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三年生編 第112話(5) [小説]

モニュメントを背に、アプローチを見つめる。
真っ直ぐではなく揺れ動くように配置された行雲流水型の
鋪道。
人の流れは水盤に集められ、水盤から先は果てがなくなる。

「出ていくではなく、飛び立つ……か。滑走路なんですね」

「まあ、そういう見方もできるな。多分、わたしもそうな
る」

先生が目を細めて中庭の向こうを見つめた。

「ちぇ。ここは拾うのが楽だったのになあ」

なるほど、そういうことか。
えびちゃんと中沢先生。同期だから赴任してからの期間が
同じ。結婚もほぼ同じタイミングになった。
妊娠、出産のタイミングが重なるからどちらかが動かされ
るだろう。先生は前にそう言っていたんだ。
動くのが……先生の方になるってことだね。

鈴ちゃんたちがバージョンスリーを考える時に、一つハー
ドルが増えたかも。
でも、鈴ちゃんが顧問をどうするかで思い悩むことはない
だろう。
それは、鈴ちゃんだけの仕事じゃないから。

束ねられた花束は少しずつ解けていく。
それは……新しい花束を作るためにどうしても避けて通れ
ない。
いろんなことを記憶に刻む学園祭になりそうだ。

「じゃあ、僕は帰ります」

「御園さんによろしく」

「へいへい」



zac.jpg
今日の花:ザクロソウTrigastrotheca stricta


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