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【SS】 彼にとって普通ということ (天交高人(マカ)) (二) [SS]


いっきは……よく気が利くんだよね。
いや、気が利くっていうのとはちょっと違うかもしれない。
心の底を見透かすんだ。

前にバイトの相談をした時もそうだった。
僕の甘ちゃんのところをどやしたのは、父でも母でもない。
まだ付き合いの浅いいっきだった。

親からの自立を宣言しているのに、何も出来ないガキのまま
でいいの?

それは……どこにも逃げ場のないどやし。

同じ甘ちゃんの友達に言われたら、お互い様じゃんて思うけ
ど。家計をサポートするのに本気でバイトしてるいっきのど
やしには、何も反論出来なかった。

そのあと、進路をめぐる父との決裂が決定的になって。
余命のカウントダウンが始まっている母との暮らしが始まっ
て。
僕の甘えには受け皿がなくなった。
その時点で……余裕がどこにもなくなったんだ。

僕がゆいと付き合ってる時間は、僕にとっての唯一のオアシ
ス。ゆいだけでなく、僕はゆいと一緒にいる時間も大切にし
たいと思ってる。

でも……それはあくまでも僕の都合なんだ。
いっきと御園さんみたいに、互いを認め合うプロセスがまだ
全然足りない。恋人同士ではあっても、まだ形だけ。
普通じゃ……ないんだよね。

いっきの乾いた説明が、僕の自信をぐらぐら揺さぶる。

「ゆいちゃんは、最初からみんなにそう言われてるから違和
感ないだろうけどさ。天交くんをタカトって呼んでるのは、
ゆいちゃんだけでしょ?」

「うん」

「それは、ゆいちゃんにとっては特権だよ。僕は侵害出来な
い」

いっきは、僕だけでなくて、ゆいもちゃんと見てる。
そういう底なしの心遣いに、思わず嫉妬を覚えちゃう。

「すごいなー」

「なにが?」

「いや、そういう気遣いがさ」

「副作用だよー」

え?

「なんの?」

「しゃらの焼きもち!」

えええっ!? 思わずぶっこける。
よ、予想外。それは……知らなかったあ!

とってもそんな風に見えないけどなあ……。
分かんないもんだなー。

「な、なるほどねー」

「めんどくせーとは思うけど。配慮せんとさ」

「そっか」

「で、マカじゃだめ?」

「ほ?」

そうか。
名前をゆいに独占させるには、姓の方をイジるしかない。
でも、あまかいって呼びにくいんだよね。イメージ硬いし。
それを、そうやって砕くのかあ。うーん……。

「すごいなー。いっきのそういうセンス、天性のもんだね」

「まあ、友達増やすのに役に立つからね」

いっきが、ぱちんとウインクした。

「うん、それ、いいわ。マカ、かあ。じゃあ、いっきから広
げて」

「任しとき」

ああ……友達に恵まれたなあ。
勉強で勝ち負けを競わされる雰囲気が嫌で進学校じゃないぽ
んいちにしたのに、僕はみんなから煙たがられて友達が出来
なかった。でも……。

僕は本当に運がいい。
ゆいといっき。本当に僕のことを思ってくれる大事な恋人と
友達が出来たこと。

僕はそれを……普通のことだと思っちゃいけないんだろう。

いっきにぽんぽんと肩を叩かれる。

「たぶんさ。来年はマカと僕は同じクラスになる可能性が高
い。理系の生物込みでしょ?」

「あ、そうだね」

「そん時までに、照れなしで言えるように慣らそうや」

「んだね」

うねり出した列に押されるようにして、僕はいっきと別れた。

「じゃねー、またー」

「うん。またねー」

普通でありたい僕がいて、普通でいたくない僕もいる。
どっちかだけが正しいわけじゃなくて、きっとどっちも正し
いんだろう。

和菓子屋さんでクリスマスのお菓子を買う。
それが僕だけだったら、僕は普通じゃないのかもしれない。
でも、これだけ大勢のお客さんがお菓子を買いに来てるんだ
から、僕は普通なのかもしれないね。あはは。

列が進んで、やっと店内に入れた。

「いらっしゃいませー!」

アルバイトの女の子の威勢のいい声に弾かれて、僕はすぐに
ショーケースに目を落とした。

「わ!」

す、すご!
オーナメントが和菓子じゃん!
味の予測がまるっきり付かないって時点で、すでに普通じゃ
ない。

うーん……思わずうなっちゃった。

普通と普通じゃないのと、どっちがいいかって選ばなきゃな
んないなら。

やっぱ普通じゃないのがいいかなー。





ox2.jpg

(オキザリス)




(補足)

マカこと天交高人は、いっきが二年生の時のクラスメート。
ぽんいちでは一度もトップの座を譲ったことがない、ずば抜
けた成績を誇る優等生です。学力が図抜けているだけでなく、

プロ棋士の父親の薫陶もあって将棋の実力もプロレベルで、

将棋部の部長をやってます。

闘志や負けん気を表に出すタイプではありませんが、ものす
ごく気が強いです。根っからの勝負師ですね。でも、負けん
気が外からわからないために従順に見えやすく、息子をプロ

棋士の道に進ませたい父親と進路をめぐって正面衝突してし

まいます。彼自身は、医師志望なんです。

いっきは、マカが家を追い出されたあとのケアを五条さんと

一緒に手伝い、彼にすっかり懐かれてしまいました。いっき

にとっても、天才肌なのにどこか間が抜けてるマカは気の置

けない友達です。

クラスメイトの佐倉唯が恋人。甘党の彼らしく、二人の仲も
ベタ甘です。でも、それにはちゃんとわけがあります。

 


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コメント 2

風来鶏

天交を略してマカとは、いっき君のセンスは天才肌ですね(^_^)v
天(アマ)ちゃんだと、甘ちゃんになっちゃうかなぁ(^^;;
by 風来鶏 (2016-12-23 19:17) 

水円 岳

>風来鶏さん

コメントありがとうございます。(^^)

アイデアマンのいっきですが、さすがにマカが精力剤
だということまでは思い至らなかったようで。いひ。(^m^)

by 水円 岳 (2016-12-24 01:15) 

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