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三年生編 第104話(2) [小説]

夕方。
予備校の試験会場を出た僕はよれよれになっていた。
どよーん。だめ。今回は完全にアウト、だ。

「両方とも、半分取れてりゃいい方だなあ」

がっくり来る。
問題の難しさがはんぱじゃない。
外山先輩がどんどん沈没しちゃったのは、こういうところ
からなんだろなあ。

最初にそこそこ出来てた自分のイメージがあって、そこに
上積みしようとして努力してるつもりだ。
でも本当にがっつりやる人たちは、その努力が僕らのはる
か上を行ってるんだろう。
ちゃんと本番にピークを合わせる形で地力を上げてくる。
だから、模試の問題がどんどん難しくなるんだ。
効率と根性が全然違うんだろな。

もちろん落ち込んでる暇なんか一分一秒もないわけで、す
ぐに傾向と対策を発動しないとならないんだけど。

「燃料切れでエンストー」

ぷすんぷすん。

がっくり肩を落として帰宅したら、庭仕事用の格好をした
会長がせわしなく動き回ってた。
そっか。妊娠期間中は、庭をあっきーに任せっきりだった
もんな。

「あら、いつきくん。こんにちは」

「こんちですー」

「元気ないけど?」

「模試、撃沈して。べっこりへこんでます」

「まあ、模試はしょせん模試よ」

会長に、あっさりスルーされてしまった。

「草むしりですか?」

「そう。亜希ちゃんはしっかり手入れしてくれてたんだけ
ど、それでも厄介なのが出てきちゃうんだよね」

眉間にくっきりしわをよせた会長が、植え込みの間から
にょろっと生えていた蔓みたいのをぶちっとむしった。

「それは、なんすか?」

「ヤブガラシ」

「ああ! それは面倒くさいですよね。中庭でも時々出て
きて、後輩が目の敵にしてます」

「そうなのよねえ」

忌々しそうにむしった蔓をにらんだ会長が、ぶつくさ文句
を言った。

「うっかりはびこられたら、ひどい目にあうの。枯らすの
が藪ならともかく、植栽やられたらしゃれにならないわ。
そうそう植え替えできないんだから」

「どっから生えてくるんですかねー」

「たぶん鳥ね」

「あ、そうか」

「ブドウ科だから、鳥に実を食べさせて、その糞に種を潜
ませる。ヤブガラシだけじゃないわ。ノブドウ、ヒヨドリ
ジョウゴ、ヘクソカズラ、サネカズラ……みんなそうね」

「小鳥はかわいいんですけどね」

「そう。庭に来てくれるのは嬉しいんだけど、いろいろ持
ち込むのはちょっと……ね」

会長は、僕が今いちダルだったのが気になったんだろう。

「明日、授賞式なんでしょ?」

「はい。楽しみにしてます」

「その割には楽しそうじゃないけど」

ちぇー。会長にはすぐ見透かされちゃうよなあ。

「いや、後輩たちがいっぱいがんばってくれて。その成果
が実ったんだから、うれしいですよ。でも……」

「ああ、いつきくんが関わり切らなかったってことね?」


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