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三年生編 第101話(1) [小説]

9月20日(日曜日)

私立大学のオープンキャンパスと違って、国公立大学のは
地味だって聞くけど、僕らのノリはお祭りだった。

そりゃそうでしょ。

僕はみっちり受験勉強だし、しゃらは家事やバイト、お母
さんの看護でそれぞれ忙しくなって、学校以外で顔を合わ
せるチャンスががたっと減っちゃった。

恋しちゃいけない受験生なんていう歌があるみたいだけ
ど、実感として浮き浮き気分で二人で出かける時間も心の
余裕もない。ほんとにない。

だから大学見学っていうお堅いベントであっても、僕らに
とっては二人一緒の時間を過ごせる数少ないチャンスなん
だ。
それを楽しまなくてどうすんの?

進学先の候補が県立大だけでなくて他に比較出来るところ
があるなら、僕は見学の方にものすごく気合いを入れるか
もしれない。

でも、僕がすでに本命校に決めてるとこで、レベル的にも
のすごく高望みってわけじゃなければ。
見学の目的は『大学選択のため』じゃなくて、『行ったあ
とどうするか』になる。
そっちは、進学後にもゆっくり考えられるはずだから、今
はまだこんな感じかーというイメージだけつかめればいい。

「いっきー、お待たせー!」

見るからに、遊ぶぞーって感じのしゃらがぱたぱたとバス
停に走り寄ってきた。

「うーっす。天気もいいみたいだし、今日は一日がっつり
楽しもうぜ」

「うんっ!」

まあ、これで二人して私服なら間違いなくデートなんだけ
どね。
市外への遠出になるから僕もしゃらも学校に届けを出して
るし、制服姿だ。まあ、それはしゃあないわ。

バスに乗り込んだところで、県立大のパンフをカバンから
出して、しゃらに見せる。

「私立みたいにお金かけてキャンパスを整備してるってわ
けじゃないけど、そんなにふるーい大学でもないから、ま
あまあきれいみたい」

「いいなー。アガチスは、雰囲気はすごくいいんだけどぼ
ろいんだよねー」

「あはは。恩納先輩に聞いたん?」

「そう。でも、このあたりの女子大系ではレベルが高いか
ら、学生は落ち着いた子が多いみたい。わたしには馴染み
やすそう」

「短大も?」

「そう言ってた。課題が厳しいから、四大よりもっとハー
ドみたいだよーって」

「うわ。知らんかった。そうなん?」

「うん。管理栄養士の資格取得が目的の学科だから、二年
ていう最短期間できっちり合格しないと、進学の意味ない
もん」

「確かになー」

「大学行ったら遊べるーって子には魅力がないから、全体
に短大志望の学生が少なくなってるみたいね」

「そっかあ。ばんこのとこもそうなんかなあ」

「みたいよ。昔はもっといっぱい選択肢があったけど、四
大と専門学校とで割れちゃってる感じ」

「なるほどなあ……」


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