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三年生編 第91話(8) [小説]

「新学期始まっちゃったから、どっちにしてもリスタートの
タイミングは遅れる。そこをどう考えるか、だよなあ」

「どういう意味だ?」

「中途半端に復学してネガな気持ちを引きずるより、いっそ
留年して最初からやり直した方がいいケースもあるかなあっ
て。僕の知り合いを見回した感じでは」

「ほう。どういう子がいるんだ?」

「しゃらの中学の同級生は、高校入ってすぐに親との縁が切
れちゃった」

「!!」

父さんがのけぞって驚いてる。

「そんなこと……ありうるのか」

「いろいろあってね。結局入った高校からこぼれちゃって、
一年留年さ」

「その子は、今はどうしてるんだ?」

「働きながら、同じ高校に復学したよ。ワーキング高校生」

「定時制や通信制でなしに、か」

「そ。ちゃんと普通科の高校に通ってる」

「なるほど。それはすごいな」

「後見してる人がしっかりしてるからね」

「うーん」

「僕の先輩にもそういう人がいたし、基本やりたいことが決
まってる人はリスタートの後ふらつかないんだ」

「そこだよな」

「うん。僕もそこが鍵かなあと思うんだよね。だから、すっ
ぱり留年するんなら、復学するまでの間は外に出ないとダメ
だと思う」

「働けってことか?」

「そう」

「……」

「さゆりちゃんがそれ無理って思うなら、出来るだけ早く復
学して、留年回避に全力を注ぐしかないよ」

「ああ」

「僕が中学の時に必死に受験勉強がんばったのは、特別視さ
れたくなかったから。あいつは弱っちい。何も出来ない役立
たず。そういう見方をされちゃうのが、どうしてもいやだっ
たから」

「……」

「みんなと同じラインからスタート出来たから、ぽんいちに
入る時も入ってからも変なコンプレクスを感じなくて済んだ
かなーと思う。だから、早く立ち直れたんだよね」

「そうだよな。さゆりちゃんにもそう考えて欲しいんだが」

「たださ」

「ああ」

「さゆりちゃんの家族にすら出せない結論は、僕らが後押し
しても出せないよ。僕は、むしろプロに任せた方がいいかな
と思う」

「カウンセラーとか、か?」

「そう。僕らの知らない人だとちょっとアレだけど、実生へ
のつきまとい事件の時に動いてくれた森本先生とか、今伯母
さんちで弓削さんのケアで動いてる妹尾さんとか、頼れる人
がいるからね」

父さんが、ほっとした顔をした。

「確かにな。いつきの方で連絡を取ってくれるか?」

「いいよ。まず森本先生に打診する。直で話せば、さゆりちゃ
んも何かアドバイスをもらえるでしょ」

「助かる」



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