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三年生編 第95話(1) [小説]

9月10日(木曜日)

ざわざわざわざわ……。

ロングホームルームが始まった途端に、教室の中が落ち着
かなくなった。

そりゃそうだ。
進行役の立水が鬼の形相だし、でも話がなにも進んでいっ
てない。

「ちっ! なんかねーのかよっ!」

立水がいらいらするのはよーく分かる。
でも、運動系なら真正面から仕切りにいく立水でも、演し
物の募集の場合は力技を使えない。

学園祭のクラスイベの演し物……かあ。うーん……。

十月の学園祭。僕らにとっては最後の学園祭になる。
いくら受験が目の前にぶら下がっているって言っても、お
祭りはこれが最後。泣いても笑ってもこれで最後。
シラケきった状態でお祭りに参加しても、ちっともおもし
ろくない。

でも、模擬店とか練習が必要なパフォーマンス系とかには
突っ込めない。準備する時間がないもん。
どうしても凝ったことしたいってやつは、部活のルートで
すりゃあいいじゃんかって感じ。

三年は、いつもはだいたい合唱が多かったんだよね。
曲目決めて、楽譜用意して、当日まで各自で練習しとい
てって。それだけ。
あとはステージに上がって一発どん。

まあ、三年のステージは初日の前半にさっさと済ませちゃ
おうって感じになる。
去年2Fでステージのアタマ取ったのは、例外中の例外
だったんだ。
あのお茶目な大村生徒会長が、沢渡校長のごたごたで荒ん
だ気分をすかっとさせようとして慣例を崩したんだよね。

今年は、そこまでガッツのあるクラスは出てこないだろう。
開会式のあとで、三年生がさくさく合唱をこなす形になる
んじゃないかな。

それは僕の予想通りだし、特に驚きも落胆もない。そんな
もんだろなーと。みんなもそうだと思う。

でも。もやもやすんだよね。
イベントはこれで最後の最後なのに、本当にそれでいいの
かなあって。立水が吠えてるのも、だからだろう。

おい、これで最後なんだぜ? それでいいのかよって。

正直、お祭りが好きな僕も、今年は演じる方より見て回る
ことをメインにしたい。
一年の時はゲリラライブの準備でいっぱいいっぱいだった
し、去年は中庭イベントの準備と警備で楽しみ切れなかっ
た。
最後くらいは時間をゆったり使って、お祭りを満喫したい。

だから、アイデアの言い出しっぺにはなりたくないんだ。
提案したやつが仕切れよって話になっちゃうから。
今年は、悪いけど貝にならしてもらう。

立水が何度かなんかねーのかよと吠えたあと、不気味な沈
黙が数分続いた。

教室の中がきな臭くなってきてヤバいなあと思っていた
ら、隅っこに座っていたえびちゃんが、すうっと前に出て
きた。

「合唱でいいけど、曲目がってことなんでしょ?」

おお! 天の助け。

「うす」

むっすり不機嫌な立水が、渋々頷いた。

「ちょっと変わったのをやらない? 今の流行りものな
ら、他のクラスでもやるだろうから」

ざわざわざわ……。
えびちゃんがどんな曲を提案するのか。僕らには全く見当
がつかない。


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