SSブログ

三年生編 第92話(9) [小説]

僕が苦り切っていたら、がらっとドアが開いて瞬ちゃんが
のっそり入ってきた。

「あれ? 斉藤先生。どうしたんですか?」

「校長に、ここに来いと言われたんだ」

ま、まさか……。

すぐあとから駆け込んできた安楽校長が言うことには。

「ああ、斉藤くん。済まんな。風紀委員会の顧問をやって
くれ」

ずっどおおん!
僕ら生徒三人、おおこけ。

「んなー!」

瞬ちゃんも、ものすごーく嫌そうな顔をした。

「俺は、風紀委員会なんかとっとと潰れてしまえと思って
るんですが」

「まあ、それは分かるが、大高くんの代わりが出来そうな
のは君くらいしかいないんだ」

「勘弁してください」

椅子に座った瞬ちゃんが、両足をぼかあんと投げ出した。

「大高さんがヘマったんですか?」

「キレたんだよ」

「ちっ!」

「君がやってる生活指導の長と入れ替える。それで了承し
てくれ」

「しょうがないですね」

それ以上何も余計なことを言わずに、さっと瞬ちゃんが教
室を出て行った。

森下くんと河西さんが、ぶるってる。

「ううう……さ、斉藤先生が顧問? 最悪やん」

「委員やめたーい」

思わず苦笑しちゃった。

「そらあ逆だよ。斉藤先生は絶対にキレないからね。百戦
錬磨」

「え?」

「一番僕らを上手に鍛えてくれると思う。先生のイジリや
どやしの意味をよーく考えて。ちゃんと議論を整理して出
口を示してくれるから、すごく勉強になるよ」

「そうですかあ?」

「僕は、それでしっかり鍛えられたからね」

「はっはっは。工藤くんは、担任に恵まれたな」

「そうですね。斉藤先生にはいっぱい財産をいただきまし
た」

「うん」

「負荷のかからない楽なトレーニングには意味がないで
す。森下くんも河西さんも、そう考えて」

「はあい」

「君らは、いい先輩を持って幸せだな」

「そうですかね」

僕は、否定口調で言い戻した。

「ちょっと口を出し過ぎたかもしれません」

「そうかい?」

「木崎先輩や大村先輩にはがっつりどやされましたけど、
こうしろああしろは一度も言われなかった。それは君らで
考えてって」

「ああ」

「僕は……先回りし過ぎたんじゃないかなあ」

「まあ、それも結果論だよ。嵐が来た時は巡航運転の時と
は違う」

「……なるほど」

「早く、巡航運転まで持って行きたいけどな」

大きな溜息を一つ残して、安楽校長がゆっくり教室を出て
行った。
僕らもここまでにしておこう。

「じゃあ、今日はこれで」

「はあい」

「またですー」



nice!(59)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 59

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。