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三年生編 第67話(4) [小説]

「君は、プロジェクトの部員募集ポスターをよく読んだ?」

一旦準備室に引っ込んだ中沢先生が、余部のポスターを持っ
て戻って来た。僕らの前でそれを広げる。

じょいなー渾身の一作。
その出来栄えは、ポスターにしておくのがもったいないほど。
気に入った先生が、鑑賞用として手元に保管してあったんだ
ろう。


『ハードガーデンプロジェクト部員募集

 中庭に心を植え、心を育て、心を繋ぐ。
 その理念に賛同して、中庭のお世話や活用をお手伝いして
 くださる部員を募集しています。

 学年、性別、経験は一切問いません。
 鈴木、四方まで、お気軽にお問い合わせください』


「君の目には、希望者は誰でも入れるっていう文章が見える
の? もし見えるとしたら、それは幻覚よ」

うん。
中沢先生、ナイス。

「問い合わせてくれって書いてあるよね? つまり、部長や
マネージャーが活動内容を説明するとともに、希望者の適性
をチェックして、そこで入部の可否を判断しても何もおかし
くない。違う?」

「……」

「嘘なんかついてないよ。ひとっつも」

しのやんが追撃。

「それにね。もし君が入っても、マネージャーの四方くんの
指示に従わなかった場合は、マネージャー権限で退部させら
れるの。それで君がプロジェクトに入る意味があるの?」

「……」

さすがに、一対三で、しかも相手が上級生と先生じゃ分が悪
いと思ったんだろう。

「もう、いいっす」

がたん!
乱暴に椅子を鳴らして立ち上がった。

その背中に声を掛ける。

「もし君が、僕らのプレゼン以上のものをやろうとして自分
勝手に中庭を破壊したら、学校から厳しい処分が下るよ。中
庭の整備は学校からの委託事業なの。僕らのお遊びじゃない」

「……」

「君がどうしても自分の思い通りにやりたいなら、まず校長
から中庭の整備許可をもらうところからやんなよ」

「出来るわけないじゃないすか。そんなの」

「はっ! だから、君は論外だって言ってるのっ!」

「……」

「僕はそこからやったんだよ。一人でね」

「!!」


           −=*=−


『入部願いは受理しません』

面接の結果を四方くんに流して安心させる。

「今時珍しいよなあ。あんな極端なジャイアン」

「空気読めてないし」

中沢先生は、思い切り不機嫌そう。

「大っ嫌いなタイプだよ」

「ですよねえ」

「あれは、私の親父そのものさ。あれがそのままでかくなる
と箸にも棒にもかからなくなる」

「うげえ……」

でも。
僕は、よーく似た人を知ってる。
それは橘社長でも、りんや加賀野さんの親父でも、糸井夫婦
でもない。高岡や市工のばかどもでもない。

工作部の須山先輩だ。

陰気でひっきー体質のはずの関口が、激しい敵意と嫌悪をむ
き出しにするほど、須山先輩のエゴ丸出しの姿勢はひどかっ
たんだろう。

僕らがそのエゴの直撃を食らわなかったのは、先輩に製作を
何もかも仕切らせたから。僕らを使って好きなように出来る
先輩が、ものっそ上機嫌だったからだ。
もし僕らの誰かがそれにけちを付けていたら、どう転んでい
たか分からない。

きちんと理詰めで考える関口でも、須山先輩には全く歯が立
たなかった。
それは、須山先輩に理屈が通用しなかったってことを意味し
てる。さっきの滝沢くんの姿勢と同じさ。

どこまでも直球で押し通される強い、堅い意志。
それは難局を切り拓く力になるけど、人を遠ざけて自分を孤
立させる毒にもなる。

滝沢くんにとっては、その力は何の役にも立ってない。
もったいないなあと思う。

「なあ、いっき」

「うん?」

「彼は、これからどうするんだろ?」

「むっちゃプライド高そうだからね。一人で僕ら以上のプレ
ゼンやってみろよっていう僕の挑発を真に受けるんちゃう?」

「げー」

「でも、さっき釘刺したことは無視できない」

「ああ、勝手に中庭をいじれば、僕らじゃなくて学校から処
分がってことか」

「そ。そうしたら、彼には出来ることが一つしかない」

中沢先生がにやっと笑った。

「ははは。工藤くんと同じ手続きを踏まないとならないって
ことだな」

「そうです。今、彼は校長に掛け合いに行ってるでしょう」

「えええっ?」

ずどん!
しのやんと中沢先生が、派手にぶっこけた。



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三年生編 第67話(3) [小説]

「そこらへんが鍵かなー」

「鍵、すか」

「そう。使えるか、使えないかのね」

「!! ちょ、先輩……」

「全ての可能性は排除しない。関口の時がそうだったろ?」

「う……」

「嫌なことから逃げたら、実を取れない。最初からお断りの
前提にはしないよ」

「……」

「まあ、四方くんの話を聞く限り、無理そうだけどね」

強張っていた四方くんの表情が緩んだ。

「じゃあ、放課後にここってことで話を振ってみるっす」

「おっけー。待機してる」

「迷惑持ち込んですんません」

「いや、厄介ごとは夏休み前に片付けないと、あとあと面倒
だからさ」

「そっすよね」

「夏休み中の当番表は確定?」

しのやんが、確認した。

「ほぼ確定っす」

「お盆明けなら、夏期講習終わってるから手伝えるよ。突発
的に穴が空いた時は声かけて」

「助かります!」

よし、と。
めんどいことは、さっさと片付けよう。


           −=*=−


そして、放課後。
僕としのやんの他に、四方くんから話を聞きつけた中沢先生
も参戦した。
中沢先生は、単なる野次馬だろうけどね。

実習室のドア付近の席で待ち構えていた僕らの前に、ノック
も失礼しますも何もなしで、いきなりがらっとドアを開けて
男子生徒がのしのし入ってきた。

うわ。
確かに、相当癖が強そうだなあ。

「入部希望で来たんですけど」

「ええと、学年、クラスと名前を教えて」

「2Eの滝沢です」

滝沢くん、か。

「プロジェクトの説明は、誰かから聞いてる?」

「いや、俺には必要ないです」

「どして?」

「それが入部に必要なんですか?」

これだよ。
思わず溜息が出る。

はあ……。

「あのさ。部活ってのは、それぞれの部にちゃんと目標と決
まりごとがあるの。うちだけじゃない。どこにもね」

「知らないっすよ。そんなの」

「あ、そ。それじゃあ、入部は認められないな」

ばしっ。
突き放す。

「誰でも入れるんじゃないんですか?」

「普通の子はね」

「……」

「あのね、なんでプロジェクトの説明を受けたかって、君に
確認したと思う?」

「知らないっすよ。そんなの」

「君が考えてるのとプロジェクトの性格が違ってたら、どっ
ちが優先?」

「……」

「君のやりたいようにやりたい。君一人で何もかもやるなら
それでいいさ。でも、うちは大所帯なんだ。そこで議論して
合議の上でいろんな活動を決めてるの」

「自分と意見が違うとか、気にくわないからこういう風にや
らせろっていうのはまず通らないよ。それでいい?」

「よかないです」

「だったら、最初から無理じゃん。論外だよ」

しのやんが、横から口を挟んだ。

「あのね。うちは部活としてはとても特殊なの。本来、自由
に活動出来るはずの部活としては異例なくらい、学校側の制
限が強くかかってる」

「それは、中庭っていう学校の施設を利用するだけじゃなく
て、それをいじるっていう性格上しょうがないの」

「こうやりたい、ああやりたいって君が勝手にかき回すと、
すぐに」

しのやんが首を切る真似をした。

「……ってこと」

「君は、この前のガーデニングコンテストのプレゼンがなま
ぬるいって思ったんでしょ」

「そうっす。あんなのガキのおままごとじゃないすか」

「ははは。ガキのおままごとか」

うんざり。

「じゃあ、あのプレゼン以上のものを、君一人で企画して実
行してごらん。それが出来たら入部させてあげる」

「そんな入部条件、どこにも書いてないっすけど」

「だって、僕らは今のプロジェクトを壊したくないもの。君
が勝手にかき回すことで壊れるのが分かってるのに、どうぞ
入ってくださいなんて人がいると思う?」

「じゃあ、部員募集のポスターは嘘ってことすね」

「どして?」

じっと僕らのやり取りを聞いていた中沢先生が、突然口を挟
んだ。



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