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三年生編 第92話(10) [小説]

視聴覚室の鍵を職員室まで返しに行ったら、入り口近くに
展示されていた大きなリースが目に入った。
派手さはないけど、ぐるりと丸く巻かれた大ぶりの蔓に、
よく香る白い花がいっぱい着いてる。

マダガスカルジャスミン、か。

いかにも夏らしい涼しげなリース。
でも、夏はもうそろそろ終わりに近付いてる。
花房から外れてぽたりと落ちてる花殻が、そう訴えてる。

熱病のような夏にうなされて、立ち入り禁止の領域を踏み
越えてしまった二十三人の生徒。
夏が終わってしまったこれから、その行為の清算をしない
とならない。

もちろん、それぞれに言い分も理由もあるんだろうけど。
警察の補導という一番言い逃れ出来ない校則違反は、どう
にもフォローしようがないだろう。

ただ……。
違反があったという事実と、その生徒の性格の良し悪しと
は必ずしも連動しない。
性格が腐ってるから違反するってわけでもないんだ。

学校側がそれをどう判断したか、だよなあ。

そして、逆の場合もありうると思う。
違反がなければその人は人格者? そんなわけないよ。
大高先生を見ているとよーく分かる。

大高先生は熱血だ。
きちんとルールを守らないと、結局僕らが損をすることに
なるんだぞ。
それをいつもストレートに主張し、ルールをきっちり守ら
せようとする。

僕は、先生の基本方針には異存がない。
全くその通りだと思う。

じゃあ、大高先生の性格は素晴らしいの?
残念だけど、僕にはそうは思えない。

確かに沢渡校長の時みたいに、言うことや行動が状況に
よってふらふら変わるってことはない。姿勢は一貫してる。
それはいいんだけどさ。

大高先生には、最初に僕が予想していたほど余裕がない。
ものすごく短気なんだ。
そういう人は、すぐにジャイアンになる。

僕らが先生に文句言ったって、別にどってことないじゃん。
それで先生の給料が変わったり、クビになったりするわけ
じゃないから。なのに、それが全然分かってない。

沢渡校長は自分から辞めた。僕が辞めさせたんじゃない。
居直ろうとするなら、いくらでもそう出来たんだ。
沢渡校長にも言ったけど、結局僕らは陳情しか出来ないの。
それ以上は何も出来ないの。

それなのに僕らを左右出来る立場の人が気分任せに振舞っ
たら、とばっちりを食うのは僕らだけだよ。
そういう自分の影響力が……大高先生にはちっとも見えて
ない。とても、長の付く人の示す態度じゃないと思う。
言ってることがどんなにまともでもね。

先生の性格でなんだかなあと思うところが、もう一つある。
大高先生の頑固は、ネガな意味での頑固なんだ。

例えば。
僕を一度敵と位置付けたら、絶対にそこから動かさない。
先生と生徒の間には立場的にものすごく落差があるんだっ
てことを、これっぽっちも考えない。

好きなものは好き。嫌いなものは嫌い。
それって……まるっきり沢渡校長と同じなんだよね。
さすがに沢渡校長のような個人攻撃に走ることはないけ
ど、僕と他の生徒の発言を分けて、バイアスをかけて評価
する。

僕の実力を評価してくれるのはいいんだけどさ。
それは全てネガな意味で、なんだ。
いつも、心の底でこのクソ野郎と思ってる感情が丸見え。

大高先生にとって僕はずっと悪者であり、厄介者。
やり取りをいくら積み重ねても、その評価を変えることは
決してないと思う。
対人感情がいつも丸見えになってること……それが、僕ら
には恐くてしょうがない。

熱意があること。何かを変えるエネルギーがあること。
それが、まともな形で使われない。

自分の意を汲んでくれる生徒を持ち上げ、反発する生徒を
徹底的に攻撃する。
それが露骨に分かっちゃうんじゃ論外だよ。
見かけ上は公平性を保ってた沢渡校長の方が、まだマシ
じゃんか。

「ふう……」



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