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三年生編 第96話(5) [小説]

会長が、伯母さんちの玄関先できょろきょろ辺りを見回し
てる弓削さんをじーっと凝視してる。それから……。

「ねえ、いつきくん。あの子は?」

「……」

どうしたものか。
僕やしゃらと同じで、もし会長が弓削さんの事情を聞いた
ところで、何も出来ないと思う。
それじゃ……興味本位になっちゃうんだよね。

でも、会長もいろいろ事情を抱えてる。
無傷の人ではないんだ。それなら、弓削さん本人に対して
ではなく、伯母さんに対して何か知恵を授けてくれるかも
しれない。

会長は厳しい。
でも、その厳しさは伯母さんの厳しさとは違う。

伯母さんの厳しさは、王様としての厳しさ。
でも、会長の厳しさは谷底から這い上がったものの厳しさ。
性質も使われ方も異質なんだ。

抱きかかえる役は恩納先輩がやってる。ナース役は他にも
見つかるだろう。でも、弓削さんと同じ立場で『ガイド』
できる人がいない。
弓削さんが、ガイド役を王様の位置に置いちゃうから。

伯母さんとは違った視点で、そこに知恵を出してくれる人
がもう一人くらいいてもいいかもしれない。そうしたら、
伯母さんの心理的負担を軽く出来る。

問題は、伯母さんと会長との相性だ。
こればかりは……ね。

徹底してとぼけることは出来るけど、りんがまるっきり弓
削さんを隠すアクションをしてないのは、先々どこかでご
近所デビューさせるってことなんだろう。

まあ……そこは後で伯母さんに確かめよう。
ここでは問題をオープンにするしかない。

「彼女は、弓削佐保さんていう女の子で」

「うん」

「孤児で、もう子持ちなんです」

「!!」

会長が絶句する。

「ちょっと込み入った事情があって、伯母が後見してるん
ですよ」

「そんな崩れた子には……見えないけど」

「いい子ですよ。外見は」

「中身は違うの?」

「中身が……白紙なんです」

「はあ!?」

会長には想像が付かないんだろう。目を見開き、口をぱ
かっと開けたまま、じっと弓削さんを見てる。

「人格を……壊されてるんですよ。死んだ母親と、その後
のろくでなしの男たちに」

「……もしかして」

「弓削さんは、自我がほとんどすり減ってなくなってま
す。命令されないと動かない」

「育児も?」

「そうっすー」

会長にぽんと歩み寄ったりんが、全力で苦笑いした。

「いやあ、最初はすごかったっすよー。人間型ロボットっ
てのは、こういうもんなのかーと思ったもん」

「あの伯母さんが、とことん手こずってたもんなあ」

「んだ。でも、いっきが魔法のコトバを教えたんでしょ?」

「わははっ! まあそれほどのこっちゃないと思うんだけ
ど」

「いや、巴さんも、その絶大な効果に、わあお状態」

「まあねー。だって伯母さんて、何気に態度でかいんだも
ん」

「思い切り態度のでかいいっきにゃ言われたない」

ぎゃははははっ!


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