ ◇ ◇

損な役回りだってわかっていながら引き受けるのは、自分
を知らないって言われても仕方ない。

でも、損だってわかっていても誰かがやらないとならない
んだ。それなら積極的にこなしたい。
わたしは、損だからって逃げるのは嫌なの。
小学校でも中学でも、わたしは「長」のつく役目から逃げ
るのが大嫌いだった。

わたしがわたしがって出しゃばったつもりはない。
でも、誰もやらないならわたしがやる……そういう流れに
は慣れていた。

わたしは、役を引き受けて放ったらかしたことはない。
長の付く役は、他の人よりもやらなければならないことが
ずっと多いんだ。
それをがんばってちゃんとこなしてきたと思う。
私の努力は、先生たちはちゃんと見てくれていた。

「鈴ちゃんはがんばりやだね。すごいね」

だけど友だちはそうじゃなかったんだ。
出しゃばりで生意気で余計なことばかり言ってって、わた
しを煙たがって。
いつも「長」の肩書きだけをべったり貼り付けて、遠ざけ
るようになった。
小説の中に出てくる委員長みたいに、わたしがみんなから
一目置かれることなんか、一度も。

一度もなかったんだ。

なんで? なんで一番がんばった人が、一番ばかにされな
いとならないの?
そんなのおかしいじゃないっ!

長が雑用係にしか見えなくなった中学の後半、何もかも嫌
になった。
クラスの各種委員も部活も全部拒否。
それだけじゃなくて、学校に行くことすらも拒否。
荒れ狂ったわたしに手こずって、お母さんはすごく苦労し
たと思う。

受験だって、惰性で受けたって感じだった。
ぽんいちの競争倍率がうんと低くなかったら、合格できな
かっただろう。

◇ ◇ ◇

高校に入っても、わたしは何もする気が起きなかった。
なんか……だらっと出来るところはないかな。
そう思ってたわたしにぴったりだと思ったのが、ハート
ガーデンプロジェクトだったんだ。

工藤部長の紹介は変わってたけど、わたし的には細かいと
ころはどうでもよくて。
だらっとできれば、そこがどこでもよかった。
わたしにとって、部活は学校からの逃げ場でしかなかった。

そんなわたしが少しずつ変わったのは、プロジェクトが本
当にゆるかったからだ。
出入りは自由。
お当番をきちんとこなしてくれれば、それ以外の制約は何
もなし。
部の掛け持ちしてる子も多かったし、部内の雰囲気も活気
にあふれるっていうよりまったり。

部長の工藤先輩も副部長の御園先輩もいばらない、急かさ
ない人だったから、本当に天国だった。
わたしは……小中で傷付いた心をプロジェクトで癒しても
らったんだと思う。

そんなわたしの天国が、失われそうになったのは次期部長
を選ぶ話し合いの時。
そう……誰もカリスマ部長の工藤先輩の後釜をやりたがら
なかったんだ。
先輩たちが全力で盛り上げてきた部を、わたしたちの代で
潰したらどうしよう。みんな……腰が引けちゃった。

絶対に「わたしがやる」って言いたくなかった。
でも誰かが部長を引き受けなかったら、結局わたしの天国
は壊れる。そうなるのは絶対に我慢できなかったんだ。

「いい。わたしがやるっ!」

また、あの地獄の日々が始まるかもしれない……そう恐れ
ながらも、わたしはチャレンジすることにしたんだ。





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(サザンカ)











Mountain Song by Little Chief

 


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ちょっといっぷく その187 [付記]

 いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 久しぶりに本編をお届けいたしました。
 ほんの三話ではありますが、少しだけでも進めておかないと書いているわたしが筋を忘れそうです。ええ。(^^;;

 簡単にまとめておきますね。

◇ ◇ ◇

 第92話。
 相変わらずあちこちにトラブルのタネを抱えているいっきですが、またいとこのさゆりちゃんのケアを森本先生に託して、ほっと一安心。
 いくら親族と言っても、それぞれの家でポリシーや環境が違いますので余計な手出しはできません。専門家のガイドが得られるのはとても心強いでしょう。

 でも、今度は学校で一騒動ですね。風紀委員会での騒動勃発。もともといっきと大高先生とは水と油なんですが、先生の方が先にキレてしまいました。
 こういう意見の相違ってのは、最初に感情論に落としちゃった方の負けなんです。どんなに理屈に優位性があってもね。いっきとしては、なんだかなあって感じでしょう。


 第93話。
 他人事だと思っていた校則違反の処分の話が、プロジェクトに被ってしまいましたね。
 顧問の中沢先生はじめ、プロジェクトの重鎮は真っ青。すぐに事態収拾に動きましたが、いっきはどうにも治りません。

 フォルサで身体を動かして気持ちを切り替えようとしたところで、市工アグリ部の後野さんにばったり出くわします。向こうも校則違反で補導者出しちゃったんですね。お互いに怒り、愚痴り、サンドバッグをど突き回す。若いですね。(^m^)

 でも、最後はそれぞれの進路の話に行くんです。そこがいっきたちの置かれている立場と状況をよく表しています。そう。今ではなく、もう『次』を考えなくてはならないんですよね。


 第94話。
 いっきだけでなく、プロジェクトの誰もが歓喜に湧く出来事が!
 二年生部員を中心に取り組んできた高校ガーデニングコンテストで、ぽんいちのハードガーデンプロジェクトが正式に審査員特別賞に選ばれ、校長から受賞が発表されました。喜びを爆発させる部員たち。

 同時に、校則違反が治らない限り夏休みを廃止するというきつーいお達しも。もうすぐ高校生活が終わってしまう三年生には縁のない話とはいえ、今一つ経緯に納得の行かないいっきたちでした。

◇ ◇ ◇

 小ネタ三つでしたが、小さな出来事を重ねている間にも高校生活がどんどん少なくなってきます。イベントも大きいものはあと学園祭だけですね。それが終わればいっきたち三年は受験モード一色になります。
 学園祭は最後の盛り上がりになるので、そこはどうしても大部になります。慌てずじっくり書こうと思っています。

 年内は本編終了。このあと、三年ぶりにSSを三つお届けします。SSと言うのは、サイドストーリー、サブストーリーのこと。いっきの一人称で進んでいく本編と違って、SSは本作に登場するサブキャラの面々が主人公になります。

 これからお届けするSSの主人公は三人。プロジェクトの現執行部、部長の鈴木則子、副部長の菅生君彦、ジェネラルマネージャーの四方透のお三方に登場していただくことにしましょう。

 年末年始のご挨拶をはさんで、SSをアップし、そのあとまたしばらくお弁当作りの間にてぃくるをお届けしてまいります。



 ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽にコメントしてくださいませ。

 でわでわ。(^^)/



gr.jpg


「保護色もここまでくれば、完璧だ!」


「いいけど、かくれんぼでずっと見つけられないままだぜ?」



 (^^;;




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三年生編 第94話(6) [小説]

学校から帰った僕は、自分の部屋の窓を開けて暮れかかっ
た空を見回した。

「もう……これから秋、なんだよなあ」

すっかり涼しくなってきた夕方の風。
それに吹かれながら、今日の受賞発表のことを思い返す。

僕やしゃらが始めて、鈴ちゃんたちがしっかり受け継いで、
たくさんの一年生を迎えてでっかい花を咲かせたプロジェ
クト。
僕らは、何かを引き継ぐっていうことの大切さを身をもっ
て思い知らされて来た。

プロジェクトからの卒業が目の前に迫ってきた今。

僕は、なぜプロジェクトを後輩たちに受け渡してこれたの
かなあと、その理由をじわっと考える。

「……」

正直に言おう。
僕の思いつきがプロジェクトとして膨れ上がっていく間
に、中庭に関わることが僕が楽しいと思えるレンジを超え
ていってしまった。

鈴ちゃんが責任の重さに耐え切れなくて泣いたみたいに。
僕にとっても、プロジェクトの総責任者の立場は重くて苦
しかった。

でも。

僕は、プロジェクトを投げ出してしまおうと思ったことは
一度もない。
どんなにモチベーションが下がってる時も、どんなに困難
にぶち当たっている時も、もう止めようと思ったことは一
度もない。

それは責任感とか義務感とか、そういうものとは違う。
僕が面白いと感じることが、作庭そのものではなく人に
移っていったからなんだ。

ものすごく入れ込む子。
どっか冷めてる子。
真面目すぎる子。
ちゃらんぽらんな子。

意識もやる気もばらっばらの子が、プロジェクトっていう
容れ物に入った途端に生き生きと動き始める。

なぜばらけないんだろう?
なぜ衝突しないんだろう?
それが不思議で不思議でしょうがなかった。

僕は……そこが楽しかったんだ。

同じ学年の子たちとわいわいやる。
それがスタートの時の形だった。
そこには横糸しかないから、年をまたいだらすぐにばらば
らになりかねなかった。
生徒会の木崎先輩に指摘された通りだ。

でも鈴ちゃんたちが入ってきて、縦糸が通った。
そうしたら、横糸の意味をもっと深く考えられるように
なった。

今、縦糸と横糸がしっかり組み合わさって、すっごいきれ
いな模様が浮かび上がってる。
そして、タペストリーはまだ編み終わっていない。

縦糸が途切れても横糸が足りなくても、きれいな模様は作
れない。
でも、どういう糸をどれだけ使えるかは、初めからは決め
られないんだよね。

それなら、その時その時に使える糸でどういう模様を作れ
るか考えよう。必要なら解いて編み直そう。

そこが……僕にとってのプロジェクトの楽しさだったん
じゃないかと思う。

「ふう……」

僕という縦糸と横糸は、もうすぐプロジェクトのタペスト
リーから抜かれる。
記録や記憶としては残るんだろうけど、これからプロジェ
クトを引っ張る子にも、僕にも、それはあんまり意味がな
いかなと思う。

それより。
僕は、楽しいから編み続けようというモチベーションを残
していきたい。
そして、それを引き継いでいって欲しい。

たくさんの失敗と試行錯誤の先に、ちょっぴりの成功。
それで……かまわないと思う。

だって、同じ庭は作れない。
どんな庭であっても関わったメンバーが全力をぶち込めた
なら、それが彼らの庭だ。

新しい模様を。
四季と同じように変化していくタペストリーを。
ぽんいちに集う生徒と先生に見せ続けられること。
その縦糸がこれからもずっとずっと続いていくことを。

僕は心から祈る。



komat.jpg
今日の花:コマツナギIndigofera pseudotinctoria



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三年生編 第94話(5) [小説]

がたあん!!
永見さんとゆいちゃんが、そろって立ち上がった。

「そ、それって」

「校長の爆弾はそこだよ。夏休みじゃない」

「……」

「違反したことを摘発するための監視じゃなく、その前。
予防措置としての相互監視の導入。そんなの、絶対にやっ
て欲しくなかったけどね」

「う」

「でも、校長が何度も警告し、風紀委員会でも具体例付き
で注意喚起を徹底してたのに、これだもん。僕が校長でも
爆弾を落としたくなるよ」

「でもさあ。実際、どうなるんだろ?」

ゆいちゃんが、心配そう。

「こればかりは僕にも予想付かない。警告としては最大の
ものだから、さすがに効いて欲しいけどね」

「一人違反者が出ただけでもアウトじゃあ……」

「それはないな。多分」

「ないよね」

しゃらも僕の意見に同意。

「一人違反で全員アウトなら、逆にみんなが暴発すると思
う」

「あ、そうか……」

永見さんが納得したようにうなずいた。

「だから、そこはぼかしたんだ」

「そう。停学期間が終わって出てきたやつが、ハクが付い
たって自慢しないように先手を打った。そういうことじゃ
ないかなー」

「それにしてもえげつない」

ゆいちゃんが、ぷうっと膨れた。

「それが安楽校長だよ。決して僕らの味方にはならない。
でもそれでいいと思う」

ノートをぱたっと畳んだ永見さんが、大きな溜息をついた。

「はあああっ……生徒会も、あとが大変だあ」

「まあね。でも、顧問の瞬ちゃんが目を光らせるでしょ」

「わたしらはいいけどさ。後輩はびびっちゃってるから」

「そこらへんは、根性鍛えてもらうしかないよなー」

「ねえねえ」

僕としゃらを見比べた永見さんが、ぐいっと身を乗り出し
てきた。

「プロジェクトの一年で、いい子いないの?」

思わずしゃらと二人で叫んだ。

「プロジェクトは、生徒会役員の養殖場じゃないってば!」


           −=*=−


僕と鈴ちゃんは、校長から前もって審査員特別賞の受賞を
予告されてたけど、実際に受賞が確定したら喜び千倍万倍
だった。
コンテストサイトにもでかでかと高校名が載り、受賞理由
や僕らの集合写真がどどーんと掲載されて、気分がごっつ
盛り上がった。

放課後全部員と顧問の中沢先生が視聴覚室に揃って、全員
で万歳三唱。雰囲気最高!

鈴ちゃんが目をきらきらさせて、ぶちまかす。

「ええと! これで終わりじゃないです! 来年どうする
かは、一年生の間で話し合ってください。来年の主役は一
年生ですから!」

うおおおっす!
一年生部員の間から拳がぽんぽんと突き上げられた。

「そして、もう秋冬花壇の設計スタート! 照準は学園祭
です。他の高校の生徒も中庭を見に来ます。実務班は花壇
の設計と作業予定、企画班はJVのセッティングを急いで
詰めてくださいね。やることはいっぱいありますよー!」

ぱん! ぱん!
あちこちでハイタッチの音が聞こえて、気分が盛り上がっ
たまま臨時総会は解散になった。



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三年生編 第94話(4) [小説]

昼休み。教室のど真ん中で。
腕組みしたまま、僕としゃら、永見さん、ゆいちゃんの四
人でずっとうなってる。

「ううー」

「ううー」

「うううー」

「まさか、あそこまでぶっ飛ぶとは」

永見さんが、頭を抱えてうずくまった。

「まあね。生徒会との協議で今の校則が動いちゃってる以
上は、校長にあれはまずいよって言えないよなあ」

「さすがにそんな権限はないわー。でもさー、あれっても
ろ相互監視の徹底でしょ?」

いや……そうじゃないな。

「違う。逆だよ」

「え?」

永見さんとゆいちゃんが、ぽけらった。
しゃらも僕と同じで、うんうんとうなずいた。

「わたしも違うと思う。誰かがなんかやらかしてるのを見
てそれをちくったら、自分の夏休みまでぱーになっちゃう
んだよ?」

「あ!!」

ゆいちゃんが、すかさず手帳にシャーペンをぐりぐり走ら
せた。

「そうか。逆だ。警告は厳しいけど、やるなら見つからな
いようにやれって……そゆことか」

おいおい、ちょっとちょっと。思わず苦笑い。

「それも違う」

「へ?」

「あれは、校長の最後っ屁だよなあ」

「あはは……」

しゃらも苦笑してた。

「うん。そうだよね。もう君たちの面倒は見ないよってこ
とでしょ?」

「そう」

「……」

「だって、校長先生の任期はもう残り半年もないんだも
ん。そしたら、校長先生が違反して捕まった生徒をかばっ
たり、処分を手加減したり、出来ないよね?」

うん。しゃらのでぴったり。

「じゃあ、何も言わないでほっといた方がよかったんちゃ
うの? どうせ自己責任なんだからさ」

ゆいちゃんの指摘はもっともだ。
他の生徒も同じように考えてると思う。でも……。

「違反するなっていうのは分かりやすいけど、違反したら
どうなるってことは僕らに意識させにくい。校長は、卒業
したらどうたらって言ってたけど、今高校にいる僕らには
関係ないの。はっきり言って。で、停学っていう処分が深
刻なことだって、僕らが考える?」

「うーん」

「学校側が処分の悪影響をいくら説明しても、僕らにはぴ
んと来ない。ガッコ行かなくてラッキー、くらいで」

「うげ」

永見さんが、大丈夫かこいつって顔で僕を見る。

「そしたら、僕らに意味のある形で警告出すしかないじゃ
ん」

「それが、夏休みの話?」

「そう。全員アウトになるなら、しそうなやつに普段から
プレッシャーがかかる。おまえ、分かってんだろうなって」



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三年生編 第94話(3) [小説]

こほんと一度咳払いした校長は、大きな声で鈴ちゃんを呼
んだ。

「ハートガーデンプロジェクト部長、鈴木則子さん!」

「はい!」

「登壇してください」

鈴ちゃんには知らされてなかったんだろなあ。
ちょっと慌てた様子で、鈴ちゃんがステージに上がった。

校長に一礼した鈴ちゃんに向かって、校長が右腕を差し出
した。

「素晴らしいチャレンジです。受賞、おめでとう!」

その手をがっちり握り返した鈴ちゃんが、声をあげて泣き
出した。それから、右手をぽんと突き上げた。

「みんなにっ! ありがとおーっ!」

わあっ! ぱちぱちぱちっ!
体育館の中が歓声と拍手で埋まる。
僕も……ぐっと胸が詰まった。

うん。部員にありがとう、じゃない。
みんなにありがとう。そうだね。

プロジェクトメンバーの目が、いつでも生徒や先生の方を
向いていたからこそ、プロジェクトの活動はずっと熱を失
うことがなかった。盛り上がったんだ。

満足げにうなずいた校長が、まだ目を擦っていた鈴ちゃん
に声をかけた。

「今月末に、東京で受賞式があります。その時に、本校の
代表として堂々と成果を披露してください」

「はいっ!」

わお! 授賞式かあ。すげー。

まだ興奮していた鈴ちゃんがのしのしとステージを降りた
あと。校長は、すかさず次の爆弾をぶちかました。

「素晴らしい話の後で、お小言は言いたくないんですが」

やっぱりかあ……。

「プロジェクトの活動にも、これまで何度か逸脱行為があ
りました。ただし部長をはじめとする各部員が、自分たち
の行為の意味と影響を考え、クリーンな活動にしようと努
力して来たんです。それは、プロジェクトが今年組み直し
になったことでも分かると思います。実に見事な襟の正し
方でした」

校長の表情が見る見る険しくなった。

「彼らの筋の通し方が、四角四面で馬鹿馬鹿しいと思って
いる生徒さんがもしいるのなら。それは、今のうちに考え
直していただきたい。いいですか?」

「みなさんが卒業後に直面する世界は、校則以上にルール
に厳しいんです。それは法律云々ということだけじゃない。
基本的な社会通念、倫理観。そういうものも含めてです」

「過ちを繰り返せば、どんどん社会の中での自分の位置付
けが下がります。そこから盛り返すのは、うんと難しくな
るんです」

ぎん!
校長が鋭い視線を巡らせる。

「それを……ここにいる間に、しっかり心に叩き込んでお
いてください」

校長が背広のポケットから白いメモ紙を取り出して、ぐ
るっと見回した。

「悪意をもって行われなくても、校則違反は起きてしまい
ます。友達の誘惑、危機意識の甘さ、感情や衝動を制御出
来ないこと……」

「でもね。どういう理由があっても、結果をひっくり返す
ことは出来ません。事実として、出来ません。それをしっ
かり肝に銘じてください」

「いいですか? 人は結果しか見ません。それが全てなん
です」

そのあとで校長がぶちかました爆弾は、はんぱなもんじゃ
なかった。

「私が何を言っても脅しだろう。そう取られると困りま
す。私は事実しか言いませんよ」

「夏休みの間に二十数件もの重大な校則違反が摘発され、
学校側では違反者に厳格な処分を出しました。しかし、そ
の処分に効果がないのであれば、もっと実効のある処分に
切り替えなければなりません」

「違反が長期の休みに集中したことを鑑み。これから一年
間みなさんの意識に改善が見られなければ、来年の夏休み
を廃止します」

ぎょええええええええええええええええええええっ!?

「いいですか? もう一度言います。私は事実しか見ませ
ん。みなさんそれぞれに、校則を守るということの意味を
今一度考え直し、自分の身を自分で守るためにはどうすれ
ばいいのかをしっかり考えてください」

「これで、本日の朝礼を終わります」

あっさり。
無表情のまま、校長がすたすたとステージを降りた。



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