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三年生編 第78話(4) [小説]

リビングで三人で爆笑していたら、実生が眠そうに降りてき
た。

「うるさいー」

「ああ、ごめん。起こしちゃったか」

「いや、いいけどー。今日は中庭当番だし」

「朝行かないと、どんどん暑くなるもんな」

「うん」

「みんな、まじめに来てる?」

「来てるみたいだよー。四方先輩からお小言は飛んできてな
いー」

「だはは! お小言かー」

「なんだかんだで、マイアー先輩が毎日来て、厳しくチェッ
クしてるし」

ひりひりひり……あいつならやるな。
庭にかける愛情がはんぱないから。

「お兄ちゃんは、合宿どうだったの?」

「修行だよー。エアコンなんかないし、蚊はひどいし、娯楽
一切禁止だし」

「げえー」

「でも、勉強のために行ってるんだからそんなもんでしょ」

「そこって、お兄ちゃんだけ?」

「いや、同じクラスの立水ってやつも一緒。あいつは四週の
コースだから、夏休みいっぱいだな」

「そっかあ」

「そのお寺の住職さんはもうお年で、来年からは合宿引き受
けないって言ってたから、僕らで最後ってことだね」

「そうか。そりゃあ、寂しいなあ」

「すごいおじいさんだったから、引退しても退屈はしないん
でしょ」

「へー、すごいの?」

「とっ初めにがっつりどやされて、最後に気合い入れられ
て。今時珍しい、どこまでも直球系の人だったわ」

「でも、いっちゃんには合いそうじゃない」

「うん。僕が好きなタイプ。裏表がまるっきりなくて、言っ
てることにびしっと芯が通ってる。絶対にぶらさない」

「ねえ、お兄ちゃん。その人って、お兄ちゃんのどこをどや
したの?」

興味津々で、実生が突っ込んでくる。

「痛かったよー。自分のことくらい自分で決めろってさ」

実生がぐっと詰まった。
僕と同じで、実生もできてないもんな。

「周りを見て自分の生き方を修正するのはいいと思うんだけ
ど、それと人に振り回されることは違うんだ。味噌も糞も一
緒にするな! って、がっつり」

「うわ……」

びびってる、びびってる。いひひ。

「でもね、だからこうしろああしろって言わないの。あとは
自分で考えろ、なの」

「ああ、それでなのね」

「うん。一意貫徹。そういうの、憧れる」

「おまえに出来るのか?」

「そう簡単には出来ないよー。でも、目標にはなるかなーと
思ってさ」

「なるほどな」

四人で話してる間に、外が明るくなってきた。

「ふう……今日は日中眠くなりそうだな」

「気をつけてね、父さん」

「ははは。おまえは今日はどうするんだ?」

「家で自習。しゃらが来るだろうから、残りの勉強プランは
しゃらと立てる」

「そうだな。進路以外にも考えないとならんことが、いっぱ
いある……か」

「受験生の夏なんか、かったるいなあと思ってたけどさ」

「うん?」

「かったるいと思ってる暇もないわ。時間の流れが本当に早
いね。怖いくらい」

「そこも、俺と同じだな」

「いや、僕は父さんよりずっと恵まれてるよ。それは活かさ
ないと損だと思う」

「ははは。まあ、がんばってくれ」

「うっす」




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