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三年生編 第85話(8) [小説]

「中高と違って、大学はあくまでも容器。単なる容れ物で
す。私たちが学生さんを選んでいるように見えるかもしれま
せんが、容れ物を選んでいるのは君たち学生さんなんですよ」

「あ、そうかあ」

「アガチスさんは、レベルがうちよりずっと高い。統合の話
も戦略的なもので、単なる経営判断だけで決めたわけじゃな
いでしょう。心配なさらなくてもいいと思いますよ」

奥村さんが丁寧に説明してくれたのを聞いて、しゃらはほっ
としたみたいだ。

「お二人とも、しっかり自分の足元を見ておられる。そうい
う学生さんに、いっぱい来ていただきたいんですけどね」

少し疲れたような顔で、奥村さんがかすかに笑った。
自分の仕事がなくて暇だっていうのが、奥村さんの、そして
来知大の理想なんだろなあ……。

「あ、そうだ」

僕は、来た時に正門のところで受けた印象を奥村さんに伝え
た。

「奥村さん、正門のところに白い花が咲く大柄な花が植えて
ありますよね?」

「そうなんですか?」

そっか。
学内のことで頭がいっぱいで、そこまで気が回らないのかな。

「はい。ジンジャーリリー。とても素敵な花なんですけど、
僕らならたぶん別のところで使います」

「は?」

「僕も彼女も、部活で学校の庭整備をしてるので」

「ほう!」

「白い花は清楚なんですけど、寂しい。インパクトがない。
お客さんを出迎える花としては、大人し過ぎるんじゃないか
なあと」

「わたしもそう思いますー。全部を派手派手にする必要はな
いけど、暖色系の花と組み合わせて使った方が、白が生きる
と思います」

「ふむ。すごいですね。そういうところでも雰囲気を作れ
るってことか……」

「はい。僕は、来知大はすごくしっかりした大学だと思いま
す。だから、その良さをアピールする方法をもっと考えた方
がいいかなあって」

「はっはっは! 私たちの方がいろいろ教わらないとだめだ
ね。貴重な提言として承ります。ありがとうございます」

最後まで僕らに丁寧に接してくれた奥村さんは、僕らに一礼
すると慌ただしく走り去った。


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