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三年生編 第101話(2) [小説]

しゃらの家にいろいろ問題があるって言っても、それはそ
れ。
一度自分の中で方針を決めたら安易に引かない頑固さは、
最初からずっと変わってない。
変わってるとすれば、突き進むためのやり方だろう。

最初は意固地だった。根拠も何もなく、目を固くつぶっ
て、一度しがみついたら絶対に離さない。
そういうところがあったんだ。

でも今のしゃらは、上手に情報を使えるようになってる。
自分にどこまで出来て、どこから先は困難を伴うか。
それを、自分の感情じゃなくて、外からもらった情報でう
まいことコントロールできるようになってきてる。
えびちゃんも言ってたよね。わたしを一番上手に使ってる
のは、しゃらだって。

それは……しゃらが三年という時間を無駄なく使ってオト
ナになったからだろうか?
そうして、僕はしゃらのように出来てるんだろうか?

分からない。

「ふう……」

「どしたの?」

「いや、もう受験が目の前に来てるのに、僕はこんなんで
いいのかなあと思ってさ」

「どゆこと?」

「どこまで何をすれば、自分がもうちょいましになるの
か。まだ分かんない」

「……」

「何の見通しもないのに、早く前に進まなきゃってもがく
気持ちがどっかにべたあっと張り付いてて、それがめんど
くさくてしょうがないんだ」

「やっぱかあ……」

ふうっと溜息を漏らしたしゃらが、かくんと首を折った。

「なんかね」

「うん?」

「わたし、いっきにずーっと強いところをもらおうとして
た気がするの」

「強いとこ……かあ」

「うん。一番最初に出会った時からすっごいポジティブ
で、どんな障害物があってもへっちゃらで、ぐんぐんわた
しを引っ張って行ってくれる。そういうイメージ」

「王子様?」

「あはは。そこまでは言わないけどさ」

ちぇー。

「でも、いっきの後ろにいれば、わたしは自分の弱いとこ
ろを見なくても済む。いっきの強さを借りられる。そんな
思い込みがいつもあったかもしれない」

「今は?」

「そうしたい気持ちは今でもある」

そっか……。

俯いてたしゃらが、くんと顔を上げた。

「でも、いっきがそうさせてくれないってことも最初から
分かってた。いっきも、ずーっとそう言ってたし」

「そのつもり」

「でしょ? 自分はそんなに強くない。だから全力で寄っ
かかるのはやめて。いっきは何度も警告してる」

「……」

「それをね、ずーっと見ないふりしてた。ううん、見たく
なかった。聞きたくなかった。でも……」

「うん」

「このままじゃ……わたしが保たない」

ぎくっとする。

「いっきは……さっきぼやいたみたいに、すっごいあがい
てる。悩んでる。そんないっきの中に……わたしをすっぽ
り置ける場所はどこにもない。わたしがどんなに目をつぶっ
て見ないふりしても、それは見えちゃう」

「やっぱかあ」

「もうちょっとどっしりしてたらなあって、正直思う。で
もね」

「……うん」

「そんなん、むちゃくちゃだもん。じゃあ、あんたはどう
なのさって言われたら、わたし何も言い返せない」

今度はしゃらが、ふうっと大きな溜息をついた。

「しずちゃんにも伯母さまにも警告されたこと。人の言葉
や行動に一々振り回されるんじゃない。もうちょっと自分
自身を強くしなさい。それを……」

「うん」

「その大事さとしんどさを……今、思い知らされてる」

「そっか……」

しゃらは、前かがみになってた背中を真っ直ぐに起こした。

「いっぺんには出来ないけど」

「うん」

「少しずつがんばる」

「それでいいんじゃない? 僕もそれしか出来ないし」

きょろっと僕の顔を見たしゃらが、なんだかなあという表
情のまま笑った。

「でもさあ」

「うん?」

「これからデートしようっていうカップルが、こんなおっ
さんおばさんみたいな年寄りくさい会話してていいわけ?」

どてっ。




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三年生編 第101話(1) [小説]

9月20日(日曜日)

私立大学のオープンキャンパスと違って、国公立大学のは
地味だって聞くけど、僕らのノリはお祭りだった。

そりゃそうでしょ。

僕はみっちり受験勉強だし、しゃらは家事やバイト、お母
さんの看護でそれぞれ忙しくなって、学校以外で顔を合わ
せるチャンスががたっと減っちゃった。

恋しちゃいけない受験生なんていう歌があるみたいだけ
ど、実感として浮き浮き気分で二人で出かける時間も心の
余裕もない。ほんとにない。

だから大学見学っていうお堅いベントであっても、僕らに
とっては二人一緒の時間を過ごせる数少ないチャンスなん
だ。
それを楽しまなくてどうすんの?

進学先の候補が県立大だけでなくて他に比較出来るところ
があるなら、僕は見学の方にものすごく気合いを入れるか
もしれない。

でも、僕がすでに本命校に決めてるとこで、レベル的にも
のすごく高望みってわけじゃなければ。
見学の目的は『大学選択のため』じゃなくて、『行ったあ
とどうするか』になる。
そっちは、進学後にもゆっくり考えられるはずだから、今
はまだこんな感じかーというイメージだけつかめればいい。

「いっきー、お待たせー!」

見るからに、遊ぶぞーって感じのしゃらがぱたぱたとバス
停に走り寄ってきた。

「うーっす。天気もいいみたいだし、今日は一日がっつり
楽しもうぜ」

「うんっ!」

まあ、これで二人して私服なら間違いなくデートなんだけ
どね。
市外への遠出になるから僕もしゃらも学校に届けを出して
るし、制服姿だ。まあ、それはしゃあないわ。

バスに乗り込んだところで、県立大のパンフをカバンから
出して、しゃらに見せる。

「私立みたいにお金かけてキャンパスを整備してるってわ
けじゃないけど、そんなにふるーい大学でもないから、ま
あまあきれいみたい」

「いいなー。アガチスは、雰囲気はすごくいいんだけどぼ
ろいんだよねー」

「あはは。恩納先輩に聞いたん?」

「そう。でも、このあたりの女子大系ではレベルが高いか
ら、学生は落ち着いた子が多いみたい。わたしには馴染み
やすそう」

「短大も?」

「そう言ってた。課題が厳しいから、四大よりもっとハー
ドみたいだよーって」

「うわ。知らんかった。そうなん?」

「うん。管理栄養士の資格取得が目的の学科だから、二年
ていう最短期間できっちり合格しないと、進学の意味ない
もん」

「確かになー」

「大学行ったら遊べるーって子には魅力がないから、全体
に短大志望の学生が少なくなってるみたいね」

「そっかあ。ばんこのとこもそうなんかなあ」

「みたいよ。昔はもっといっぱい選択肢があったけど、四
大と専門学校とで割れちゃってる感じ」

「なるほどなあ……」


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ちょっといっぷく その201 [付記]

 いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 年明け早々、いっぷくとてぃくるで場をつなぎました。
 その間にようやっとベンピ続きだった10月の大ヤマの一つを書き切ったので、これから少しだけ話を進めます。
# 一話書くのに三年以上かかったわい。(^^;;

 三年生編の10月に入ると、明るい面で大きなヤマが二つ来ます。ただ、その明るい面には裏がついていて、反対側を見ればそれは喪失。明暗の両面を対比しながら書かなければならないので、本当にしんどいんです。
 とりあえず最初の一つは書けたので、残りのヤマもががっと書いてしまおうと思っています。

 これからお届けする9月の残り分は、10月の展開前の助走ということになりますね。

◇ ◇ ◇

 第百一話と第百二話は、いずれも離陸に向けた準備運動の話です。離陸が必要なのは、いっきとしゃらだけではないんですよ。期限があらかじめわかっている学生は終点から逆算して離陸準備をしますが、オトナの場合はそうはいかないわけんです。
 そんなことを題材に、これからの二話を読んでいただこうと思います。

 二話とも「ああ、こういうのあるある」と思わずにやっとする展開になると思います。(^^)

 間にてぃくるを挟みながら、一ヶ月ほどかけてお届けしてまいります。
# その間にお弁当作らなきゃ。(^^;;

◇ ◇ ◇

 ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽にコメントしてくださいませ。

 でわでわ。(^^)/




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「スイセンだからって、なんでも水に流せるってわけじゃないぞ!」

「なに怒ってんだよ」

「犬に、しっこひっかけられた」


  (^^;;



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ちょっといっぷく その200 [付記]

 いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 本年初めてのいっぷくになりますが、早々にいっぷくしてていいんかいとツッコミが入りそう。(^^;;

 まあ、ぼちぼち参ります。

 ◇ ◇ ◇

 まず、年初なので一応目標を。今年は、完全にストップしてしまっている本編を少しでも進めたいと思います。三年以上スタックしたままなので、リハビリをかねて少しずつということになりますが、一年に二十話くらいは進められたらなあと。
# 鬼が笑いますね。(^^;;

 それと同時に、これまで書き終えた分をリファインして行こうと思っています。書き始めたのが十年以上前ですから、最初の頃のはお粗末なところが結構あるんです。それを手直しして行こうかな、と。
 新規に書く分と並行しての作業になりますので、推敲はのんびりやります。(^^;;

 ◇ ◇ ◇

 定番化させるつもりでコマーシャル。(笑

 アメブロの本館で十年以上にわたって書き続けて来た掌編シリーズ『えとわ』を電子書籍にして、24集全てアマゾンで公開しました。第1集だけ300円。残りは一集400円です。kindke unlimitedを契約されている方は、全集無料でご覧いただけます。(^^)/


 えとわ


 第25集の刊行は、本年前半になると思います。


 ◇ ◇ ◇

 このあと、またしばらくてぃくるを続けます。ご容赦ください。m(_"_)m


 ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽にコメントしてくださいませ。

 でわでわ。(^^)/




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「なんや、いっぱいあってな。その中の一つが当たりらしいんや」

「ほう。当たったらどうなるん?」

「トイレの住人になる」



  (^^;;



 いや、全部当たりです。(笑
 センダンの果実は有毒です。口になさいませんよう。






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あけましておめでとうございます [付記]

あけましておめでとうございます

今年もどうぞよろしくお願いいたします




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千年生き続ける木はあるが

千年生き続ける人はいない


千年生き続けることは叶わないが

千年残るものを考えてみたいと思う






 台風の猛威に耐えたクスノキ
 これでもせいぜい百数十年程度の若い木なんです。
 これからも、自らを存在の証としてここに君臨し続けるのでしょう。

 その樹下に立ち、梢を見上げ、たった一年のことを懲りもせずに思い悩むことにします。

 だって、わたしはクスノキじゃありません。
 人間ですから。




  一年(ひととせ)を詰め合はせたる雑煮かな






Learning How To Fly by Tuck And Patti



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