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【SS】 彼にとって普通ということ (天交高人(マカ)) (一) [SS]


普通って、なんだろう?
他の人より優れてても劣ってても普通じゃなくなる?
じゃあ、だあれも普通の人なんかいないと思うんだけど……。

僕は普通じゃないのかなあ。
最近、僕はそれがすごく気になるようになった。

僕は、将棋の世界が好きだ。
ぎりぎりまで自分を研ぎ澄まして、戦略も、ひらめきも、駆
け引きも、はったりも、使えるものはなんでも使って相手を
打ち破る。
引き分けのないひりひりした勝敗の世界。それが好きだ。

勉強もそう。
自分をきちんと鍛えて研ぎ澄ましたことが、ちゃんと点数っ
ていう結果に現れる。
自分自身に課したハードルをきちんとクリア出来るか。
僕にとっては、嘘やごまかしが入らない点数の世界は自分の
評価にぴったりだと思ってる。

でも、点数にはそれしか意味がないんだよね。
僕は、点数の優劣を人と比べることには興味がない。

誰かが僕に、勝負にこだわれって命令してるわけじゃない。
歌が好き。ゲームが好き。友達と遊ぶのが好き。
他の子がそう考える同じレベルで、僕は将棋と勉強が好きな
んだ。

それは……普通じゃないんだろうか?

確かに勝ち負けにはこだわるよ。
でも僕は、なんでもかんでも勝負の世界に引きずり込むつも
りなんかない。そんな窮屈な生き方はしたくない。

自分をぎりぎりまで追い込むのは、将棋と勉強だけでいい。
それ以外は普通だと思ってるんだけど……。

違うのかなあ。

そんなことをぼんやり考えながら、僕はあるお店の入り口か
ら長ーく続いている行列の中に挟まっていた。


           −=*=−


クリスマスが近くなると、気分がうきうきしてくる。
だって、僕は甘いものが大好きなんだ。

どこの洋菓子屋さんでも、クリスマス用の気合いの入ったお
菓子を売り出すようになる。
それを食べ比べるのが、すごく楽しみなんだよね。
だから、市内の有名どころのお店は全部覚えてる。

中でも、口コミで評判を聞きつけたタルボットは別格。
あそこのケーキは衝撃だったなあ……。
単においしいってことだけじゃない。どの種類のケーキやお
菓子を買っても当たり外れがなかったんだ。
どれ一つ、妥協してないっていうかさ。

しばらく、どっぷりはまったんだよね。
でも、その後でもっとでかい衝撃が来るとは思わなかった。

そう。
寿庵を知ってしまったから。

二年生になってすぐ。
工藤くんからその店の名前を聞いても、最初はぴんとこな
かったんだ。
正直バカにしてたんだよね。和菓子なんて古臭いって。

いやいやいやいや、とんでもない。
寿庵のお菓子には、僕のお菓子に対する固定概念を木っ端微
塵にする破壊力があった。

それは、何にでも触手を伸ばして取り込んでいくアメーバの
よう。和菓子はこういうものだっていう決めつけを、徹底的
に拒否していた。
しかも、奇をてらったげてものなんかじゃない。
どれもすっごくおいしいんだ。

そりゃあ、おじいちゃんおばあちゃんみたいな年配の人から
見たら、あそこの新作お菓子は邪道なのかもしれない。
でも、工藤くんや御園さんがすっごいほめてたみたいに、僕
らみたいなガクセイにはすっごい引きなんだ。
手頃な値段でおいしいお菓子が食べられて、しかも他の店に
同じものがない。

ねえ、寿庵の新作、もう食べた? すごいよ!
そんな風に、友達にがっつり自慢できる。

おしゃれだとか、今風とか、斬新とか、そういう何かを狙っ
てお店を尖らせるんじゃなく。
作りたいお菓子を研ぎ澄ましたらこうなったみたいな、肩の
力が抜けた、でも完成度の高いお菓子。
そういう意味じゃ、寿庵は普通じゃない和菓子屋さんだ。

僕は寿庵を知ったことで、『普通』ってことの意味を深く考
えるようになった。

普通ってこと。
本当は、そんなのどこにもないんじゃないのかなって。


           −=*=−


「お、天交くん。仕入れ?」

げ。工藤くんやん。見られたくなかったなあ……。
でも、工藤くんは寿庵で買ったお菓子の袋を持ってる。
それなら同類だよね。まあ……いっか。

「わ、見つかったかー」

「僕も並んで買ったんだけど、オトコにはちと恥ずいわー」

「あはは。でも、どうしても買いたくてさー」

「うん。相変わらずすごいなーと思う」

おおお! それは期待大!

「工藤くんは、もう食べてみたの?」

「まだー。ってか工藤くんじゃなくて、いっきでいいよ」

そうなんだよね。
僕は普通だと思ってるんだけど、僕のクラスメートにとって
は、僕は近寄りにくいキャラなんだろう。
自分がそう見られてると思うと、僕も友達をあだ名で呼びに
くい。だから……どうしても距離が縮まらない。

工藤くんがブロークンで行こうって言ってくれたのは、本当
に嬉しかった。

「なかなか、ニックネームで呼ぶタイミングが掴めないもん
だね」

「んだ。僕も、同じクラスの中で、愛称で呼んでるのは半分
くらいだもん」

「そっか……」

友達の多い工藤くん……おっとっと、いっきでもそうなの
かー。僕は、正直ほっとする。

「じゃあ、お互いさまってことで、僕のことはタカト……と」

すかさず、いっきからダメ出しを食らってしまった。

「却下」

「ええー?」

今、愛称で呼べって言ったじゃん!

「どしてさ」

「ゆいちゃんにどやされるもん」

「あ……」

こういうところ。
僕には……すっごい自己中のところがある。
自分の中の一点に意識が落ちると、他に何も見えなくなる。

 


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コメント 4

mitu

普通って何なんでしょうね
うちの家族は、ちょっと変わった(変人)普通人かなぁ
普通でも普通じゃなくても・・・人間は人間、スズメはスズメ、わたしはわたし^^
by mitu (2016-12-21 09:30) 

水円 岳

>mituさん

コメントありがとうございます。(^^)

普通ってのは絶対値じゃなく、あくまでも相対値。
しかも、誰もそれが何かを決められません。
ものすごーく、いい加減なものです。(^m^)

二つのSSにはいっぱい『普通』の言葉が出てきます
が、それが何を意味するか、比べてみてください。(^^)

あ、わたしは普通じゃないです。不通でもありませんが。(^m^)

by 水円 岳 (2016-12-22 00:28) 

風来鶏

普通って難しいですよね(^^;;
まあ、変態も何を以って変態と呼ぶのか?
それは趣味趣向の問題だから、そう言う人もいるって考えれば、その人にとってそれは普通なんだし…(ーー;)
by 風来鶏 (2016-12-23 19:08) 

水円 岳

>風来鶏さん

コメントありがとうございます。(^^)

普通も変態も相対値なんですよね。基準て言うものがない。
外部評価と自己評価がまるっきり一致しないことなんか、
ざらです。(^^;;

まあ、そういうあやふやなものなんだということを、
少なくとも自分自身には言い聞かせておかないとあかん
かなあと。(^^)

by 水円 岳 (2016-12-24 00:45) 

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