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三年生編 第80話(3) [小説]

「たった一年の間に、いろいろ変わっちゃったって……こと
か」

「いや」

健ちゃんが、僕の見方を強く否定した。

「急に変わったんじゃねえさ。前から……いろいろあったん
だ。うちもそうさ」

「……」

「いつきやみおっぺがしんどい思いしてる時に、ここでそ
れぇ出さなかったろ?」

「うん。あ、そうかあ……」

「たまに顔合わす相手に暗い顔見せたくないって、そういう
のもあったんだろ」

「うん……」

はあっと大きな溜息を畳の上に転がして、健ちゃんが忌々し
げに首を振る。

「一番しんどそうだったいつきとみおっぺが、いっちゃんマ
シになったってことか」

思わず苦笑い。

「健ちゃん、それは違うよ」

「え?」

「僕らは、たまたま運が良かっただけさ。僕も実生も、去年
から今年にかけて大嵐だったんだ」

「どういうこと?」

滝乃ちゃんがぐいっと首を突っ込んできた。

「実生のは受験だよ。ゆるゆるのはずのうちの高校。今年は
倍率が三倍以上だったんだ」

「げえええええええええっ!!」

健ちゃんと滝乃ちゃんがのけぞった。

「うっそお! 進学高っていうならともかく……」

「いろいろあってね。市内の高校の統廃合のあおりで、うち
だけが割り食ったんだ」

「よく受かったな」

「実生は、必死に追い込んだからね。それでも結果はアウト
だったの」

「うそお!」

滝乃ちゃんの顔が引きつった。

「でも合格者の三分の一近くが辞退。私立の上位校の滑り止
めでうちを受けてた子が多かったんだ。補欠からの繰上げ合
格で、セーフさ」

「そんなこと、あるんだね」

「最初っから分かってたことじゃないからさ。地獄から天国
だったよな」

「うん。寿命が何センチか縮んだー」

「いつきの方は?」

「三年になって早々に、校長と正面衝突したんだよ。負けた
ら退学さ」

しーん。

「なに……やったん?」

「校長が、僕と生徒会長をピンポイントに潰しにかかったん
だよ」

「そんな、睨まれるようなことをやったんか?」

「やったのは校長さ。試験制度や校則をがっちゃがちゃにい
じったんだ。僕らはそれに文句を言ったんじゃない。校長に
情報提供して、交通整理を手伝ったつもりだった」

「じゃあ……」

「それを逆恨みされたの」

「ひでえ」

「うわ」

「生徒への個人攻撃なんか論外だよ! 時間がなかったけど、
生徒会、部長会、先生たち、全員に根回しして、校長とサシ
でぶつかれる条件を揃えて、がちでやりあったんだ」

「どうなったの?」

滝乃ちゃんが心配そうに確かめる。

「校長は全部ぶん投げて辞職。僕は喧嘩両成敗で三日間の停
学」

「あ、三日で済んだんだ」

「運良くね。もし校長が強権発動してたら、良くて無期停、
下手すりゃ退学だよ」

ごくり。健ちゃんと滝乃ちゃんが唾を飲み込む音がした。

「や……べえ」

ふう……。

「僕も実生も、最初から勝ち目がないと思ったら、負けてた
よ。でも、僕らはこれまでの失敗をどうしても繰り返したく
なかったんだ!」

「うん。そうなの」

実生も大きく頷いた。

「だって、今度のは自分ががんばれば乗り越えられるんだも
ん。言い訳したくなかったの」

「そっかあ……」