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三年生編 第99話(11) [小説]

「レンさんは、今自力で自分の生き方をしっかり仕切って
る。依存のいの字もないです。僕の方が、まだふらふらで
すよ」

「あはは。そんなことないでしょう」

「でもね」

「はい?」

「穂積さんは、今誰にも依存できない」

「ええ」

「それなら、まず誰かに依存させるところから始めない
と、いつまでも原点から動けない。伯母の失敗は、そこだ
と思うんです」

「……」

「迫害のない落ち着いた静かな環境は、心の傷を癒すため
に必要なんでしょうけど、それだけでは立って歩き出す推
進力にならない。最初は誰かが手を引いてくれないと最初
の一歩が出ない」

「うーん」

「一生面倒を見ろなんてことにはなりませんよ。でも、接
点がないと、どうしても今の状態からは前に出られない。
最初のきっかけだけは作ってあげられないかなあと」

レンさんが、黙り込んでしまった。
どうしても、穂積さんにすがりつかれて共倒れという最悪
のシナリオがちらついてしまうんだろう。

僕は、去年のクリスマスの時のことを思い出す。

「あはは。レンさん。たぶんね、レンさんも穂積さんに
とっては敵側にいます。だから、今は余計な心配はいらな
いと思う」

「え? 私が敵……ですか?」

「そう」

それは、レンさんにとって全く予想外だったんだろう。
そして、僕にはよく分かるけど、レンさんにはすぐに理解
できないかもしれない。

「去年のクリパの時。レンさんが、自分の再起の取り組み
をみんなに披露したでしょ?」

「あはは。若造が何を偉そうにって感じでしたね」

「そう。そのレンさんの話が、穂積さんには負け犬は黙っ
てろに聞こえるんです」

「げ……」

「追い込まれてる人の精神状態って、普通と違うんです
よ。僕も一時ぎりぎりの状態だったから、穂積さんの気持
ちがよーく分かる」

「……」

「だから、レンさんが、大丈夫なんとかなるって励ました
ことが全部裏目に出ちゃった」

「そんな……」

「いや、レンさんのせいじゃないです。穂積さんの方の問
題。でも、その問題を穂積さん自身が解決できないなら、
コミュニケーションの取り方をやり直す必要があるんです」

「あ、そうか。それで……敵って」

「そう。最初からレンさんに倒れこむなんてことは、絶対
にありえないです。まず、レンさんが自分にとって信頼で
きる人かどうかを慎重に探るはず」

「ええ」

「穂積さんの求める基準を満たせなかったら、レンさんも
アウト。ご苦労様でしたでオワリ」

「それなら……なんで私なんですかねえ」

話が元に戻っちゃった。


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