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三年生編 第80話(2) [小説]

巴おばさん、リックさんと一緒に、霊園近くのファミレスで
お昼ご飯を食べて、そこで別れた。

「さあ。今度は俺の方だな」

父さんは、憂鬱そうにそう呟いた。

養親を事故で突然失ってから先、僕や実生のことでいろいろ
あったって言っても、父さんにとってはそれは大きな不幸の
うちには入らなかったんだろう。
勘助おじさんの病気が、久しぶりに大きな不幸になってし
まったんだ。

気が重いだろうな……。

会話が弾まないまま電車で移動して、お父さんの養親が眠っ
ている墓地に辿り着いた。

いつもなら人影が濃くてうるさいくらいに賑やかなお墓の周
りは、今年はひっそりしていた。

「ああ、幹ちゃんたちが着いたか。久しぶり」

声を掛けてくれたのは、寿乃おばさんだった。
思わず聞き返してしまう。

「ねえ、おばさん。血圧高くて具合い悪いって聞いてたけど、
大丈夫なの?」

「はっはっは! さすがに無理はしてないよ。年相応だね」

相変わらず豪快だけど、前より年取ったなあって感じがする。

「今年はおばさん一人?」

「いや、滝乃が来てるよ」

「順ちゃんは、大学の合宿?」

「いや、講座が決まってから忙しくなったみたいでね。今年
は出られない、ごめえんて返事が来た」

「そっか……」

「小波は今ちょいとわけありでね」

おばさんが、ひょいと両手を開いて胸の前に差し上げた。

「まあ、若い連中にはいろいろある。そういう年頃さ」

工藤の方の親族も、健ちゃんはいるけどさゆりんの姿はない
し、円香おばちゃんとこの二人の姿も見えない。
僕、実生、健ちゃん、滝乃ちゃんで、四人だけ……か。
話が弾まなそう。

でも勘助おじさんのこともあるから、しょうがないね。

お坊さんが来て法要が始まったけど、今年は略式であっと言
う間に終わった。
きっと、寿乃おばさんの体調に配慮したんだと思う。

そして、いつもなら信高おじちゃんの家に行くはずなのに、
今年はお寺の近くの料理屋さんが集会場だった。

父さん母さんは、さっと信高おじちゃんのところへ行って、
寿乃おばさんを交えて情報交換をしてる。
勘助おじさんの容体や、これからのことを話し合っているん
だろう。

急に人数が減ってしまった子供軍団。いや……もう子供って
いう名前を付けることは無理なのかもしれない。
何から話していいのかって感じだったけど、僕らの会話は健
ちゃんの愚痴から始まった。

「なんかよう。うまく行かねえもんだな……」

「さゆりん?」

「ああ。べっこりへこんでてな。今は何を言ってもだめだ」

滝乃ちゃんが、はあっとでかい溜息をついた。

「健のとこだけじゃないよー。うちもさー」

「え?」

三人でほけた。

「何か……あったん?」

「ありありさー。お姉ちゃんが、大学受かってから家を出た
んだよね」

「菊花ちゃんが?」

「そう。そしたらさー、シスコンだった日和がずぶずぶと」

「あっちゃあ……」

健ちゃんが大仰に頭を抱えた。

「俺んとこと同じかよ」

「来年高校受験なのに、このままじゃそれどこじゃないわ」

「げえー……」

「さっき寿乃おばさんが、小波ちゃんも訳ありみたいなこと
言ってたけど、なんかあったの?」

滝乃ちゃんが、ぶるぶると首を振ってうめいた。

「ついてないよねー。大学に合格して、さあこれからって時
にこっぴどい失恋したみたいでさ」

どっきーん!

「そのショックで、せっかく入った大学を休学してんだよね」

「げー。なんつーか」

「こうさあ、うちらおばあちゃんの血を引いてるから打たれ
強いって思ってたけど、そうでもなかったってことだね」

滝乃ちゃんが、寂しそうに視線をさまよわせた。
健ちゃんが、眉の間にぎゅっとしわを寄せてこぼす。

「いろいろあるよなあ」

「まあねえ」

「そういや、円香おばちゃんとこのわんぱくコンビは?」

「あそこは、子供じゃなくて親が……な」

「え!?」

健ちゃんが口にした情報に、思わず僕と実生とで立ち上がっ
ちゃった。

「離婚協議の真っ最中だってさ」

「……」

もう……何も言えん。


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