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三年生編 第103話(9) [小説]

ぱさっ。
写真を机の上に放って、考え込む。

「うーん……」

ぽんいちの生徒は、センニンソウによく似ていると思う。
見かけの印象と中身が、必ずしも合ってないんだ。
ふわっと柔らかく見えるけど、大なり小なり毒があって、
下手に触るとかぶれちゃう。
そして学校がどんなに締め付けても、センニンソウはセン
ニンソウのままだ。

一人一人の意識を根底から変える難しさ。
瞬ちゃんの厳しいどやしの奥には、その危機感がずっしり
横たわっているように思えたんだ。

「うん」

ゆるゆるだったぽんいち。
入学した時に身も心もぼろぼろだった僕は、そのゆるさの
恩恵を誰よりもいっぱい受けることができたと思う。
でも最初のゆるさがずーっと続いてたら、きっと今の僕は
なかっただろう。

安楽校長や大野先生が僕に向けていた冷めた視線。
瞬ちゃんの容赦ないどやし。
沢渡校長との削り合い。

自力で立ち上がれないほど萎えていた僕の心の足腰を鍛え
直してくれたのは、間違いなくそういう先生たちの厳しさ
だ。

突きつけられた厳しさから目を逸らさないこと。
その時に、学校や他人じゃなくて、まず自分の立ち位置を
ごまかさずに見つめること。
全てはそこから始まると思う。

今日森下くんや河西さんに本当に言いたかったのは、そう
いうことだったんだよね。
他人事じゃないよ。最後は自分自身のことなんだよってね。

でも、それは誰かに言われて分かることじゃないと思う。
何かをきっかけにして、気付くしかないんだ。
だから、僕は今日そのタネを播くことしかできなかった。

ずーっとセンニンソウのままじゃ、つまんないだろって。

「がんばってね。森下くん、河西さん」



senn.jpg
今日の花:センニンソウClematis terniflora



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