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二年生編 第79話(3) [小説]

体験の話を中村さんに振った時には、中村さんはびっくりし
てたけど、快く引き受けてくれた。
営業日に時間を取ってしまって申し訳ないなあと思うけど、
僕らもすっごい興味あるし。

今日はあっきーが沈没してて休み。
みのんもパスだ。
しゃらと僕と実生とジェニーが体験者。
それに……。

一色さんに声を掛けた。
去年の学祭の時も、一色さんのお菓子や料理へのこだわりは
半端じゃなかったし、次にこういう機会がいつあるか分から
ないからね。

クラスは割れちゃったけど、プロジェクトのメンバーだから
こういう時には話を振りやすい。
メールで打診したら、予想通りものすごい勢いで食いついて
きた。

一色さん、寿庵の入り口にぴょんぴょん飛び跳ねながら登場。

「あ、工藤くん、ありあとー。すっごい嬉しい!」

「なかなかこんな機会ないからさ」

「うん!」

でも、しゃらは思いっくそ膨れてる。
なんで女の子に声掛けるかなーって感じ。
いつものパターンだ。

ジェニーいるんだから、オトナの対応頼むよー。

で。

「おい、まっしー。なんでおまいがいる?」

「ん? そりゃあ、おまえがどじったからだよ」

え?

「一色にメール流す時に、同報外さんかったろ?」

ぐげ……。
慌てて携帯を出して確認。

「ぎゃおーっ!」

ぜ、全員に流しちまった……。

「けけけ。ばかたれが」

まっしーがほくそ笑む。
そりゃあ……しゃらが膨れるはずだよ。
とほほ。僕としたことが。大失敗。とほほほほ。

「一色宛てのメールやし、普通はスルーするんだろうけどさ。
俺は見逃さないぜ」

うー、しくったー。

「でも、まっしーがこういうのに興味あるとは知らんかった
なー」

「いや、店継ぐならいろんなこと見とかんとよ」

あ……。
そうかー。
まっしーも、ちゃんと考えてるんだ。

「でー、御園と妹さんは分かるんだけど、彼女は誰?」

ジェニーを指差すまっしー。

「僕のいとこ」

ずどーん……。
タックル食らったみたいに、ど派手にまっしーがぶっこけた。

「なんじゃとてー?!」

「うそじゃないよん。母の姉の娘さんなの」

「おまいんちは、いったいどうなっとるんじゃ」

「さあねえ……。僕にもよー分からんのだ。あ、ジェニーね。
学年は僕らと同じ。アメリカはカリフォルニア産」

「ええとー。なんつーんだっけ」

「あいさつ?」

「そう」

「おいおい、中学校でもやるぞ、そんなん」

と、まっしーに突っ込みを入れてたら、ジェニーの方から日
本語で挨拶があった。
びっくりする。

「ジェニー……デスゥ。ヨロ……シク」

実生が教えたのか、本で覚えたのか、はたまた会長が尻を叩
いたのか、それは分かんないけど。
初めてジェニーが日本語にトライした感じだ。

物怖じしない一色さんが手を伸ばす。
握手ー。

「ええとー。Nice to meet you! My name is Aya Issiki」

手慣れてるなあ……。

「ねえ、一色さん、英会話かなんか習ってるの?」

「いやあ。でも、レシピ聞きに行くのに、英語くらいある程
度は出来ないとどうにもなんないから」

「え? じゃあ、もしかして英語以外も?」

「フレンチやイタリアンのお店にもちょこちょこ行くから、
フランス語やイタリア語も挨拶くらいならできるよー。会話
は無理だけど」

うわ……。
一同絶句。
ほんとに徹底してるわ。

一色さんのを聞いてたまっしーが、ちゃっかり挨拶する。

「ないす とぅ みーちゅー。まい ねいむ いず たかし
そうま」

僕がフォロー。

「ひー いず まい くらすめーと」

ジェニーがにっこり。
だいぶ慣れて来た感じだ。
最初のおずおず感が、だいぶなくなってきた。

「おけー! ひあ うぃー ごー」


           −=*=−


「ごめんくださーい」

全員で店に入る。

「いらっしゃい。お待ちしてました」

中村さんが、ぴしっと作業衣でキメて奥から出て来た。
同じウエアで長岡さんも出て来る。

「お仕事中、済みません」

「いやいや。私らも、作ってるとこ見てもらえるのは嬉しい
からね。口に入れてしまえばなくなるものでも、それがどう
やって出来てるか見てもらえば、ちょっとは味が変わるだろ
う?」

うん。
確かにそうだ。

中村さんが、ジェニーを見る。
それから……。

「私は中村信太郎です。見ての通りの年寄りでね。とても英
語じゃあ説明できない。それは工藤さんたちに任せます。あ
まり固く考えんで、こんな菓子もあるんだってことを覚えて
てくれりゃあいい」

そう言って、笑った。

それを、みんなであーでもないこーでもないと通訳する。

体験に入る前に、まず味見。
そう言った中村さんが、いろんなお菓子の試食を持って来て
くれた。

定番の酒まんじゅう。落雁。桃山。琥珀。そして……。

「うわあ!」

僕としゃらが飛び上がる。

「去年のヒット作、勢揃いですね!」

そう、あのアイス、葛桜、モンブランが揃った。 

アイスを口にした一色さんの顔色が変わる。

「こ、これって……」

「信じられない味でしょ?」

「うわ……」


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