SSブログ

三年生編 第96話(6) [小説]

「そっかあ。少しは改善傾向にあるってことなのかな」

「いやあ」

りんが、顔をしかめた。

「全然だよー。本当ならまだまだ外には出したくないっ
て、伯母さんも妹尾さんもそう言ってる。わたしもそう思
うよー。でも、早めに慣らしを入れてかないと、先々総崩
れになりかねないからさー」

「どゆこと?」

「いくつかあってね」

りんが、心配そうに弓削さんを見遣った。

「まず、来年わたしと妹尾さんが離脱する。わたしは東京
で下宿。妹尾さんは本社復帰」

「うん」

「それまでの間に、最初のメンバー以外のケアスタッフに
慣らさないとさ」

「あ、そっか。それなら、ケアの場所が伯母さんの家だけ
じゃなくなるかもってことか」

「うん。もう一つは、みわちゃんさ」

「だろうな」

「さほちんはみわちゃんにものすごく強い執着がある。そ
の距離を強制的に離しておかないと、さほちんが身動き出
来ないんだよ」

「そうか。将来の仕事とか」

「いや、それ以前に」

りんが、ぎゅっと唇を噛んだ。

「さほちんが母親にされたことを、今度は自分がみわちゃ
んにすることになるの。偏った愛情による強烈な束縛。奴
隷化」

ぐ……わ。
僕が絶句していた間に、りんが忌々しげに首をぶんぶん
振った。

「甘くないわ。これからが正念場だー」

「うーん」

「とゆことで」

「バイト?」

「そ。今日はレジじゃなくて、商品庫の方でプライスタグ
付けるの。仕事は単純作業だし、あたしとばんこも一緒に
やるから、仕事っていうより遊びの延長」

「そっか。それなら、弓削さんでもこなせるってことか」

「まあね。そっちはどうでもいいんだ。それより……」

「うん」

「これまで巴さんの家の中だけにいて、外との繋がりが
ぷっつり切れてたでしょ? 外出た時に、どういうフラッ
シュバックがあるか分かんない。はあ」

「伯母さんは?」

「ついてこないよ。妹尾さんが、陰でサポートしてくれる
ことになってんの」

「三人態勢か」

「そ。まあ、やってみて、だね。リアクションが悪かった
ら、慣らしは延期」

「うまく行くといいけどなあ」

「期待はしてない。焦ってこれまでの苦労を全部ぶっ飛ば
しちゃったら、しゃれにならんもん」

「だよな」

「そゆことで。行ってくらあ」

「おきばりやす」

「何県人じゃ。ぼけえ」

にいっと笑ったりんは、伯母さんちに駆け戻った。
ばんこと一緒に、弓削さんの両脇を固めるようにして待機
してる。
きっと、伯母さんが車を出してくれるんだろう。


nice!(68)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 68

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。