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三年生編 第103話(7) [小説]

もう一度話を整理しよう。

「今の校則策定に現生徒会が関わった以上、藪蛇になるか
ら生徒会は動けない」

「そうっすね」

「でも風紀委員会には何も決定権がなくて、しかも委員は
クラスから機械的に選ばれてる」

二人がじっと考え込む。その考える時間を確保する。

「そうか。俺らは生徒として、ナマの発言が出来るってこ
とか」

「そうなの。モデルケースなんてぼかす意味はないよ。今
の校則、ここがおかしい。ここを改訂する必要がある。そ
ういう声を議論で残せばいい。生徒のナマの声を聞かせて
くれ。校長も、一番最初にそう言ってたでしょ?」

河西さんが、慌てて議事録をめくった。

「あっ……」

「校長は、ちゃあんと先まで読んでネタを振ってます。そ
れを活かさないとさ」

「そっかあ」

「で、それとさっきの斉藤先生のどやしを重ねて見ると?」

声を出せ。主張しろ。それは委員会で出来る。
でも、それだけじゃだめなんだよ。
そのことに、河西さんが気付いた。

「じゃあ、どうすればのところ、かあ」

「んだ。当たり!」

今までは喜んでいた河西さんが、今度は黙り込んだ。

「委員会は、試案を作るだけで精一杯さ。でも、委員会は
議事録を残せる。それは一般生徒の声として誰でも閲覧で
きるし、クラスにも持ち帰れる。そこで揉んで、みんなの
批判や要望の声が大きくなれば、今度はそれを生徒会に持
ち込めるでしょ?」

「なるほどなあ……」

「風紀委員会っていう生臭いものは出来ちゃった。そうし
たら、僕らの出来る対応は、形骸化させるか、別の形で使
うか、さ」

「形骸化じゃだめなんですかー?」

「空っぽの入れ物は、どう使われるか分かんないよ。さっ
き言ったでしょ?」

「あ……そっかあ」

「校則を個人個人勝手に解釈してはみ出せば、結局違反と
して処分されちゃう。でも、委員会の議論には義務や罰則
はないの。それを、ちゃんと活かしたらいいんちゃうかな
あと思う」

ふうっ。

大きく一つ息をついた森下くんが、自分の生徒手帳を開い
て、じっと見つめた。

「すっげえごっつい議論が出来るんすね」

「そうだよー。それはどんなに極端でも構わない。端から
端までいろんな考え方、捉え方をみんなに吐き出させて、
並べてみる。それから、どう収束させるかを考える。いい
勉強になるはずだよ」

「勉強、かあ」

「だって、校則なんかここにいる間しか意味ないじゃん」

「あ、斉藤先生の警告って……」

「そう。ここを卒業したあと。僕らが学生だっていう言い
訳ができなくなってから何をしないとならないか。そうい
うどやしだったんだよ」

「すげえ」

「でしょ? 斉藤先生の基本姿勢は『鍛える』なんだよ。
なまっちょろい負荷じゃ僕らのトレーニングにならない。
それが信念なんだ」

「見方が変わりそうですー」

「ははは。癖は強いけど、すごい先生だよ。しっかり鍛え
てもらって」

「先輩は鍛えられたんですかー?」

「最初っからずーっとどんぱちやってたからね。ちょっと
鍛えすぎちゃった」

わはははははっ!



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