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三年生編 第106話(7) [小説]

菊田さん、相変わらず優しいなあ。

「全力で応援したいです」

「頼むね。私は、あくまでもチャンスメイクしかできな
い。あとは松ちゃんにしてもリョウにしても、自力で欲し
いものを取りに行かないとならないの」

「分かります」

「今度のことを、いいきっかけにして欲しいな」

「リョウさんとの打ち合わせも要りますよね。うちのプロ
ジェクトの担当者を派遣しますので、その時に話し合いと
いうことにさせてください」

「あら。工藤さんの家のすぐ近くなんだから、リョウの家
でやればいいのに」

今度は僕が苦笑した。

「それじゃ、うちのメンバーの勉強にならないです」

「あはは。それもそうね。工藤さんも厳しいから」

何言うだ。僕のは菊田さんのどつきの賜物ですだ。

「じゃあ、あとは実務担当者に任せますね」

「そうして。私も、あとは松ちゃんとリョウに任せるから」

「はい! ありがとうございました」

「またねー」

ぷつ。
よし!

すぐ生物準備室に戻って、ガッツポーズとともに交渉成果
を披露した。

「アドバイザー確保!」

「誰?」

みのんが、すぐに突っ込んできた。

「トレマホームセンターでバイトしてた時に、売り場を仕
切ってたパートさんがいるんだ。松田さんていうおばさん
なんだけど」

みのんが、ぽんと手を打った。

「思い出した! すっごい詳しい人だよね」

「そう。家庭の事情があってパート辞めてたんだけど、グ
リーンアドバイザーの資格も持ってるし、どうかなって」

わあっ!
手詰まりになってたところが解決して、場が一気に盛り上
がった。
でも、僕はすぐに釘を刺した。

「さて。僕の役目はここまでね」

「げ……」

後輩たちの活気が、しゅるしゅるっと縮んだ。

「松田さんとの交渉は、担当者に全部任せる。僕は仕切ら
ないよ」

「……」

しーん……。

「僕はプロジェクトを成功させるために、この学校の中だ
けでなく、外の人たちともたくさんつながりを作って、そ
れを活かしてきたの」

みんなをぐるっと見回す。

「僕が学内でお地蔵さんになっていたら、プロジェクトは
絶対失敗してたよ。どうしても外の風は要るんだ」

「ああ、そうだな」

みのんが、大きく頷く。
のほほんのぽんいち。その一番の弱点が、内気すぎること
なんだ。
みのん自身も、最初は間違いなくそういう気質だった。

でもみのんは早いうちから外に目を向け、会長を手始めに
自分の欲しいものをがんがん取りに行くようになった。
それによって、将来手を伸ばせる選択肢をうんと増やして
るんだ。

外に出て、風をつかむこと。
僕もしゃらも、そして多くの一期生がそのことに全力で挑
んできた。
二年生も、コンテストという外の風に当たりに行って成果
につなげてる。
だから一年生も、目を早くから外に向けて欲しいんだ。

黙ってそこにいるだけじゃ、主役になれない。
それじゃ、目の前の壁を超えられない。

「連絡先を教えるから、一、二年生で交渉してね。失礼の
ないようにね」

僕はそのあとの仕切りを高橋くんに任せて、話し合いから
さっと離脱した。
僕が残っていると、結局いろいろ言いたくなる、
それは……彼らのためにはならないから。



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