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三年生編 第90話(2) [小説]

さて。一休みしてから気合いを入れ直そう。
閉じたノートの上にシャーペンをぽんと放って席をたち、窓際
に立って会長の家の庭を見下ろした。

「ん? あれ?」

いつもはほとんど人の出入りのない、閑静な庭。
そこにいくつも動き回る人影が見える。

「ほよ? なんかあったんかな?」

気になって、慌てて階段を駆け降りた。

「どしたん? お兄ちゃん?」

どこか出かけるつもりだったのか、何かばたばた準備していた
風の実生に、確かめられる。

ああ、そうか。母さんはトレマのパートだ。
父さんは、今日健ちゃんちに行ってる。
家にいるのは僕と実生だけか。

「いや、会長んちが慌ただしいみたいで」

「あのねー、お兄ちゃん!」

突然ぎっちり怒り顔になった実生に、全力で突っ込まれた。

「会長は来月四日が予定日なの!」

ぎょわあああっ!!
や、やば……。

弓削さんのことやらさゆりちゃんのことやら、そっちで頭の中
がいっぱいになって、会長の出産のことがすっぽり抜け落ちて
た。

ざあっと血の気が引いた。

「なんか……あったんだろうか?」

「違うよ! 破水したの」

「!!」

「亜希お姉ちゃんが進くんを見てないとならないから、会長の
ご主人と一緒にわたしが病院に行く」

「す、すまん」

「どっちにしても、ご主人以外のオトコは病院に出入り出来な
いよ」

ふう……そうだ。

「助かる」

「わたしも付き添いは出来ないよ。持ってく荷物に足りないも
のとかあったら、それを持ってくるみたいな役目」

「なるほど。前はあっきーがやったけど、今回は進くんの面倒
見ないとならないから」

「そ」

「でも、あっきー、明日から学校あるのに、どうするんだろ?」

「お義母さんが来てるみたいよ?」

あ!

「そうか! 津川さんが来てるんだ」

「そうじゃないと無理だよー。だいぶ前からきっちり打ち合わ
せてたみたい」

「なるほどなー」

「ってことで、わたしすぐ出るから」

「わあた。安産をお祈りしますって言っといて」

「うん!」

会長の出産予定がすっぽり頭から抜け落ちてた僕に、きっつい
視線をぶん投げながら。
実生が、さっと家を出て行った。

「ぐぶー」


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