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三年生編 第101話(3) [小説]

バスから電車に乗り換えて、一回乗り換えしてトータル一
時間半、か。
遠いっちゃ遠いし、電車だけで辿り着けるんだから近い方
でしょって言われれば、そうかなとも思う。

実生がもしぽんいち落ちれば通うはずだった柾女もドア
ツードアなら一時間はかかるから、そんなに大差はない。
自宅からどうしても通えないってことはないんだ。

でも僕は、往復三時間の電車の中の時間をすごく無駄だと
感じるだろう。
それだけあるなら、ただ荷物みたいに運ばれる
だけじゃなくて、もっと有意義なことに使いたい。

自宅から通えば下宿代が浮くって言っても、通学定期はそ
んなに安くないはずだし、バイトやらなにやら考えたら、
どうしても家に出入りする時間が遅く、かつ不規則になる。
家族にも心配や迷惑をかけることになるんだ。
それはちょっと……ね。

電車の中で、ぶつくさ言いながら県立大のパンフを見てい
たら、ずっと窓の外の景色を眺めていたしゃらがひょいと
振り返った。

「ねえ。いっき」

「うん?」

「バイオやるって言ってたけど、それってどんなことする
の?」

「ううー」

聞かんといてくれ。

「それが分かれば、もっと勉強に身が入るんだけどさー」

「ええー?」

「いや、大学のパンフじゃ、そこらへんはさらっと流して
あって今いち……」

「ふうん」

「で、今日のオープンキャンパスで、そこらへんを聞いと
こうと思ったの」

「じゃあ、その内容次第で、変更もありってこと?」

「変更の可能性ゼロじゃない」

「うん」

「でも、よほど強烈に絶対嫌だと思わない限りは、変更し
ないかなあ」

「へー。どして?」

「前も言ったけど、こつこつ積み上げるやり方が、自分に
向いてるかなあと思うから」

「そっかあ……」

「面白いでしょって言われて、その外見の華やかさに捕
まっちゃうと、中身を知った時にギャップが……ね。そし
たら、がんばろうっていう気力をなくしそうでさ」

「発想がすごいなー」

「いやあ、予備校の先生にも言われたんだけど、僕の決め
方は不器用だと思うよ」

「ふうん」

「絶対に動かさないっていうポイントはぎりぎりに減らし
ておいて、行く先々で軌道修正した方が楽だよって」

「うん」

「それが……どうしても嫌」

「あはは。いっきらしいなあ」

「そう?」

「器用で柔軟なように見えるけど、こだわりだしたらも
のっすごい頑固」

「そうかも」

「いっきの部屋に行くたびにそう思うもん」

「ふうん」

「最初の殺風景だった頃から、ほとんど変化してない。自
分が認めたものしか置きたくないっていうすっごいこだわ
り」

「確かにそう」

「そういういっきの側にずっと居れるってこと。わたし
は……ラッキーだなあって思う」

ううう。
制服着てなきゃ抱き寄せたいところなんだけどなあ。
とほほ。



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