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三年生編 第102話(1) [小説]

9月23日(水曜日)

長い連休だったけど、受験生にはあんまり関係がない。
勉強する場所が学校になるか自宅かの違いだけで、するこ
とに大きな違いがあるわけじゃないから。

県立大のオープンキャンパスにしゃらと行った以外は特に
何をするでもなく、連休中はひたすら部屋にこもって勉強
に集中した。

オープンキャンパスでは、学内の雰囲気がつかめただけで
なくて、大学の応募要項の変更があるかとか、最近のトレ
ンドはどうなのかとか、大学の今の様子を教えてもらえた
から、本当に有意義だった。
ほむぺの情報だけじゃ分からない部分がいっぱいあったの
は事実だ。
実際に行って確かめることが、すごく大事なんだよな。

「ふうっ」

そう。そこが、関口と僕の違いなんだよね。
みんなはあの分厚いお手製資料集を見て仰天してたけど、
それだけじゃない。
あいつは、自分の進学先になりうるところを全部自力で
回って確かめてるんだ。
使い方を間違えるとやっかいな粘着力を、とんでもなくプ
ラスに活かしてる。

僕は、そこんとこがなあ。
エンジンが回ると爆走するけど、そこまで時間がかかる上
に妙に諦めが早いというか、悟っちゃうというか……。

まあ、いいや。
これで、受験に向けての地盤固めが出来たって考えよう。

机の上にこれから本番までのスケジュールと模試の予定表
を置いて、もう一度確認する。

学校の大きなイベントは、学園祭で最後。
そこから先、三年は一気に受験モードになる。
三年は一足早く十一月末に期末試験があって、その後の授
業はほとんど受験対策に切り替わる。

進学校は、マカがやってたみたいに二年のうちに三年の分
を終わらせちゃって、三年はびっしり志望校対策になるみ
たいだから、うちはまだまだのんびりっていうことなんだ
ろう。

どっちにしても、受験以外の話はどこからも聞こえて来な
くなるよね。

窓から会長の家の庭を見下ろす。
受験モードに入るのは、あっきーも同じだ。
あっきーが推薦枠やAOを狙うのか、一般入試なのか、そ
こらへんは分からないけど、会長はあっきーの受験態勢に
ちゃんと配慮してくれるだろう。でも……。

あっきーは、会長の家から通える大学を選ばない気がする。

師範があっきーに書き遺したこと。
ちゃんと自力で立て! おまえはもう自分の足で立てるは
ずだ!

それは、なんぼなんでも無慈悲で厳しいなと思ったけど。
あっきーの倒れ込み癖を見ちゃうとね……。

でも、あれからもう二年経ってる。
その間に、あっきーが何かに倒れ込んだ?
いや、あっきーは強くなった。

違うな。強さはそのままで、安定したんだ。

師範の病気が分かって、自分の未来がどう転ぶか全く見通
せなかった一年の時。あっきーは空回りしてた。
あの莫大なエネルギーの出口が、どこにもなかったんだ。

僕は、それが怖くて怖くて仕方なかった。
きちんと制御できない力は、それがどこに向いても自分と
相手を壊してしまうから。

でも会長の家に来てから、あっきーはそれを上手に出し入
れすることを覚えた。
オトナになるっていうのとはちょっと違うと思う。
落ち着いたんだよね。



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