SSブログ

三年生編 第67話(2) [小説]

「あーほーかー。部員総出で全力でやって、あれで精一杯な
んだぜ? 一人で力んで何出来るっていうんだ?」

「俺もそう思うんすけどねえ……」

「ずれてるなあ」

しのやんが、鼻をぴくぴく動かした。

「臭う。臭うぞ」

「なにが?」

しゃらが、ほよよって顔で聞き返した。

「ぼっちの臭いだ。臭い」

ぎゃはははははっ!

「まあねえ。大人しいぼっちなら、こっちにおいでよって声
掛けやすいけどさあ。俺様はなあ……」

「むりー」

しゃらが、うんざりって顔で首を横に振った。

「まあ関口みたいに、自分でぼっちって言っててもそれほど
でもないやつはいるけどさ。派手な攻撃性がない関口みたい
なのはともかく、俺様を引き入れちゃうとプロジェクトがが
たがたになる」

「そうなんすよ。絶対お断りなんですけど、誰でもおっけー
を看板に出してる以上、俺からは……」

うん。
それが四方くんの苦悩だ。
今は、入部窓口が鈴ちゃんと四方くんになってて、女子は鈴
ちゃん、男子は四方くんがさばくことになってる。

四方くんは、絶対お断りの俺様にどうやって入部希望を取り
下げさせるかで苦悩してたってわけだ。

「しゃあない。僕の方で面接するか」

「工藤先輩でさばけるんすか?」

「まあ、どんな子か直接見てみないとさ。判断のしようがな
いなー」

「任せていいすか?」

「そういうのが僕の仕事さ。振ってた旗はまだ全部下ろして
ないよ。こそっと振ってる」

ぱたぱた。

「きゃははははっ!」

しゃらがそれを見て笑った。

「僕もサポで付くよ」

しのやんがひょいと手を挙げる。

「助かる」

「じゃあ、俺の方で段取りしていいすか?」

「今日出来るだろ?」

「いけると思います」

「四方くんは席外してね。責任が今の三役にかぶっちゃうの
はすごくまずい。僕らが標的になった方が、ずっと実害が少
ないからね」

「分かりました! お願いします」

「おけー」

「わたしはー?」

しゃらがひょいと首を突っ込んできたから、しっしっと追い
払う。

「しゃらはダメ。そういう俺様は、付け入る隙を探してる。
僕としゃらの関係を知ってる彼は、必ず部の私物化がどうの
こうのって言い出すよ」

「う……そか」

「そういう要素をぎりぎりまで減らして、削り合いしないと
ね」

「しんどそー」

「うけけ。そうでもないよ」

「そうなの?」

「うちのクラスの方が、よっぽどしんどい。一度片山とやり
合ってみ?」

「やだあああっ!!」

しゃらが全力で拒否。気持ちは分かる。

四方くんが、不思議そうに聞き返した。

「その片山先輩っていうのは?」

「うちのクラスきっての皮肉屋だよ。ただ口が悪いっていう
だけじゃない。屁理屈のこね方が尋常じゃないんだ。四方く
んじゃ、まだ全然歯が立たないね」

「うげえ……」

「片山に比べれば、ひたすら俺が俺がって言い続けるだけの
単純なやつは大したことないよ」

「タフっすねえ」

四方くんが、でっかい溜息をつきながらこぼした。
四方くんは馬力はあるけど、決して打たれ強い方じゃないん
だよね。むしろ、しのやんの方が見た目以上にタフだ。
ゴナンの連中にぼこられても折れないで、ちゃんとバネにし
たからなあ。

「問題は、彼の俺様部分がちゃんと自発的行動に繋がるかど
うかなんだよなー」

「えと。どういうことすか?」

「仕切り屋はどこにもいるよ。でも、仕切り屋はちゃんと自
分から動くんだよ」

「あ、そうか。確かにそうすね」

「でしょ? うちのクラスにも黒木っていうジャイアン系の
仕切り屋がいるけど、奴は口先だけじゃなくて段取りもしっ
かりやる。民主的かどうかはともかく」

しゃらが、ぷっと吹いた。


nice!(56)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

三年生編 第67話(1) [小説]

7月23日(木曜日)

昨日のプロジェクトの集会。

ごちゃごちゃあったけど、一応けじめが付いて。
感情的な衝突に持って行かないで、建設的にやろうっていう
交通整理があって。
顧問の中沢先生もきちんと仕切ってくれて。
三年生部員の義務解除も滞りなく宣言され、最後はわいわい
案出しをするいつものスタイルで盛り上がれた。

どういう流れになるか読めなくてはらはらしていた僕らから
してみたら、ほっと一安心だったんだけど……。

そんなに甘くはなかった。

明けて今日の昼休み。
もうどうしていいか分からんと弱り切った四方くんが、生物
実習室の蛍光灯をぼんやり見上げてる。

「なるほどー……。確かに、こんなケースは想像したことも
なかったなあ」

「ありえんだろ。普通は」

「だよねー」

僕としのやんとしゃら。
三人で、四方くんと同じように天井を見上げちゃう。

「うーん……」


           −=*=−


事の発端は、四月にまでさかのぼる。

沢渡校長との衝突の直後から、鈴ちゃんはじめ、全部員が血
相を変えて走り回っていた頃。
オリエンテーションの後でプロジェクトに入りたいって言っ
てきた新入部員は、十二人しかいなかった。

まだプロジェクトが危機の真っ只中にあるのに、それでもい
い、やりたいって子ばっかだから、一番馬力もやる気もある。
サブマネ指名された江本さんも高橋くんも、そして実生もそ
の第一期生。

プロジェクトが落ち着いて、徐々に盛り上がってきた頃に、
主にみのん目当てで入ってきたのが二期生の十人。
まあ、みのんにはまるっきりその気がないから失望してやめ
る子が出るかなーと思ったんだけど、黒ちゃんみたいに後か
らプロジェクトのおもしろさが分かって、はまるんだ。

その十人、まだ誰もやめてない。活動にも熱心だ。
ただ、ちょい、軽いんだよね。
だから、四方くんがぶち切れた意味がよく分かってない。
それはまだしょうがないかなーと思う。これから徐々に鍛え
られていくでしょ。

んで、その後。
一期、二期の新入生の波が過ぎた後で、ぽつぽつ入ってくる
子がいる。

この子たちが……すっごい厄介。
つまり、クラスに居場所がないから逃げ込んで来る子なんだ
よね。

実生も言ってたけど、ゆがんだ受験の影響で一年生の間の学
力や意識のばらつきが大きくて、クラスではみる子が出やす
い状況は確かにあると思う。
でもそれとは関係なく、はみる子はやっぱりはみるんだ。

中学での人間関係は持ち越せないし、部活やクラスでの友達
作りを最初にしくじると、うまく行った子たちのグループに
は後からなかなか入れない。
そういう子が孤立感を深めて、逃げ場を探すようになるんだ。

規則や制限がゆるくて部員が多いプロジェクトは、そういう
子たちには格好の避難場所に見えるらしい。

いや、きっかけはそれでもいいの。
プロジェクトの中でゆっくり友達を作ってくれればいいし、
プロジェクトの仕事をしている間に楽しいなって思ってくれ
ればいいから。
北尾さんが、プロジェクトをうまく利用したみたいにね。

だけど、寂しいから誰かかまってくれっていうのは困るの。
それは自発的にやって欲しい。
黒ちゃんとかみぽりんとか、ゆるふわ系の先輩がなにげにサ
ポしてて、それなりになんとか持ち直してきてるけど。
いずれはちゃんと自立して欲しいんだよね。

そこが……部員の活動管理をしてる四方くんの頭痛のタネだ。

それだけでも十分に厄介だったんだけど、それ以上の災難が
どすんと落っこってくるとはなー。

「うーむむむ」

「ぐわあ」

「ううー」

「はあ」

四人揃って、頭抱えちゃった。

「聞いたことないよ。入部させてくださいじゃなくて、俺を
入れろバカモノっていばるやつ」

「だよなあ」

ってことなの。
信じられないんだけど、いるんだよ。そういうトンデモ系が。
しかも新入生じゃなくて、二年生で。

僕らの代でも、うっちーやももちゃん、星野さん、あっきー
が途中加入組だったけど、みんなプロジェクトがおもしろそ
うだから来てくれたわけで。
仕切らせろなんていう横暴な俺様は、そもそもゆるーいプロ
ジェクトなんかには来ないよ。

それが、なんでまた。

「相当変人なんでしょ?」

「間違いなくそうっす。元々ジャイアン系なんだけど、クラ
スではそいつをイジる物好きはいないので、放置プレイ」

「だよなあ……」

「この前の体育祭でも委員長の仕切りを無視して勝手に暴走
し始めたんで、先生がどやしたんですよ。おまえ一人のため
のイベントじゃないんだぞ。だあっとれって」

「ぐわあ……なんだかなあ」

「信じられないっす」

「それが、なんでまたうちのプロジェクトを標的に?」

「この前のガーデニングコンテスト審査のプレゼンを見てた
らしくて」

「うん」

「生ぬるいって」

どどどおっ!
全員、力いっぱいぶっこけた。




共通テーマ:趣味・カルチャー