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三年生編 第90話(1) [小説]

8月30日(日曜日)

「八月も、今日と明日で終わりかあ」

ものすごく高密度だった八月が、もうすぐ終わる。

新学期は始まってるけど、僕の頭の中に色々あり過ぎた夏休み
の影響がべったりこびりついてて、気持ちがなかなかすぱっと
切り替わらない。

新学期が始まっても、夏休みの余熱で進んでいるような惰性感
があって、時間をかけて勉強している割にはあまり身に付かな
かった。
でも、そろそろギアを上げて行きたい。

僕的には、戦う条件はきっちり整ったと思う。
志望校とそこでやりたいことを固めて、受験本番に向けて自分
を研いで行く作戦を立てた。
進路指導の先生からもゴーサインが出た。

早くからすぱっと方針を決めて動き出した子に比べて、なんと
なく未消化のまま動き出しちゃった感じが残ってるけど。
だからって、ずっとぐだぐだ考えてもしょうがない。

何をどんな風に決めても、必ずそれに対する後悔や反省はある
んだろう。
ベターはあっても、ベストってのは最初からないんだ。
そう……割り切りたい。

机の上に模試の予定表を置いて、今後受ける予定のやつをマー
カーでチェックする。

「これまでと同じじゃまずいんだよなー」

これからの模試は、今までとはカラーが変わってくる。
模試を通じて自分の弱点を抽出し、それを出来るだけ早く改善
しなさいっていうのが、これまで。
でも、これからのは筋トレに近い。

どこ間違ったかを今さらちんたらチェックしてるようじゃ、い
つまで経っても基礎トレの域から出られない。
これまでより強い負荷をかけて、試験そのものに自分の頭と
ハートを慣らす。

理解より習熟が目的になる。

学校の授業にも、くそまじめに付いて行く必要はない。
終わらせられるものは自分で早く終わらせといて、必要な部分
だけを繰り返し叩き込まないと、無駄ばかりになる。
これまで以上に時間の効率利用が求められるんだ。

時間割を見ているうちに、思わず舌打ちしちゃった。

「ちっ!」

そうなんだよね。
自分ではきちんと計画的にやってきたつもりでも、ものすごく
甘く見ていた部分があったんだ。

それは……学校側でセットしてるカリキュラムの解釈。
僕はこれまでの学年と同じだと思い込んでて、きちんと確認し
てなかったんだ。
でも、三年のカリキュラムは一、二年と全然違うんだよね。

三年の二学期には、中間がない。
11月にある学期末の試験が、ラストの定期試験なんだ。
そして一般受験組にとって、その成績には意味がない。
定期試験の結果で一喜一憂してるようじゃ、一般受験のハード
スケジュールを乗り切れないから。

一般受験組は赤さえ取らなければいい。
学校側も、基準を大幅に割り込まない限りは結果を大目に見る
と思う。
一、二年に課している赤点組への追試は、二学期の三年生には
意味がないからやらないんだ。

全ては、受験本番で僕らが最高のパフォーマンスを発揮出来る
態勢へと絞り込まれて行く。

「く……」

僕はせっかちでも堅実でもない。
本来は、あっちこっち抜けてるのんびり屋だ。
自分を追い込み過ぎて壊したくないっていう思いがどっかこっ
かにあって、自分のゆるみをあえて許容してきたところがある。

ものすごく怠けてたつもりはないけどさ。
でも、手を抜いたら全部ぱーになるっていう危機感が薄かった
んだ。

だけど。
人生には、どうしても切り抜けなければならない極度の緊張を
強いられる時が、何回かはあるんだろう。

コンディションを決戦の時にマックスに持ってくなら、これま
で以上のペースで自分をどやしつけていかないと……。
最後に大ドジをこきそうな気がする。

「ふうっ!」

金魚の木みたいに頬をぷうっと膨らませて、自分の甘さをがっ
つりどやしつけた。





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